
ザ・ハーダー・ゼイ・フォール: 報復の荒野
Netflix映画が秋から年末にかけて集中的に劇場公開されるのは毎年恒例のイベントになりつつある。今年も7作品が続々と公開される。
ビターズ・エンドの配給で配信と同時に公開される日本映画「ボクたちはみんな大人になれなかった」を含めると8本だ。
東宝・東映・松竹の大手3社系の劇場が上映を“拒否”し、イオンシネマとミニシアター中心の上映になるのが通常で、都内ではイオンシネマ板橋(他のイオンシネマのサイトでも上映あり)とアップリンク吉祥寺をコア館に、作品によって、シネ・リーブル池袋、ヒューマントラストシネマ系の劇場などが加わるというのもいつも通りだ(日本作品を除く)。
でも、今年のラインナップは何か違うよねって気もするんだよね。
通常は上映されるのは日本関連作品を除けば、賞レースを賑わすことが確実視もしくは期待されている作品だからね。
こうした上映作品のうち、2019年の「アイリッシュマン」と「マリッジ・ストーリー」。2020年の「シカゴ7裁判」と「Mank/マンク」はアカデミー作品賞にノミネートされている。
今回上映される海外作品7本のうち、ジェーン・カンピオン監督の「パワー・オブ・ザ・ドッグ」とレオ様主演の「ドント・ルック・アップ」は余程のことがない限り作品賞にノミネートされると思う。
ミュージカル「RENT」の作者の伝記映画「チック、チック…ブーン!」はアカデミー賞では難しいかもしれないが、ゴールデン・グローブ賞のミュージカル・コメディ部門作品賞にはノミネートされる確率は高いと思う(ここでは、ゴールデン・グローブ賞の閉鎖性については触れないことにしておく)。
マラドーナがストーリー進行上で重要な要素となるイタリア映画「Hand of God」は各映画賞の外国語映画(アカデミー賞では国際映画)部門の有力な候補作品かもしれない。
サンドラ・ブロック主演の「消えない罪」はアカデミー作品賞にノミネートされることはないと思うが、彼女が主演女優賞候補になる可能性は高いと思う。
でも、9月下旬に劇場で先行上映された「ギルティ」と本作は違うんじゃないかなって気がするかな。
どちらも黒人監督作品だから、今のポリコレ至上主義の米エンタメ界なら賞レースで過大評価されること間違いなしみたいな発想で選んでいるのか?
確かに「ギルティ」のジェイク・ギレンホールの演技は素晴らしい。また、警察官による黒人に対する過剰な取り締まりが相次いでいる問題を想起させるような描写もある。
でも、作品自体はリメイクだし、しかもオリジナルのデンマーク版が持っていた外の様子が分からずストーリーが展開するというルールを破ってしまっている。だから、映画としての評価もこみで考えると、ジェイクのノミネートも当落線上って感じがするかな。
そして本作だ。
ジェイ・Zプロデュース作品というのは確かに今のポリコレ至上主義の米エンタメ界では大きな売りになると思う。
音楽賞レースでは彼の妻、ビヨンセを評価しなくてはいけないような風潮があるしね。
そして、実際に作品を見てみると、予想通りBlack Lives MatterとかMeTooみたいな運動を100%正しいと思っている人に向けたマスターベーションのような映画だった。
米国の黒人って、白人の監督が作った映画などに対して、“黒人の出番が少ない”とかブーブー文句を言うんだけれど、黒人の監督が作った映画やドラマ、MVって驚くほど黒人以外の出番が少ないんだよね。
敵も味方も金持ちも庶民もみんな黒人。本作のような時代ものでも出てくるのは黒人ばかり。白人なんてモブキャラか悪役でチラッと出てくるだけだからね。本当、歴史修正主義もいい加減にしろってレベルだ。
というか、こういう言い方をすると人種差別主義者扱いされるかもしれないが、アジア人の自分には黒人だらけの話だと登場人物の区別がつかない…。
この作品では、さんざん白人をモブキャラ扱いにしておきながら、終盤にわざわざ、白人だらけの町の銀行を襲うシーンを入れているのは、白人がうちのめされる様子を見て喜ぶ黒人たちのためのサービスなんだろうねって気がする。
襲撃するために銀行に入った黒人を嘲笑う白人たちの描写を入れた後に、あっさりと襲撃に成功するシーンを入れるのはそういう意図があるとしか思えないしね。
また、男装している女性用心棒が登場し、この用心棒がラストで仕えている女主人とキスするシーンを入れているのは、あからさまなLGBTQの動きに同調していますというアピールだろうね。
ヒップホップ系アーティストを中心にした米黒人エンタメ界というのはどちらかというと、同性愛者を差別する傾向が強いが、最近は、さすがに黒人のやることは批判してはいけないという同調圧力が強い米エンタメ界でも、同性愛者や女性を差別する黒人に関しては批判しようという動きが高まりつつあるから、そういう対策もしてますよと黒人側としてはアピールに必死なのでは?
あれだけ、超ロングランヒットになっているデュア・リパの“レヴィテイティング”も、最も人気のあるバージョンであったリミックス・バージョンには同性愛者に対する差別的発言をしたダベイビーがフィーチャーされているということで、このバージョンをなかったものにしようとしているくらいだからね。
だから、こうした黒人やLGBTQの主張は全て正しいみたいな風潮にのっとり、この映画を批判できないような雰囲気が醸成されてしまえば、賞レースに参戦する可能性もゼロではないと思う。
でも、個人的にはそんなに絶賛できる映画だとは思わないけれどね。まぁ、日本人が舞台で外国人を演じたようなものとして見れば、そこそこ楽しむことはできるけれどね。
ところで、作品のタイトルだけれど、絶対にジミー・クリフ主演映画および同名主題歌の「ザ・ハーダー・ゼイ・カム」を意識しているよね?
本作のサントラ曲のうち、何曲かはレゲエテイストの楽曲だったから、間違いないと思う。