劇場版オトッペ パパ ・ドント・クライ
アイドル的人気を誇る声優の“寿命”は短い。正確に言うと、アイドル的人気のピークが過ぎた後、脱アイドル化に成功した人のみが演技派とか個性派の人気声優として生き残れるという感じかな。
だいたい、声優が歌手・アーティストとしてデビューしても、コンスタントに楽曲をリリースし続けている期間というのは、せいぜい5〜6年がいいところで、短いと2〜3年なんてこともある。
最近、花澤香菜はレコード会社を移籍し、アーティスト活動を再開させているが、それは、恋愛発覚や結婚によるガチ恋系の客離れを差し引いても演技力で声優として有無を言わせない存在になり、アイドル的な枠組みから外れたからだと思う。
コンスタントに音楽作品をリリースしていた時期は、やたらとCDショップがプッシュし、アーティスト的なイメージを出そうとしていたけれど、実際はアイドル的人気だったんだよね。恋愛発覚以降は新曲を出してもセールスは下降気味になっていったわけだしね。
だから、コンスタントに音楽作品をリリースしていた期間は歌手デビューから、恋愛発覚までの5年間くらい。まぁ、その後、リリース量は減りながらも2年くらいは歌手活動を続行していたけれどね。
そして、今年、久々の音楽作品を配信シングルとしてリリースした後、レコード会社を移籍して2年半ぶりのCD(前回はアルバム)、CDシングルとしては実に3年ぶりとなる新曲をリリースするに至ったのは、先述した通り、恋愛や結婚などでファン離れが起きるような存在ではなくなったということなのだと思う。
要は同じような恋愛・結婚によるファン離れを一度は経験しながらも、本業の声優としての演技力や、声優アイドルの枠組みをこえたアーティスト活動が評価されて、根強い支持を集めている坂本真綾のような存在になったのだと思う。
まぁ、最近は声優の恋愛や結婚に関しては、ひと昔前に比べればファンもかなり寛容的になったとは思うけれどね。
とはいえ、それでも、20代半ばくらいまでだと、ガチ恋系のファンが多いから、ファン離れは起きやすいと思う。
鬼頭明里は「鬼滅の刃」があるから仕事に困ることはないが、彼女はアイドルアニメの「ラブライブ!」シリーズにも関わっていて、ガチ恋系オタクも多いから、恋愛発覚によって、アイドル的な人気は低下するんじゃないかなとは思う。
要は30代目前になったら、今は恋愛や結婚くらい認めてあげようよっていう風潮になったんだと思う。そして、恋愛発覚・結婚後でも、多少の冷却期間はあるにせよ、需要がある人ならば、音楽活動も継続・再開していけるという流れになっていっているのだと思う。
坂本真綾とか花澤香菜は、“全盛期”にCDショップがアニソンではなく、邦楽として、しかも、サブカル系アーティストに近いテイストでプッシュしていたから、音楽活動が継続・再開しやすいってのはあるのかもしれないけれどね。
一方、アニメ・アニソン界隈以外にほとんど広まっていない声優だと、30代に突入し、アイドル的立ち位置でなくなると、音楽作品のリリースが減ってしまうことも多い。
結局、アイドル的立ち位置の時は、何を出しても売れるが、30代になるとそういう立ち位置ではなくなってしまう。だから、ガチ恋も減り、恋愛や結婚に寛容なファンのみが残るって感じなのかな?
そして、その時点で、アイドルではなく歌手・アーティストとして需要がある人は、結婚していようがいまいが、恋愛報道があろうがなかろうが、音楽活動を続けられるって感じなのかな。
本稿の主役・井口裕香は33歳とされているので、年齢的・キャリア的に、そうした正念場に立たされているのだと思う。
自他ともに認める人妻キャラではあるものの、特に恋愛報道などもないし(自分が知らないだけ?)、ガチ恋オタだって、まだまだ結構いそうなのに、最近は歌手活動がペースダウンしているのは、やっぱり、アイドル的人気を集めた女性声優の多くがぶち当たる“30歳の壁”のせいなんだろうね。
彼女は去年アルバムをリリースしたけれど、収録曲の半分は既発のシングルだし、初回生産盤にはこれまでのMVをまとめたBlu-rayが付属していたりもしたので、実質的には音楽活動の一区切り記念のベスト盤みたいなものだから、コンスタントに音楽作品をリリースしていた時期ということでいえば、2019年までということになるのかな。
本格的に歌手活動を始めたのが2013年2月リリースの「Shining Star-☆-LOVE Letter」だから、コンスタントに音楽活動していた時期は6年半ほどということになる。だいたい、アイドル声優の人気保持期間のマックスって感じかな。
まぁ、彼女はラジオのアニソン番組「こむちゃっとカウントダウン」で歴代最長となる10年間もアシスタントを務めていたので、2019年春に番組を卒業したことから露出が減り、ファン離れが起きたというのもあるとは思うけれどね。
ところで、声優としての彼女を振り返ってみると、知名度の割には主演作品って少ないんだよね。主要キャラは結構演じているんだけれどね。
特に劇場アニメの主演作品は少ない。
「劇場版 とある魔術の禁書目録 -エンデュミオンの奇蹟-」はヒロイン役だし、タイトルロールかもしれないが、決して主役ではないと思う。
「燃える仏像人間」は彼女の名前がトップに出てくるが、実写パートも含む実験的な作品だ。
そう考えると、いくら子ども向けショートアニメの劇場版で尺も短いとはいえ、今回の「劇場版オトッペ パパ・ドント・クライ」では、彼女が主演声優としてトップに名前が出ているというのは非常にレアなケースだ。
ということで、井口裕香に注目する者としては見に行かなくてはと思った次第でもある(見ていない出演映画もあるけれど…)。
ちなみに、過去に彼女のライブに行ったこともあるし、歌手活動を開始してからの歌手・井口裕香名義のCDは全て持っている。
実はかなり好きだ。
そんなわけで、テレビ版を見ていないにもかかわらず、この劇場版を見ることにした。
上映館も上映回数も少ないから、早目に見ておかないとって思ったしね。
というか、23区内の上映館がイオンシネマ板橋とMOVIX亀有しかない…。
まぁ、とりあえず、他の見たい作品はそんなに一気に上映館が減ることはないだろうから、元々上映館が少ない本作を先に見ておこうって感じかな。
テレビ版ではゆかち演じるウィンディは2番手のクレジットだったのに、今回は主演になっているというのは本作のストーリーがウィンディを中心に回っているからってことなのかな?
テレビシリーズの劇場版だと、普段の主人公以外のキャラを中心にしたストーリーの作品でも、通常の主人公をクレジットのトップに持ってくることが多いから、珍しいパターンだよね。
ミュージカル作品ということで、ゆかちの歌声はたっぷりと聞けるんだけれど、基本はウィンディ(♂)の声で歌っているから、若干、物足りなさは感じるんだけれど、エンディング曲ではアーティスト活動している時に近いゆかちの歌声を聞くことができたって感じだったかな。
それにしても、上映時間がたった60分しかない作品だったのに、エンドロールの長さがハリウッド超大作レベルだったな…。
映像に関しては、いかにもテレビのショートアニメみたいな画と、CGアニメがまじっていて、なんだかなって気がした。予算やスケジュールの都合なんだろうが、どちらかで統一した方が良かった気もするかな…。
キャストに関しては、西島秀俊が何でこういう作品に出ているんだ?不思議だなと思った。阿佐ヶ谷姉妹とか藤原紀香なんかは、こういう作品に出てきてもおかしくないから何とも思わないんだけれど、西島秀俊はテレビ版から、このシリーズに関わっているわけでしょ?謎だ…。
ストーリー自体は結構、感動的だった。泣いてしまったしね。
まぁ、ぶっちゃけてしまえば、「キッド」と「E.T.」のミックスみたいな作品だけれどね。
ひょんなことから血の繋がらない子ども(本作ではリル)を育てることになった男(ウィンディ)が、その子に深い愛情を抱くようになり、実の親が見つかった時には手放したくなくなるなんて展開は「キッド」そのものだしね。
そして、その血の繋がらない子どもが本作では宇宙からやってきた存在でもあるわけだが、そうした異星人との交流と別れというのは「E.T.」そのものだ。また、音を通じて交流する場面もあるが、それは同じくスピルバーグ監督作品である「未知との遭遇」を彷彿とさせる。
つまり、この作品って、本来のターゲットである子どもだけでなく、その親や祖父母世代も狙っているってことなんだろうね。
そして、日本のエンタメ作品にしては珍しく、真摯にシングルファーザーを描いていることにも感心した。でも、だったら両親を呼ぶ際の順番は日本式のパパ、ママではなく。欧米式のママ、パパにすべきだとは思ったかな。
舞台となっているオトッペタウンは日本ではないんだから、その辺は日本式にする必要はなかったんじゃないかなって思う。
サブタイトルが「パパ・ドント・クライ」となっているから、てっきり、ウィンディと父親の関係を描いた作品なのかと思ったが(ウィンディの父親もシングルファーザーなのかな?)、ウィンディが父親になる話だったのか…。
ところでふと思ったのだが、このサブタイトルの「パパ・ドント・クライ」って、マドンナの1986年のヒット曲“パパ・ドント・プリーチ”を意識しているのでは?
やっぱり、中高年向け映画だよね。
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