劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン
ネット上では大絶賛の声ばかりなので懐疑心を抱きつつ鑑賞に臨んだ。
別にアンチ京都アニメーションではないし、というか、その年の年間トップ10クラスに選ぶくらい好きな京アニ映画も結構ある。
ハッキリ言ってしまえば、自分が嫌いなのは、京アニの熱心なファンだ。全員が全員そうではないが、国産アニメしか見たことがない。それどころか、邦画洋画問わず実写映画もまともに見たことがないくせに、京アニの映像表現は素晴らしいとか言う人たちが嫌いなんだよね。
京アニ信者が増えたきっかけの演出・作画の一つに「涼宮ハルヒの憂鬱」の学園祭のリアルな演奏シーンがよくあげられるけれど、別に海外アニメでは、音楽とキャラクターの動きがシンクロするなんて当たり前だしね。というか、ディズニーなんて1937年の長編第1作「白雪姫」でそれをやっていたわけだしね。海外アニメを見ない、止め画が当たり前の国産アニメしか見ない人たちにとっては見たことがない映像だったかもしれないが、それを神演出とか神作画とか言っているのが許せなかったんだよね。
京アニ作品に限らず、最近のアニメ映画でいえば、「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song」や「映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」がネット上でマンセーだらけなことにも同じようなものを感じたかな。
それから、京アニ信者に、アニメ業界どころか映像業界にも広告業界にもゲーム業界にもマスコミにも関係ない一般人なのに、まるで、アニメ業界側の人間というか、京アニの人間みたいな口調で語る者が多いことに嫌悪感を抱いていたってのもあるかな。
京アニ放火事件の時には、会社側の声明に合わせて、“被害者名を出すな”とか言っていたくせに、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝」のエンド・クレジットに被害者の名前が出ていると発表された途端、“素晴らしい!”とか言い出すし、京アニのやることは何でもマンセーするのが気持ち悪くて仕方なかったんだよね。まるで、安倍や菅のやることに何でもイエスと言うネトウヨ 、もしくは、山本太郎のやることを何でもたたえるパヨクにしか思えなかった。
なので、かなり慎重な姿勢で鑑賞したが、ネット上にあがっていた“開始早々、涙が…”という感想通りに自分もウルウルしてしまった…。というか、その後も色んなシーンでウルウルしたし、明らかに涙が流れた場面もあった。
ただ、ちょっと長いし、くどいなって思ったところもあった。ぶっちゃけ、尿意も感じたしね…。
ところで、自分は義手や義足のキャラクターって苦手なんだよね。それは、子どもの頃に、雷門に義手でアコーディオンを弾く傷痍軍人がいて、それを見て恐怖感を抱いたことがトラウマになっているからなんだけれどね。「スター・ウォーズ」シリーズは数少ない受け入れることができた例外かな…。なので、そういう理由で本作の主人公にも苦手感を持っていたのだが、実際に見たら、主人公に結構、感情移入できた部分もあった。まぁ、終盤の行動は個人的にはやり過ぎと思ったりもしたけれどね。でも、何度も“ヴァイオレットちゃん可愛い!”と思ってしまった…。
繰り返し言うけれど、自分はアンチ京アニではないから、本作を見て感動したし、映像もキレイだと思ったし、声優陣の演技にも感心しているので勘違いしないでほしい。
それにしても、本作の時代背景がメッセージを伝える手段が手紙から電話に移っていく頃となっていることについて、ネット上では、“世界的には時代遅れになった手描きアニメの伝統を守り抜く日本を想起させる”みたいな意見も出ていたが、本作の感動的なシーンでは電話が重要な役割を果たしていたんだよな。つまり、新しい技術を習得するより伝統の技術を研鑽する方が大事だと思っているのは90年代半ばくらいで時間が止まってしまった日本のアニオタだけで、作っている側はオタがそうだから多少は合わせてやってはいるが、本音ではもう、そんなことをやっていたら未来なんてないってことを理解しているのではないかと思ったりもした。
それにしても、本作は良くできている。日本の映画界は、本作がテレビアニメの劇場版、しかも、ファミリー向けでなく深夜アニメだし、キー局幹事の作品でもない、だから、国内外の映画賞や映画祭ではプッシュする気はないのだろうが、この作品って、まるでミニシアター系で公開されるヨーロッパ映画のようなテイストがあるんだよね。だから、きちんとアピールすれば海外映画賞のアニメ部門ノミネートとかされてもおかしくないと思うんだよな…。
ただ、アニオタはミニシアター系洋画に興味がないし、ミニシアター系作品を絶賛するシネフィルは深夜アニメの劇場版を見下しているから、せっかくの作品を共有できないんだよな…。
まぁ、ヴァイオレットちゃんと少佐や社長との関係がロリ扱いされると、リベラル・フェミ的視点では叩かれる可能性もあるから楽観視はできないけれどね…。
最後に一言。多分、自分は社長にめちゃくちゃ感情移入してしまった…。