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アット・ザ・ベンチ
いわゆる熱愛報道が出て以降、広瀬すずに対する興味は低下しつつあった。というか、ブレイクした頃の照明スタッフを見下した発言の時点で印象は良くなかった。
しかし、ビジュアル面は否定できないし、邦画大手3社の主演作品ではアイドル演技の域を出ないが、助演に回った時やアート路線の作品で主演を務めた時の演技は素晴らしかったので、気付いたら前作まで22本連続で(アニメに声優として参加した作品を含む)彼女の出演映画を劇場で見るハメになっていた。
なのに、本作に関してはノーマークだった。全然、情報が入ってこなかった。たまたま、何日か前に上映劇場の前を通りかかって存在を知ったくらいだ。
元々は自主制作のWeb配信用の短編作品だったらしい。広瀬すず出演のエピソードと彼女が出演していないエピソードの計2話が配信されていたが、それに彼女が出演しているものを含めた新作3エピソードを追加し、オムニバス映画として公開したものが本作らしい。元々が短編で配信用の作品、しかも自主制作だから、この劇場版も限られた映画館でしか上映されない。だから、広瀬すず出演作品なのにほとんど情報が回ってこなかったのだろう。
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今回上映されたのは4組の演者による5つのエピソードだ。広瀬すずと仲野太賀のコンビは第1編と第5編に登場する。夕方に撮影されたので画面は暗いし、広い画やバックショットが多様されているので、正直なところ、広瀬すずの美しさ・可愛いさを表現できているとは思えない。監督の奥山由之の本業は写真家らしいが、人物の表情を見せるのは得意ではないのだろうかと思ってしまった。あと、もやしが安いだけのスーパーというフレーズが出てきたが、もやしはどのスーパーでも安い。安値を売りにしていないスーパーだって安い。監督や脚本家はスーパーで買い物をしたことがないのではと思ってしまった。
一番笑えたのは、岸井ゆきの、岡山天音、荒川良々の3人による第2編だ。ただ、テレビに映る芸能人を“あいつ”呼ばわりしただけでブチ切れる岸井演じる女性の思想は理解できなかった。単に監督や脚本家(芸人らしい)が面識もない映画ファンから“あいつ”呼ばわりされるのが嫌なだけでしょ。ファンや一般人から呼び捨てにされたり、“あいつ”呼ばわりされてブチ切れている著名人は多いが、こういう人たちって何様のつもりなんだろうかって思う。“お前ら”は誰のおかげてメシを食えているのか考えろって思う。
今田美桜と森七菜が姉妹を演じる第3編は例によって画面は暗いし、広い画が多いので女優の魅力を映像で見せるという点では失格だ。ただ、ホームレスとなった姉を演じた今田の演技は良かった。これまでの彼女の出演作品ではほとんど見ることができなかった演技派女優としての一面を堪能することができた。
草彅剛、吉岡里帆、神木隆之介らによる第4編はぶっちゃけ不要だった。
公園跡地に取り残されたベンチでくつろぐ市井の人々の話の中に役所側の人間の視点で語られるエピソードがあってもいいとは思う。また、ベンチだけが残った理由が各エピソード間ででちょっとずれているのは所詮、一般市民のまた聞きによる情報なんてそんなものという解釈で大目に見ることにしよう。
でも、役所の2人がグダグダと会話している場面をモノクロ映像にし(途中から意味不明な早口言葉で話すのも意味不明)、実はこの部分は映画か何かの撮影であるということをバラすメタな展開にして、ネタばらしをしてからはカラーになるという展開はどうかと思う。
メタな構造であることをばらしてしまったということは他のエピソードも劇中劇ですよって言っているようなものだからね。百歩譲って最終話の第5編のエンディングでやるならマシだけれど、第4編でやることではなかったと思う。
しかも、これだけにとどまらず、実はベンチの正体は宇宙人でしたとかやるんだからね。本当、他の4つのエピソードは何なんだよって思う。こういうのを面白いと思いやっている監督(このエピソードは脚本も担当)には呆れるし、このエピソードを絶賛する信者的な邦キチがいるとしたら、そうした人たちにも呆れてしまう。
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