珍しく映画ファンが納得できる結果になった「第45回日本アカデミー賞」
毎年毎年、批判している日本アカデミーだが、実は最優秀作品賞候補である優秀作品賞受賞作品5本全てを劇場で見ているのは今回が初めてのことだったりもする。というか、テレビ放送やビデオソフトなどでの鑑賞を含めても優秀賞作品賞5本全てを見ているのは今回が初めてだ。
おそらくそうなった最大の理由は邦画の鑑賞本数が増えたことだと思う。
2020年がスタートした時点ではまだコロナ禍ではなかったが、2021年は丸々1年がコロナ禍だった。そして、コロナの影響で外国映画、特にハリウッド作品の供給が停滞した。とはいえ、映画館が営業していれば、映画館に出かけてしまうのが映画ファンの性なので、鑑賞作に邦画が増えたのは必然のことでもあった。
勿論、今回の5本がたまたま、自分好みの作品、あるいは自分が興味を持つ俳優や監督の作品だらけだったという偶然もあるとは思うが。
ちなみに、毎回文句を言う最大の理由は日本レコード大賞にも言えることだが、最優秀賞の候補作品や候補者をノミネートと呼ばず、優秀賞受賞作品とか優秀賞受賞者としていることだ。
これには、日本の芸能界には、“あの人が受賞して、何故、自分やうちの誰々は受賞できないんだ?”とか言う人間が多いから、全員受賞者にしてしまえば、理不尽なクレームが減るというのが大前提としてあるのだとは思う。
また、全員受賞者にすれば、テレビ放送される授賞式に“候補者”が出席してくれる=視聴率上昇につながるという目論見があるのも間違いないと思う。
でも、それだと、本気で受賞作や受賞者を選んでいるようには見えないんだよね。結局、全員受賞者だから、単なる仲良しこよしサークルのパーティーにしかならない。
そんな毎回、受賞結果に不満や不安しかない日本アカデミーだが、今回は驚くことに、シネフィルや批評家なら文句を言う人はほとんどいないという結果になってしまった。
まぁ、文句を言う人がいるとすれば特定の俳優や作品のファン、もしくは、賞レースに絡むような映画を全く見ない人くらいだと思う。あるいはミニシアター系以外の映画を認めない、自分をミニシアター系業界の人間のように思い込んでいる層とかかな。あと、韓国人が重要な役で出てくるし、ラストシーンも韓国推しだから、ネトウヨはそれだけで反日映画って言いそうだが。
2000年以降、前年度までに本家のアカデミー賞の外国語映画賞(現・国際映画賞)にノミネートされた日本映画は「たそがれ清兵衛」、「おくりびと」、「万引き家族」と3本あるが(ちなみに、「おくりびと」は本家の外国語映画賞を見事受賞)、いずれも日本アカデミーの最優秀作品賞を受賞している。
だから、間もなく授賞式が行われる本家の国際映画賞にノミネートされている「ドライブ・マイ・カー」が日アカの最優秀作品賞を受賞したのは当然といえば当然だと思う。
また、本家の監督賞候補でもある「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介がこちらで最優秀監督賞を受賞したのも納得だ。
最優秀主演男優賞に関しては、「すばらしき世界」の役所広司の前評判が高かったし、個人的には「護られなかった者たちへ」の佐藤健を推しているが、作品の勢いを考えれば、「ドライブ・マイ・カー」の西島秀俊という結果に文句はないと思う。
最優秀助演男優賞は「孤狼の血 LEVEL2」の鈴木亮平が受賞したが、この部門に関しては彼以外はありえないと思う。キネ旬だって、彼が受賞しているしね。
最優秀助演女優賞は、「ドライブ・マイ・カー」の三浦透子が何故か候補である優秀賞受賞者に入っていなかったので、この面子で選べば、「護られなかった者たちへ」の清原果耶しかないと思う。実際、清原ちゃんは他の賞でも受賞しているしね。
まぁ、唯一、演技部門でどうなんだろうと思うのは、最優秀主演女優賞だけれど、候補である優秀賞受賞者の顔ぶれから消去法で選べば、「花束みたいな恋をした」の有村架純にしかならないから、まぁ、妥当かなという気はする。
最優秀アニメーション作品賞は「シン・エヴァンゲリオン劇場版」が受賞したが、去年最も日本でヒットした映画であること、そして、テレビシリーズ、旧劇場版、新劇場版、全てに連なる完結編を作りあげたということは評価できると思う。
最優秀外国作品賞は、「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」でなくて他の作品でも良かったとは思うけれど、コロナ禍になってシネコンから遠ざかっていた中高年をこの作品限定とはいえ、呼び戻すことに成功したこと、そして、ダニエル・クレイグ版ジェームズ・ボンドシリーズの完結編ということを考えれば、まぁ、これでもいいのかという気もする。
というわけで、作品、監督のみならず、俳優部門も含めて、日本アカデミーの受賞結果に対して、多くの映画ファンが納得する珍事となってしまった…。まぁ、選ぶ側の方でも徐々に現実に即したものにしようという改革が進んでいるのかもしれないな…。