舞台「オルレアンの少女-ジャンヌ・ダルク-」
メンバー全員の人気や実力が同じレベルというグループは滅多にいない。
サザンオールスターズのように、リードボーカルがほとんどの楽曲を書いているようなバンドなら、特定のメンバーばかり注目されたとしても、そんなにファンの不満はないかもしれない。
でも、複数のリードボーカル、複数のソングライターがいるバンドであっても、そういうメンバー格差は起きてしまう。
ザ・ビートルズはメンバー全員がソロでも全米シングルチャートでナンバー1 ヒットを放っているが、これは本当にレアなケースだ。というか、アルバムチャートで見れば、リンゴだけ首位を獲得していないから、やっぱり、人気格差はあるんだよね。
こうした格差はバンドだけでなくボーカルグループでもあることだ。
ニュー・エディションは脱退してソロ活動を始めたボビー・ブラウン、ボビー脱退後に加入したジョニー・ギル、実質的にグループの顔だったラルフ・トレスヴァントはそれぞれ、ソロでも大ヒット曲を放っている。
しかし、残りのメンバー3人はソロではヒット曲を放っていない。おそらくこの3人がユニット、ベル・ビヴ・デヴォー(名前を並べただけ)として活動することになったのは、ボビーは脱退しているし、ジョニーやラルフはソロ活動で忙しい。だから、人気のない3人でとりあえず、ニュー・エディションが忘れ去られないように場つなぎでもしておこうという思惑がレーベルやマネージメント側にあったのではないかと思う。
ところが、このBBD、“ポイズン”などのヒット曲を放ち、ボビーやジョニー、ラルフのソロと比べても遜色ないほどの成功を収めたし、音楽的な評価で言えば、ニュー・エディションやボビーのソロをアイドル的なものと見ていた人たちにまで評価されてしまった。
さらに、この3人は裏方としての才覚も発揮し、アナザー・バッド・クリエイションやボーイズⅡメンのデビューにも尽力した。
つまり、BBDは人気と実力は決してイコールではないということを証明したわけだ。
本公演「オルレアンの少女」で主演を務めた夏川椎菜が所属する声優ユニット、TrySailも残念ながらメンバー格差があるグループと言わざるを得ないと思う。
声優としての人気で言えば圧倒的に雨宮天の一強といった感じだ。主演・ヒロインクラスの役をコンスタントに演じている。
声優アーティストというか声優アイドルとしての人気では、ソロでも幕張メッセなどの大会場でのライブを成功させている麻倉ももがリードといったところだろうか。
もっとも、アニソンのランキング番組「こむちゃっとカウントダウン」では、麻倉ももも雨宮天も首位獲得経験があるので、麻倉もものリードはわずかなリードといった感じかな。つまり、ソロでの首位を経験していないのは夏川椎菜だけということになる。
というか、TrySail自体も首位を獲得しているし、コロナ禍になって、腐女子の資金力が低下したせいか、こむちゃのランキングでは女性声優楽曲が上位に入りやすくなったのにもかかわらず、トラセの中で彼女だけ首位を獲得できていないのだから、人気格差があることは否定できないと思う。
しかし、夏川椎菜の実力がないというワケではない。というか、3人の中で最もクリエイティブでアーティスティックなメンバーは彼女だ。
本公演もそれを改めて実感させてくれるものだった。
確かに舞台俳優という仕事は彼女の本業ではない。だから、声量が足りないと感じる場面もあったし、明らかに噛んだと思われる箇所もあった。
でも、無言で表情のみで語る場面の演技は見事だったし、少女らしい演技や何かに取り憑かれたような演技も素晴らしかった。というか、彼女が取り憑かれた演技を得意としていることは、「マギレコ」で知っていたけれどね。
作品自体についてはメタ要素が強いなと思った。演者が一幕ごとに毎回、“第○幕”と告げたり、原作戯曲について解説したり、衣装が明らかに現代のもののシーンがあったり、ギターの伴奏がつく場面があったりと盛りだくさんだ。
純粋な歴史劇が見たい人には嫌われるかも知れないが、三軒茶屋とか下北沢あたりの小屋で演劇を見るのが好きな人には好かれる演出だと思う。ちなみに本作は三軒茶屋のシアタートラムでの上演だ。
そして、左翼思想の強い作品だと思った。
多分、最も言いたいことは、ジャンヌ・ダルクが処刑されたのは、若造のくせに、女のくせに活躍して英雄として評価されたことが気に食わない連中が嫉妬して、彼女を悪者にしたってことなんだろうなと思った。要はフェミ思想に基づいて作られた作品ってところかな。
また、本来ならジャンヌの時代には関係ないはずの、広島・長崎への原爆投下、米同時多発テロ、ロシアによるウクライナ侵攻、さらには日本の防衛費に関する言及までされているのもそうした左翼思想による演出・翻案だと思う。
おそらく、どんな英雄でも(ジャンヌ含む)戦争をした人間は糾弾すべきという思想から来ているのだろう。ウクライナ情勢を巡り、ロシアに対抗するために武力を行使したウクライナを批判する者が日本の左翼・リベラル・パヨクに多かったこととも相通じる考え方だと思う。
その一方で、平気で“め○ら”とかいう差別的な言葉を使うのも左翼っぽいよね。というか、左翼って実は右翼よりも差別主義者なんだよね。
オリジナルの戯曲通り上演するなら最初に翻訳された台本通りだから、昔は何とも思われていなかったものの今は差別的とされる言葉が出てくるのは仕方がない。
でも、ウクライナ情勢に関する言及をするくらい翻案しているんだから、わざわざ、今は不適切とされている言葉を使う必要はないんだよね。
それを使っているということは自分は差別しているという意識がないってことだからね。分かっていて、わざと差別的な言葉を使っている右翼やネトウヨよりタチが悪い。
というか、夏川椎菜目当てで見た人の多くはアニオタだと思うが、アニオタにはネトウヨが多いんだから、こんな左翼思想全開の舞台なんか見て大丈夫なのか?
《追記》
スタッフの対応にちょっと腹が立った。
入場列の作り方の説明が不十分だった。おかげで、しばらく、グッズ購入列に並ばされていることに気付かなかった。
それから、入口ではなくドアのところでチケットのもぎりをやっているから、トイレに行くなど席を外すたびにチケットを見せなくてはいけないのはちょっと不便だった。
一番ムカついたのは、普通に座っているだけなのに、スタッフに“足が邪魔だ”と言われたことだ。
きちんと自分の座席のエリア内に足を置いていたのにね。通路で演技する演出にしているんだったら、ロープを貼るとか、通路沿いの席は販売しないとかしろよって思った。ちなみに夏川椎菜がすぐ横を通り、その際に衣装が自分の体にちょっとだけ触れた。
あと、特定付きチケット購入者に特典を渡すのが終演後というのもよく分からない。ミニポスターなんだから、入場時に渡せばいいのに。これだと、万が一の理由で途中で退席せざるを得ない人とかは特典をもらえないしね。