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ロード・オブ・ザ・リング ローハンの戦い
監督は日本の神山健治だが、米国映画として製作されている。製作総指揮には「ロード・オブ・ザ・リング」3部作や同シリーズのスピンオフである「ホビット」3部作のメガホンをとったピーター・ジャクソンがクレジットされているし、映画会社は両3部作のニュー・ライン・シネマなので、一連のプロジェクトの中で作られた作品であることは間違いない。
でも、両3部作のように米国では成功を収めていない。それは一言で言えば、手描きアニメとして作られたからだろう。
近年、米国の興行収入ランキングで日本のアニメ映画が上位に入るケースが増えているし、宮﨑駿の「僕たちはどう生きるか」は第96回アカデミー長編アニメーション賞を受賞している。また、スペイン・フランス合作の「ロボット・ドリームズ」のようなシンプルな作画の作品も同年度の同賞にノミネートされた。
しかし、一般の米国人は米国産のアニメーション映画はCGアニメーションと思い込んでいるからヒットしなかったのだろう。
賞レースでの評価を別にすれば、所詮はマニア(日本で言うところのアニオタ)やシネフィルしか非米国産のアニメーションを見ないということなんだと思う。
「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」が全米興収ランキングのトップに立ったのはコロナ禍における米国映画の供給不足のため。「僕たちはどう生きるか」が同様に首位に立ったのはハリウッドの長期ストによる米国映画の供給不足のためであり、日本など非米国産のアニメーションやそうした作風のものが一般の米国人に浸透したわけでないということが本作の米国での興行成績で確認できたのではないだろうか。
ところで、日本の一部メディアは本作に関して、「ロード・オブ・ザ・リング」初のアニメ化と伝えているが、おかしくないか!
1978年に「指輪物語」というアニメーション映画が発表されていることを忘れていないか。
これはあくまで、「指輪物語」で「ロード・オブ・ザ・リング」ではないと言いたいのか?
それとも、ピーター・ジャクソンが関わったものだけが「ロード・オブ・ザ・リング」と思っているのか?
どちらも、同じ原作が基となっているし、原作の邦題は「指輪物語」だ。そして、原題は「ロード・オブ・ザ・リング」だ(正確には「ザ・ロード・オブ・ザ・リングス」)。
しかも、この78年版「指輪物語」はピージャク関連作品同様、現在はワーナー からBlu-rayなどがリリースされているし、現在の邦題は「ロード・オブ・ザ・リング 指輪物語」となっている。
初のアニメ化と書いた人は勉強不足だと思う。
それとも、外国人監督作品はアニメーションだが、日本人監督作品はアニメで、アニメーションとアニメは違うから、初のアニメ化などと言っているのだろうか?
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そんなわけで色々と不安を抱えながらの鑑賞となった。
その予感はほぼ的中した。
本作は「ロード・オブ・ザ・リング」の前日譚にあたる作品だが、同3部作や「ホビット」3部作に比べるとファンタジー要素はかなり薄い。
「ロード・オブ・ザ・リング」3部作や「ホビット」3部作に登場するキャラクターがちょこっと顔出ししたり、名前が出てきたりはするが、内容的には架空の国を舞台にした戦記ものだ。
また、実力はあるのに女性であるという理由で活躍の場を制限されているヒロイン(主人公)という設定もありきたりだ。
2時間14分という「ロード・オブ・ザ・リング」3部作や「ホビット」3部作より遥かに短い尺なのに長く感じるのはそうした凡庸な内容によるものだと思う。まぁ、実際に長尺ではないから尿意に襲われることはなかったが。
まぁ、よくある話だけれど、つまらなくはないし、米国映画としても日本アニメとしても見られるハイブリッドな感じはしたし、ハリウッド製だから日本のアニメ映画に比べれば画もきちんと動いていたし、そこまで、ザ・手描きってほどの作画でもなかったから、米国人でもそんなに違和感を抱かずに見ることはできると思う。
なので、興行面でも批評面でもパッとしないのは凡庸な内容であることに尽きると思う。
78年版アニメーションとかぶってしまうかも知れないが、普通に「ロード・オブ・ザ・リング」3部作、あるいは「ホビット」3部作のどこかのパートのアニメーション化で良かったのではないかと思う。