見出し画像

マイ・エレメント

コロナ禍になってからのピクサー作品、というか、ディズニー本体も含めたディズニー系のアニメーション映画の興行成績が思ったほど伸びていない。日本ほど顕著ではないが米国でも明らかに興収はダウンしている。これは、コロナ禍に入りディズニーが配信シフトに転向し、劇場公開よりもDisney+での配信を優先するようになったことで、観客(視聴者)の間でディズニーのアニメーションは配信で見るもの、映画館の間でディズニーのアニメーションは劇場の存在を軽視するものという認識が高まった結果であることは間違いないと思う。

一方、同じ米国のメジャー系アニメーションスタジオでもイルミネーション作品はコロナ禍に入ってもヒット作品を連発している。というか、海外アニメーションがなかなかヒットしにくい日本でも好調だ。

「SING/シング: ネクストステージ」は興収31億円、「ミニオンズ フィーバー」は44億円と洋画不振と言われて久しい日本では特大ヒットと呼んでいいほどの成績をあげている。
最新作「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」なんて、日本で公開された海外アニメーション映画歴代2位となる135億円超の記録的大ヒットとなっている(1位は言うまでもないが「アナと雪の女王」)。

イルミネーションというか同スタジオ作品を配給するユニバーサル(日本では東宝東和)が、ディズニーほど極端に配信シフトに走っていないということが観客に映画館で見たいと思わせる要因になっている面はあると思う。

でも、それだけではないと思う。

やっぱり、最近のディズニー作品、特にディズニーやピクサーのアニメーション映画の過度なポリコレ描写が敬遠されているのではないかと思う。

本作も予告を見ただけで分かるように、多様な人種が平等に暮らせる社会にすべきだというメッセージを込めたポリコレ作品だ。

とはいえ、よくある黒人やLGBTQ、障害者、女性の主張が100%正しく、白人の中高年男性は悪役扱いされるというものではない。

主人公の両親がエレメント・シティという人種の坩堝の街に到着した際に入管の担当者に勝手に英語名をつけられたり、主人公の恋のお相手のリベラル的な思想と思われる一族ですら、主人公に対してステレオタイプ的なことを言ったりするという描写は、米国に限ったことではないが、ポリコレの矛盾を描いていて評価できると思う。

また、この主人公に関しても、ちょっと自分勝手なところがあるように描かれている。

なので、“どうせ、最近のディズニー映画でおなじみのポリコレ洗脳映画でしょ?”と思い込み見るのをやめてしまっている人がいるのであれば、その考えをとりあえず捨てて、試しに見て欲しいと思う。名作とか傑作と呼べるものではないが、コロナ禍になってから公開されたディズニー系の長編アニメーション映画(ディズニー本体、ピクサー、20世紀スタジオ)の中では一番見られる作品になっていると思う。

そういえば、本作の差別されている主人公一家って、てっきり黒人のメタファーだと思っていたが、実際に見てみると、これってインド系あたりの話のように感じたな。あるいは土着のしきたりのような描写もあったから、もしかすると、東南アジアとかハワイ、あるいは中南米あたりもミックスしているのかも知れないが。
というか、本作で訴えているテーマって人種差別よりも格差社会のような気がする。いわゆる親ガチャで、親が富裕層でないと子どもも成功できず、結局、親の仕事を継ぐしかないみたいなそういう社会に世界中がなっていることを描いているようにも見えた。

ただ、予告などでは火・水・土・風という4つのエレメント(属性=人種)が共存するものの、それぞれのコミュニティ間での交流が少ない社会を描いた作品とアナウンスされていたが、きちんと描かれていたのは、主人公が属する火と、恋のお相手が属する水のエレメントだけだった。ちょっと、勿体ないと思った。

同時上映の短編「カールじいさんのデート」についても一言。メッセージ性が強い作品とか、アニメーション技術が優れた作品ではないが、単純に面白い作品だった。ジョン・ラセターが追い出されてからのディズニー系アニメーション映画(ピクサーなど含む)の中ではダントツで面白かった。

いいなと思ったら応援しよう!