見出し画像

THE GUILTY/ギルティ

ウォルター・ヒル監督作品のような男くさい、野郎臭がプンプンする映画というのは世界的に受けにくくなっているのだと思う。
日本では20代女性を動員できない映画はヒットしないし、米国では過度なリベラル思想・フェミ思想によって、男の美学を前面に出したような映画は古い価値観の作品扱いされてしまう。

そんな中、孤軍奮闘していると言ってもいいのがアントワーン・フークア監督作品ではないだろうか。

ここ最近の「イコライザー」シリーズ、「マグニフィセント・セブン」、「サウスポー」という彼の監督作品のタイトルを列記しただけでも男くささは漂ってくると思う。

豊洲など新興住民が多い地域ではなく、新宿や池袋、錦糸町なんて辺りで見た方が雰囲気が出るタイプの作品だ。

銀座地区で見るなら、TOHOシネマズ日比谷ではなく、丸の内ピカデリーの方が合う。そんな感じかな。

そんなフークア監督の新作が配信映画になるらしいという情報は何となく仕入れてはいたが、その作品が配信開始を前に劇場上映されるという情報が突然入ってきたので、このチャンスを逃す手はないとして慌てて見にいくことにした。

これまでに劇場上映されたNetflix映画同様(劇場用に再編集した「日本沈没2020」は除く)、イオンシネマやアップリンクを中心とした邦画大手3社系以外の劇場での上映となっている。

しかも、2年前の「アイリッシュマン」や「マリッジ・ストーリー」、去年の「シカゴ7裁判」や「Mank/マンク」などのようないかにも賞レースを賑わせることが期待されているような作品には見えないから、上映館も都内では3館(23区内だと1館)しかないし、上映回数も少ない。

そして、その23区内唯一の上映館も1週間限定の上映予定となっている。なので、他のどの作品よりも優先して、これを見なくてはという気持ちになった。

ところが実際に見てみると、これは賞レース向きの映画だった。そりゃ、配信開始に先駆けて劇場上映するわけだ。

まず、ほぼ出ずっぱりのジェイク・ギレンホールの演技が素晴らしい!

主人公の警察官は何らかの理由で現場を外され、緊急司令室のオペレーターをやっている。また、妻や娘とは別居状態だし、マスコミにもしつこく追い回されているようだし、体調も良くないようだ。そして、これらの諸事情と結びついているのだろうが、この日の勤務が明けたら裁判への出廷が義務付けられているようだ。

そんなトラブル続きで失意にある主人公が、ある通報の対応をしている際に、その通報してきた女性にも自分と同じように幼い娘がいることから感情移入してしまい、親身になって対応しているうちに間違った判断を下してしまい、最終的には過失とはいえ、自分が犯してしまった罪を告白するという内容だ。

ほとんどの場面が司令室で展開され、モブ的な人物を除くと主人公以外の主要キャラクターは声のみの登場で、事件の謎を解明するとともに、観客には主人公の過去も明かされるという設定で話題となったデンマーク映画のリメイクだ。

本作は、ネトフリ映画となり予算もアップし、それなりにヒット作や傑作を連打している監督がメガホンをとり、実力も人気もあるハリウッド俳優が主演を務めているということで、司令室以外の場面が多少登場したり、音楽がつけられたりはしていて、オリジナルの持つ独自性が失われてしまっているのではないかと思われる要素もあるが、米国映画として考えれば、驚くほど削ぎ落とされたシチュエーションではあると思う。

諸事情を抱えた主人公を演じたジェイク・ギレンホールの演技以外にも本作が賞レース向きだと思った理由はある。それは、警察官の主人公の犯した“罪”が告白される場面だ。

本作の主人公の警察官の勤務地はロサンゼルスだ。そのロサンゼルスの警察官が、犯罪行為を行っていた者とはいえ、少年の命を奪ってしまっていたのだ。

作中では、それ以上のことは言及されてはいないが、こうした主人公の過去を知った観客の多くは嫌でも、ここ数年のBlack Lives Matter運動が起こるきっかけとなったジョージ・フロイド事件など、過剰な捜査で警察官が黒人をいためつける結果となってしまった一連の問題を想起するのではないだろうか。

主人公の警察官が“少年は悪いことをしていた。でも、自分は命を奪ってしまった”といった趣旨の台詞を言っていたが、それって、一連の警察官による黒人暴行事件の被害者のほとんどが大なり小なり犯罪行為を働いていたり、不審な行動を取っていることそのものだしね。

それに、今年は、こうした警察官による黒人暴行問題の“先駆け”とも呼べるロサンゼルスで起きたロドニー・キング事件から30年の節目の年でもある。

そうしたBLM的なメッセージが本作には込められているのではないだろうか?

男くさい映画を得意とするという面ばかり強調されるアントワーン・フークア監督だが、彼の人種は黒人だ。それに、これまでの男くさい映画の中にだって、「トレーニング デイ」など人種問題を扱った作品はあった。そう捉えるのが自然ではないだろうか。

勿論、本作は全編、ジェイク・ギレンホール以外のキャストはほとんど顔出ししていないのだから、画面(えづら)的には、野郎度が高いのは言うまでもないことだが。

やっぱり、フークア監督の作品は見て損はないよね。

「トレーニング デイ」以来の賞レースに参戦するアントワーン・フークア作品になるのかな?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?