過去の原稿:定点観測 考察

2011年8月

「休日ルック」を超えた、上品な男性ショーツ・スタイルの台頭

https://www.web-across.com/observe/cnsa9a000007lm5i.html

 
 先月取り上げた「クールビズ」の実態は、仕掛ける側が意図するほど浸透していないことが明らかになったが、一方で今夏の男性の休日ファッションとしてショートパンツが浸透。昨年よりも丈が短く、しかも、Tシャツに短パン+サンダルというような、かつての「お父さんの休日スタイル」ではなく、「上品なカジュアル」に変化しているので、今回注目することにした。
 実査日時は8月6日(土)昼の12時過ぎから夕刻まで。渋谷(公園通りパルコ前周辺)、原宿(明治神宮前交差点付近)、新宿(新宿駅東南口広場)の3地点で同時に観察を行った。
 対象は10代からおおよそ50代。「ショートパンツ」というトレンドの浸透率を測定するため、1時半〜2時半の1時間、各地点で、男性通行人と「男性ショートパンツ着用者」と「うち、ショーツ着用者」を測定した。結果は以下の通り。「ショートパンツ」の定義はヒザ前後ぐらいの丈のパンツすべて。「ショーツ」はヒザ上丈のショートパンツとした。
 
●渋谷:(n=976人)
男性ショートパンツ着用    17.4%   うち、ショーツ    8.5%

●原宿:(n=1,517人)
男性ショートパンツ          21.4%   うち、ショーツ    6.7%

●新宿:(n=1,094人)
男性ショートパンツ          25.0%   うち、ショーツ    1.5%
 
 「男性のショートパンツ着用者」全体では、新宿地点がもっとも多く約25%となった。そのほとんどは、ここ数年ずっと流行っている「ヒザ下丈(クロップト)」や「ヒザ丈」で、無地のチノや黒といったベーシックなものが目立った。20代だけでなく、30代、40代と幅広い年代に取り入れられており、裾をロールアップするスタイルも含め、「足首を出す」スタイルが、ある種の定番(≒失礼ではない)というところまで来ているようすが伺えた。
 一方、ヒザ上丈の「ショーツ」という最新トレンドがもっとも多く着用されていたのは渋谷地点だった。着用率は、男性通行人中約8.5%。原宿地点は約6.7%となったが、新宿地点ではたったの約1.5%にとどまった。
 また、同時に、各地点の街頭で合計約1,000カットの男性ショートパンツ・スタイルを撮影。何名かにインタビューを行いつつ、デザインやスタイル、志向性などを加味しつつ、大きく以下の5パターンに分類した。
 渋谷地点に多かったのが、太すぎない
(しかし細過ぎない)チノやカーゴのショーツ。Tシャツではなく、袖口を無造作にロールアップして着用した長袖シャツが、米カリフォルニア州のLAのセレブのような、上質なカジュアルウエアをさらりと着用したような雰囲気であることから「LAセレブ風ショーツスタイル」とした。
 「足が太いのであまり出したくないのですが、暑いので履いています」と言う27歳のフリーランスの美容師はまさにこのタイプ(写真1)。代々木の自宅から自転車で原宿の仕事場に行く前にブラブラしていて渋谷に来たと話してくれた。
 「ショーツに半袖シャツだと肌を露出し過ぎて子どもっぽくなってしまうのが嫌」で、秋に向けて先日購入したデニム地の長袖シャツ(2万円)とショートパンツ+ブーツというスタイルにすると話す。
 合わせる足下は、ドライビングシューズやカジュアルな革靴を素足で履いたり、スニーカーソックスでスニーカーを履くなど、ショートパンツを長袖のシャツと革靴でドレスアップしつつ、足首を見せてカジュアルに倒すという切妙なバランス感が特徴だ。
 原宿エリアに多かったのが、やや太目のカーゴなどのカジュアルなデザインが施されたショーツにややオーバーサイズ気味のTシャツにリュックという、「ストリート系ショーツスタイル」。復刻版のハイテクスニーカーで、ややカラフルな装いは、90年代っぽいスタイルを彷彿させなくもない。
 3地点で見られた無地のTシャツにチェックなどの柄のショートパンツに帽子や巻きもの+革靴という、大手セレクトショップが今夏提案しているスタイルを全身真似て着用する「セレクトショップ系ショーツ・スタイル」
 「暑いので短い丈のものを探していました。セレクトショップも見たのですが、ユニクロで似たようなものがあり購入しました」と言う27歳広告代理店勤務の会社員はこのタイプ(写真2)。実は台湾国籍の彼。友人3人とルームシェアしており、近い将来、台湾カフェを手がけたく、友人らと物件を探している途中だとか。
 「今年っぽいアイテムなので、秋冬も履く予定です」と話す。さらに、「これだけ足を露出しているので、スネ毛の脱毛も考えている」とも。
 3つめは、無地や柄は問わず、基本的にモノトーンで黒メガネやサングラス、ネックレス、アンクレットなどのディテールにもこだわりが感じられるモードを感じさせつつおカジュアルな、「ストリートモード系ショーツスタイル」
 「今年の4月、夏になったらショートパンツを履きたいと思って、青山に探しに行きました。ギャルソンやヨウジヤマモトなども見て、カラーにしました」と言うのは、22歳の大学生(写真3)。購入金額は4万円。インタビュー時に着用していたシャツはコムデギャルソン、オムプリュス、メガネはエフェクターなど、モード系のブランドのものばかりだった。
 先ほどの「セレクトショップ系」とは異なり、「情報に流されたくない」と発言。去年もヒザ上丈を着用していたそうで、今年も同じ感覚で着用していると話す。また、今夢中になっているのが自転車だそうで、近い将来、男友だち3人くらいで地方に行って自転車を乗り回したい、と話してくれた。
 最後は、おそらく、まだ東京だけでしか見かけないであろう、90年代生まれの「デジタルネイティブ世代」を中心に増えている、「少年っぽい男子のショーツスタイル」。かつて80年代後半には「少年アリス」、90年代後半には「フェミ男」という名称で括られた、時折浮上するジェンダーレスな価値観をもつ男子のグループが2011年にも浮上しており、女子と同じような短いショーツを着用しているのである。
 「春から秋にかけては断然ショーツを履きます。秋にはレギンスとレイヤードして履こうと思っています。いつも少しかわいい要素のある服を着ることが多いですね」と話す20歳の大学生は、まるで「王子」とでもいうような雰囲気である。(写真4)。
 「昨年の夏はヒザ丈のボードショーツを履いていましたが、今年からはショートパンツをロールアップして履きたくて、短めにして履いています」と話してくれた19歳の専門学校生もこの「王子タイプ」。(写真5)
 2週間に1回は行くほどコムデギャルソンが大好きだそうで、その理由を訪ねると、「“少年のように”というネーミングが素晴らしいと思う」と話す。
 よく読む雑誌は「ヴォーグ」や「TUNE」、「i-D」。今夢中になっているのはスケートボードで、週1回代々木公園で仲間といっしょにやっているそうだ。
 近年の定点観測における男性ファッションを振り返ってみると、女性と同じように、徐々にカジュアルなストリートスタイルから上品なプレッピースタイルへと変化していることがわかる。
 その象徴的なスタイルのひとつ、「裾をロールアップして着用するスタイル」が昨夏急増したことから、昨年8月7日(土)の定点観測で「男性半端丈(クロップト)パンツ、うちショートパンツ」というテーマで取り上げた。
 当時の男性ショートパンツの着用率は、渋谷が約12.6%、原宿が24.7%、新宿が22.8%。3地点とも今夏のショートパンツ着用者が増加していることが確認された。
 そして、昨年3地点平均約30.1%だった「半端丈パンツ」は今夏、猛暑と節電の影響もあってか、一般化。足を出すことに抵抗があった比較的高い年齢層の人や、それほどおしゃれに関心のない人(カジュアル衣料ブランドのショートパンツ+サンダルを着用している層)にまで浸透したことで、おしゃれに関心のある層は、さらに丈が短いショーツを「上品なカジュアルスタイル」へと変化させたのだろう。
 00年代後半以降、女性のショートパンツ・スタイルがすっかり定番化していった背景には、「らくちんで涼しい」という実利も大きい。そう考えると、男性のショートパンツ・スタイルも、毎夏の猛暑と節電が続く限り、ディテールにアレンジが加わりながらも、休日ファッションの新定番となりそうだ。


 https://www.web-across.com/observe/cnsa9a000007lm5i.html

 


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