映画ドラえもん のび太と空の理想郷
コロナ禍になって「映画ドラえもん」シリーズの興行成績は下降傾向にある。
2020年8月公開(当初は3月公開予定)
「のび太の新恐竜」
脚本:川村元気
主題歌: Mr.Children
ゲスト声優:木村拓哉ほか
興収:33.5億円
2020年11月公開(当初は8月公開予定)
「STAND BY ME ドラえもん 2」
※正シリーズにはカウントされない作品
脚本: 山崎貴
主題歌: 菅田将暉
ゲスト声優: 妻夫木聡ほか
興収:27.8億円
2022年3月公開(当初は21年3月公開予定)
「のび太の宇宙小戦争2021」
脚本: 佐藤大(リメイク作品)
主題歌: Official髭男dism
ゲスト声優: 松岡茉優ほか
興収:26.9億円
コロナ前の2作品「のび太の宝島」(18年 53.7億円 最大のヒット作)、「のび太の月面探査記」(19年 50.2億円)が続けて興収50億円を突破していることを考えると大幅な興収ダウンと言っていいと思う。
そんなわけで本作がコロナ前のレベルに戻れるか否かは注目点だと思う。
コロナ感染を懸念してファミリー層が映画館から遠ざかってしまったことが要因とされているが、20年公開の「劇場版 鬼滅の刃」の記録的な数字を見るとそうとは言い切れないような気もする。
また、「映画クレヨンしんちゃん」シリーズは去年公開の「もののけニンジャ珍風伝」が興収20億円を記録し、コロナ前の作品「新婚旅行ハリケーン 失われたひろし」レベルの数字まで戻したのみならず、これまでに30本公開されたクレしん映画でも上から6番目という好成績をあげている(「失われたひろし」は4番目)。
「ドラ」と「クレしん」のテレビシリーズの放送時間は揃ってコロナ前の2019年10月に在宅率が低い土曜日の夕方に移動した。
そのことにより、コアな視聴者層が激減し、それが劇場版の興行成績ダウンに結びついたという意見もある。しかし、「クレしん」が復活していることを考えると、放送枠の変更による影響はほとんどなかったと言っていいのではないだろうか。
そもそも、現代の一般的な視聴習慣ではアニメやドラマをリアルタイムで見るのはツイ廃ネット民だけだから、別に放送時間なんて関係ないんだよね。
となると、「ドラ」映画不振の原因はほかにあるのではないかと言わざるを得ないと思う。
個人的には、コロナ前から顕著になっていた一般層を意識しすぎた作風にファミリー層がついていけなくなったのではないかという気がして仕方ない。
東宝としては、当初はファミリー向けテレビアニメの劇場版扱いだった「名探偵コナン」シリーズが、腐女子を中心とする若い女性に人気を集める作品となり記録的な興行成績をあげるようになったが、「ドラ」でもその路線を踏襲しようとしているように思えるんだよね。
先述したコロナ禍になってから公開された「ドラ」3作品の脚本、主題歌、ゲスト声優の顔触れを見ても分かるようにファミリー層以外の観客を動員することを狙っているのは明らかだ。
「クレしん」は以前からジャニーズや秋元系などのアイドルから小林幸子まで幅広いジャンルのアーティストを劇場版の主題歌に起用してきたし、(公開当時の)人気芸人をゲスト声優に迎えることも定着しているし、元々、ファミリー層と同様にサブガル厨にも人気があるコンテンツだ。
でも、「ドラ」は「コナン」のように女性人気を集めたり、「クレしん」のようにサブカル厨や映画マニアに支持されたりするようなコンテンツではないと思うんだよね。
にもかかわらず、今作でもその一般路線は続けられている。
脚本は「コンフィデンスマンJP」シリーズの古沢良太、主題歌は和製K-POPの NiziU、ゲスト声優はジャニーズの永瀬廉だ。劇場では1人やカップルで来ている20代女性も見かけたのでおそらくジャニオタやNiziUのファンの動員はある程度成功しているということなんだと思う。
そして実際に見てみると、非常に大人の観客を意識した内容であった。
本作の舞台は優秀で穏やかな人々が暮らす争いのない平和な楽園、ユートピアだ。
なので、最初は、乱暴なジャイアン、意地悪なスネ夫、強情なしずかといったのび太周辺の人物のいわゆる老害思想を批判する映画、つまり、左翼的理想主義に基づいた作品かと思った。
ところがすぐにそういう話ではないことに気付いた。分かりやすいくらいにユートピアの指導者が胡散臭いという描写があるので寝落ちしながら見ていた人でもない限り、本作のユートピアが全然、理想郷でないことは分かるはずだ。
そして、この話はもしかしたら、次から次へと増税など国民の負担を増やし生活を苦しくしているのに、増税やむなしという風潮を作り、国民を洗脳している政府やマスコミを批判する映画なのかと一瞬思ったりもした。
しかし、その考察はあっという間になきものになってしまった。
本作は明らかに政権側のプロパガンダだ。
戦争に反対し、市民がみな平等で、きちんと教育を受けられ、衣食住に困ることもない、そうした理想郷=ユートピアの指導者を悪人にしているということは、平和思想で人類皆兄弟的な主張を訴える左翼やリベラルを否定しているということだ。
一見、反戦映画に見せておきながら、実は反戦を訴える人を悪人扱いにするという、なかなかタチの悪い作品だ。実に巧妙なプロパガンダと言えると思う。
もっとも、平等を訴えているはずの日本共産党は志位和夫という独裁者によって支配されている政党だ。つまり、党員は皆平等ではない。志位を批判する党員は“粛清”されてしまう。そして、洗脳されて志位を批判できない党員ばかりだ。そうした現実と照らし合わせると、本作のユートピアの描写は共産党そのものにも見える。
共産党の体制に関しては野党支持者でも多くが批判している。だから、本作は必ずしもネトウヨ思想の映画とは言えないと思う。ただ、きちんとニュースを見たり、新聞を読んだりしていないでネットでかじった偏った情報しか持ち合わせていない人が本作を見ると、単に戦争反対を訴える奴は悪人だと思い込んでしまう恐れがある。非常に危険な映画と言っていいと思う。
そういえば、また、水瀬いのりが出ている映画を見てしまった…。ところで、のび太は水瀬いのりが演じたハンナは“さん付け”で呼んでいたのに、同じ外国名のキャラでもマリンバは呼び捨てだったのは何故?キャラ設定からすると、マリンバの方が年上では?まぁ、ドラ映画って外国人風キャラを呼び捨てにするの好きだからね。平和を訴えながら、バリバリ人種差別しているのは野党の政治家やその支持者、左派系メディアそっくりだね。
それから、飛行船登場シーンにロック風の劇伴を付けたのって、明らかにレッド・ツェッペリンを意識しているでしょ。本当、ドラ映画ってファミリー向けではなくなっているよね。
音楽の話をもう一つ。
NiziUによる主題歌“Paradise”はミディアム・バラードとなっていて、全然、NiziUっぽくない。
一つ前のシングルでバラードの“Blue Moon”もK-POP要素のほとんどない楽曲だったけれど、最近のNiziUって汎用型J-POPになってしまっているよね。このまま、人気下降していきそうだね。
《追記》
ドラ映画のサブタイトル、“のび太の〜〜”を英語で表記すると“〜〜 OF NOBITA”ではなく、“NOBITA'S 〜〜”なのか…。
どうでもいい話だけれどね。