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キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩

第二次世界大戦下のナチスドイツによるユダヤ人虐殺を描いた映画は無数にある。
そうした作品の中には、アカデミー作品賞受賞作「シンドラーのリスト」をはじめとする非ユダヤ人がユダヤ人を匿う話も多い。
また、カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した「戦場のピアニスト」など戦火を生き抜こうとする音楽家や芸術家を題材にした作品も多い。

だから、第二次世界大戦下のポーランド(現在はウクライナに属する地域)を舞台に、ユダヤ人、ポーランド人、ウクライナ人の3家族が最初はぎこちなかったものの、やがて寄り添って生活するようになっていくという話も目新しくはない。そして、大人よりも子どもの方が先に人種や信仰をこえてフレンドリーになるという展開もベタと言えばベタだ。あえて言えばウクライナ人が入っているのが珍しいかなというくらいだ。

また、そのうちのウクライナ一家が音楽ファミリーで、音楽を通じて他の一家とも絆を深めていく。さらに、ユダヤ人にとっては敵であるドイツ人一家にも音楽を教えるという描写もある。しかも、ウクライナ一家の父親はドイツ兵によって処刑されたのにもかかわらず、親は悪いことをしたかも知れないが子どもに罪はないとドイツ兵の息子に音楽を教えたりもする。こうした展開だけを追えば、いかにも音楽には国境はないというよくある主張をなぞっているだけにも見える。

でも、本作は単なるよくあるホロコーストものにはなっていない。

それは他のこの手の作品ではあまり主要キャラになることが少ないウクライナ人一家がクローズアップされているからだと思う。

ホロコーストもの映画における絶対的な悪役はナチスドイツだ。そして、正義の味方として描かれるのは連合国側だ。この連合国にはソビエト連邦も含まれている。大戦後、ともに連合国だった米ソは代理戦争と呼ばれる朝鮮戦争やベトナム戦争で対立し、ソ連が崩壊するまでは冷戦状態となっていた。
つまり、欧米社会にとっては敵となった。だから、多くのホロコーストもの映画ではソ連の存在感を曖昧にしたものが多いように見受けられる。

しかし、本作においては当時のユダヤ人にとってソ連はナチスドイツから救ってくれた英雄かも知れないが、ソ連(現在のロシア)は今も昔もウクライナ人にとっては悪役でしかなかったということがはっきりと描かれている。

本作がウクライナで公開されたのは今年になってからだそうだが、製作自体はエンドロールのまるシー(著作権クレジット)を見ると2020年に行われているようだ(KINENOTEでは製作年度は21年と記されている)。

つまり、ロシアがウクライナに侵攻した2022年2月よりも前に作られていたということだ。
にもかかわらず、現在進行しているウクライナ情勢にインスパイアされて作られた映画にしか見えないんだよね。

もっとも、近年では2014年にロシアがクリミアを侵攻していて、これを機に一時期は先進国扱いされていたロシアがG8(現在のG7)から外されているので、本作の撮影時に念頭にあったのはクリミア侵攻なのだとは思うが。

結局、第二次世界大戦中だろうと、クリミア侵攻時だろうと、去年のウクライナ侵攻以降だろうと、ロシアがウクライナにやっていることは変わらないということなのだろう。

ただ、本作の日本公開にあたって駐日ウクライナ大使館が後援していることは注視しておくべきことだと思う。つまり、ウクライナ側のプロパガンダになっている可能性があるということだ。

欧米を中心にした国際社会では、ウクライナが正義、ロシアが悪となっている。しかし、国別の汚職度ランキングを見ると、ウクライナはロシアよりわずかにマシというレベルだ。なので、ウクライナの主張が全面的に正しいとする映画の内容を過信するのは良くないのではないかとも思う。

※トップ画像は公式ホームページより

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