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劇場版 YOASOBI 5th ANNIVERSARY DOME LIVE 2024 "超現実"
YOASOBIには長々とライブをやるイメージがないのに本作は2時間38分(KINENOTE準拠)もあるということに驚いた。
5周年ライブだから企画が盛り込まれていて通常のライブより長いとしても長すぎではと思った。
テイラー・スウィフトのキャリア集大成ツアーの映画化作品「THE ERAS TOUR」の2時間49分よりほんの少し短いだけだ。
本作が長尺になった理由は2つ。
まずは、本編とアンコールの間にドキュメンタリー、要はメイキング映像(舞台裏)が挟まっているからだ。ダラダラとアンコールの掛け声や手拍子が続く会場の雑観を見せるよりは確かに見る意義はあると思う。本公演はAyaseが演出面にも結構関わっているということが分かる貴重な映像だった。
もう一つの理由は曲間のMCや場面転換をほぼそのまま流しているからだ。テイラーの映画はこの辺はバッサリと切っていた(全カットではないが)。テイラーのTHE ERAS TOURの日本公演を見たが公演時間は3時間を超えていたが、映画版は映画として見た時にダルいと感じるこうした場面を短くしていた。
しかし、本作はお色直し(衣装チェンジ)の際に会場で映像を垂れ流しする場面もそのままだ。流すなら、会場スクリーンに映っているものの再撮でなく、元の映像を画面トリキリで見せるべきだと思う。WOWOWで放送したり配信したりする際はそれでもいいが、通常より高い入場料を取る劇場版なんだから、それくらいのことはすべきだ。
あと、メンバーから観客に対して出すクイズのコーナーは現場で見ている分にはいいけれど、映画館で見るとダルい。いくら、次の曲ふりに利用しているとはいえ、ここはバッサリと切って良かったと思う。
ライブ自体についても触れておこう。セットリストはちょっと王道から外れたものとなっていた。
初の東京ドーム公演(コールドプレイの“前座”としてステージに立ったことはあるが)だし、周年コンサートだしということを考えると、普通は最大のヒット曲であり、YOASOBIをよく知らない人でも認知している“アイドル”はオープニングもしくは本編ラスト、そうでなければ、アンコールの1曲目かアンコールも含めた“本当に本当の”最後に披露されるタイプの楽曲だ。盛り上がるしね。
ところが、この公演では本編の後半戦に入ったちょっと後に披露された。自分たちは“アイドル”だけじゃないんだよというアピールなのだろうが、5万人規模の観客を動員するライブとしてはちょっと意表を突いたセトリだったと思う。
そして、気になった楽曲もあった。“HEARTBEAT”のパフォーマンス中、スクリーンに歌詞が映し出される演出があった。その際、画面には“右向け右”という部分だけがはっきりと映し出された。
YOASOBIはNHKのキャンペーンに楽曲を提供したり、岸田訪米時の夕食会に招かれたりしていたので、この“右向け右”という言葉だけを見ると、左翼思想を否定し、日本人なら右派政党を支持しろという洗脳、プロパガンダにも思えてしまう。HEART、つまり、心臓が左にあるから心臓から見たら体の多くの部分が右にある。なので、きちんと体の反対側にも気を配ろうねと言っているだけなのかも知れないが…。
しかし、その後の歌詞をよく調べてみると、“右向け右”の部分は正確には“右向け右の通りにはみ出さないように揃えられた僕を取り残したままで”と言っていることが分かる。全然、右派の洗脳、プロパガンダではなかった。というか、右派=自民党政権の言いなりになり支持し続けるだけでいいのかという疑問を呈する非常にメッセージの強い内容だった。
YOASOBIは大人気だから、ファン層って陽キャ、パリピが多いのでは思いがちだが、画面に映し出されたファンの顔触れを見ると男女問わず、結構、地味だったりする。ネトウヨでもパヨクでもないが、周囲が自民を支持しているから、野党の支持を表明すると変な人と思われるからという消極的な理由で自民に投票したり、そもそも投票に行かなかったりという人たちだ。
Ayaseはタトゥーを見れば分かるように本来は反権力的な思考を持っている人物なんだなというのを再認識させてくれた。
それにしても、YOASOBIの楽曲ってアイドル現場でおなじみのコール・MIXが入れやすい曲ばかりだよね。実際に入っているわけではないが、以前、さいたまスーパーアリーナで見た公演ではアイドル現場でおなじみのペンライトを使った応援をしたり、落ちサビでケチャをするファンがいたのも納得だ。
YOASOBIはアニメ関連のタイアップも多いから、放っておくとアニソン歌手扱いされてしまう可能性もある。
オタクに媚びてウヨっぽい思想の楽曲で食いつなぐなんてことはしたくない。だから、K-POPなどの現場でおなじみの主催サイドで全観客が発する色を強制的に制御できる、いわゆるフリフラを使ったんだろうなと思ったりもした。
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