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MTV Unplugged Presents: Kyoko Saito from Hinatazaka46

MTV Unpluggedという言葉に格別の思いを持っている音楽ファンは40〜50代くらいだろうか。
 
1989年にスタートしたMTVの同プラグラムは、普段は大音量でパフォーマンスするロック系のアーティストなどがアコースティックなアレンジでじっくり歌や演奏を披露することから、そのアーティストや楽曲の別の一面を見ることができるとして人気を集めた。

そして、1991年辺りからMTVアンプラグドは単なる音楽番組でなくなっていった。

この年、ポール・マッカートニーが同番組に出演した際の音源をライブ・アルバム『公式海賊盤』としてリリースした。アンプラグトが商品化されたのはこれが初めてだ。

また、この年にリリースされたR.E.M.の代表作『アウト・オブ・タイム』収録曲である“ハーフ・ア・ワールド・アウェイ”はアンプラグト出演時のパフォーマンスがそのままミュージック・ビデオ(当時の洋楽界隈での呼称はビデオ・クリップ)として使われたりもした。

そして、アンプラグトの存在が日本の洋楽ファンに知れわたるようになったのは92年のことだ。

この年リリースされたマライア・キャリーのミニ・アルバム(EP盤)『MTVアンプラグド(当時の邦題はデビュー曲をもじって『ヴィジョン・オブ・ライヴ』というダサいタイトル)収録のジャクソン5のカバー“I’LL BE THERE”が全米ナンバー1ヒットとなった。

また、同年リリースされたエリック・クラプトンの『アンプラグド〜アコースティック・クラプトン』は全米アルバムチャートでナンバー1 を獲得したのみならず、グラミー賞で最優秀アルバム賞を受賞した。

この勢いに乗って、93年以降、アンプラグド出演時の音源を商品化する勢いが加速していった。

93年
⚫︎ニール・ヤング
普段とそんなに変わらないよね?
⚫︎ロッド・スチュワート
“ハヴ・アイ・トールド・ユー・レイトリー”などシングルカット曲が次々とヒット
⚫︎アップタウン
レーベル“アップタウン”に所属する複数のアーティストによるパフォーマンス。この中からはJODECIによるスティーヴィー・ワンダーのカバー“レイトリー”が大ヒット
⚫︎10,000マニアックス
ブルース・スプリングスティーン作、パティ・スミスのバージョンでおなじみの“ビコーズ・ザ・ナイト”のカバーがヒット

94年
⚫︎トニー・ベネット 
これ以降、再評価されるようになった。アンプラグドがなければ懐メロ歌手で終わっていたと思う。最近のレディー・ガガとのコラボ作もこのアンプラグド以降の流れがあったからこそ。
⚫︎ニルヴァーナ
実質カート・コバーンの追悼盤となってしまった。生前最後のシングルとなった“オール・アポロジーズ”はスタジオレコーディングバージョンよりも、アンプラグドバージョンの方が耳なじみになっているのでは?

95年
⚫︎ボブ・ディラン
これも、ニール・ヤング同様、普段とそんなに変わらないよね系かな…

96年
⚫︎アリス・イン・チェインズ
個人的にはこの盤からシングルカットされた“Over Now”があらゆるMTVアンプラグド音源の中で一番アンプラグド化の意味があったバージョンじゃないかと思う
⚫︎KISS
これをきっかけにKISSはオリジナルメンバーが復帰。現在まで続く、やめるやめる詐欺的な懐メロオンパレードツアー中心の活動になったのはこの成功があったからとも言える。もし、アンプラグドが評価されなければKISSはコンスタントに新譜を出すバンドになっていたのだろうか?
92年リリースのアルバム『リヴェンジ』は旧来のHR/HMファン、グランジ/オルタナ系双方のリスナーに好意的に受け止められているし、ベタなロック・バラード“ゴッド・ゲイヴ・ロックンロール・トゥ・ユーⅡ”は90年代以降のKISSのシングルではマイケル・ボルトン作の“フォーエヴァー”と並ぶ代表曲になっている。
そう考えると、懐メロバンドにならず、コンスタントに新作を出す別ルートのKISSも見たかったような気がする。

そして、アンプラグドのブームは96年あたりで一段落した。
レギュラー放送は99年で終了し、その後は不定期な特別番組扱いとなった。

一方、日本ではここ最近になってからの方が積極的に展開されている。MTVジャパンが特に力を入れているのがアイドルのアンプラグドだ。

まぁ、日本のアイドルのみならず、K-POPでもやっているけれどね。BTSのアンプラグドはどこがアンプラグトなんだって感じだったな…。アコースティック要素はほんのわずかだったしね。

日本のアイドルの話に戻るが、国産アイドルではこれまでにももいろクローバーZや生田絵梨花(当時は乃木坂46メンバー)などがMTVアンプラグドに出演している。
また、MTVジャパンは日向坂46が好きなのか、これまでにも、グループではStorytellersというトーク&ライブ番組、齊藤京子のソロではカバー曲を披露する特番「MTV LIVE SESSIONS Kyoko Saito from Hinatazaka46」を放送している。

MTVは日向坂が好きだし、乃木坂を代表する歌唱メンバーだった生田絵梨花がソロでアンプラグドをやったのだから、日向坂を代表する歌唱メンバーであるきょんこがソロでアンプラグドに出演するのも流れ的には自然だ。

ただ、あくまで番組の公開録画なのに入場料を取るのはどうなんだろうかと思った。抽選でファンを招待する形でいいのでは?番組収録観覧チケットと言っておきながら金を取るのはどうなのよって感じだ。

それから、ぴあアリーナMMという会場もアンプラグドには不向きだと思う。テレビ局のスタジオとかライブハウスくらいの会場でやるものだよね。
せいぜい、Zeppとかのライブスペースくらいがマックスでは?

入場料を取ったり、大きな会場でやったりと金儲けに走り過ぎていて、本来のアンプラグドの趣旨からズレまくっていると思う。

そもそも、秋元系アイドルのライブというのはカラオケ伴奏のパフォーマンスがデフォルトだ。

本来のアンプラグドはそのアーティストの従来のパフォーマンスから装飾を削ぎ落としてシンプルなものにし、アーティストや楽曲の別の魅力を見せるというものだったはず。

でも、カラオケ歌唱がデフォルトのアイドルが生バンドのアコースティック演奏付きで歌うということは削ぎ落とすではなく付け足すことになるのでは。というか、ゴージャスになり過ぎでしょ!矛盾しまくりなんだよね。

同じアイドルでも、ももクロのようにバックバンドの生演奏付きでのライブが多いグループならアンプラグドにする意味はあるけれど、秋元系アイドルには向いていないと思う。

そして、実際にパフォーマンスを見たところ、こうした不安は的中してしまった。

アイドルのソロコンサートとしては上出来だったと思う。でも、MTVアンプラグドとしてはダメダメだね。

まず、音数が多過ぎる!ストリングスやホーンセクションが鳴っている時間が長過ぎるんだよね。
別にアンプラグド=アコースティックではないけれど、このコンサートのアレンジャーはエレキギターさえ使わなければアンプラグドと思っていないか?

以前、BTSのMTVアンプラグドの放送を見た時にもこんなのアンプラグドじゃないと思ったが、きょんこもアンプラグドじゃなかったね。

結局、韓国にしろ日本にしろ、アーティストやスタッフが全盛期のアンプラグドを知らないんだろうなと思った。

そして、何よりも問題なのが選曲だ。

アイドルのソロコンなら別にこのセットリストでも何の問題もないんだよね。今のアイドルはグループが多いから、ソロコンをやるとなれば、どうしてもカバー曲中心のセトリになってしまうからね。
だから、ただのきょんこのソロコンなら名曲カバー集的なセトリでもいいんだよ。

でも、これはMTVアンプラグドだからね。

MTVアンプラグドというのは、ロックやヒップホップといったラウドなサウンドを提供するジャンルのアーティストの楽曲を電子楽器を排除したアコースティックなサウンドで聞いてもらい、歌詞やメロディの良さ、歌唱力や演奏力を改めて認識してもらおうというのが本来の趣旨だったのでは?

つまり、そのアーティストの代表曲と呼ばれるヒット曲や名曲に最新曲を混ぜるのが理想のセットリストということだ。

カバー曲ばかりやっていたのではそのアーティストの楽曲を再発見することはできないよね。

過去のアンプラグドでは自身のレパートリーにプラスして、あるアーティストにとっては意外に思えるような、別のアーティストにとってはなるほどと思えるような、ルーツが垣間見るカバー曲をちょこっと混ぜるから意味があったんだよね。

ストリート系なワルというイメージがあったJODECIがスティーヴィー・ワンダーを取り上げたのはちょっと意外にも思われたけれど、のちに、メンバーのK-CI & JOJOがデュオグループとして活動した際には、スティーヴィーに通じる美メロ路線だったことを考えれば納得できる選曲だしね。

また、マライアが自分が生まれた頃にヒットしていたジャクソン5をカバーしたのも自分の潜在意識にあるルーツと言ってもいい。

ニルヴァーナによるデヴィッド・ボウイのカバー、“世界を売った男”はオリジナルを知らない人にとっては彼等のオリジナル曲のように感じたと思うが、これもニルヴァーナのルーツが見える選曲だったと思う。

でも、カバー曲中心のセトリでは、普段歌っている日向坂の楽曲の新たな一面を発見するのは難しいんだよね。このセトリだと、きょんこって秋元系アイドルにしては歌唱力があるよねという評価がされるだけで、日向坂の楽曲の再発見・再評価にはつながらない。企画倒れと言わざるを得ないと思う。

そういえば、ちょこっとだけ歌ってくれた日向坂ナンバーだけれど、“僕なんか”の曲フリで、“バラードのアレンジにしました”と言っていたのは何?この曲って、元々バラードでは?

あと、MCから声出しの声援や拍手はいいけれど、コールはダメと言われていたのに、コールしていたオタクはなんなんだろうか?

結局、きょんこも周囲のスタッフもファンもMTVアンプラグドを知らないってことなんだろうね。

MTV側は日向坂のメンバーを出せば契約者が増えるし、公録も入場料を取れば金になるから本来のコンセプトなんてどうでもいいって感じになっているよね。
単なる公録で正味1時間半もない内容でチケット代7700円はぼったくりだと思うけれどね。

というか、このコンサートってうたコンだね。
谷原章介カラーのないうたコン!

うたコンって人気アイドルに懐メロを歌わせたり、大御所歌手のバックコーラスをやらせたりして、最後にオマケみたいな感じで新曲を歌わせるというパターンをよく見かけるけれど、このきょんこのアンプラグドのセトリはこれに近い感じだ。

秋元系アイドルが出た時も生バンドの伴奏付きになるから、通常のスタジオレコーディング版より音がゴージャスになるのも同じ。

うたコンの公録を見たと思えば、そんなに不満はないのかな?

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