過去の原稿:「日経消費ウォッチャー」

2011年7月

「クールビズ」定点観測の実施と結果と考察

 東日本大震災を受けた節電の必要性や機運の高まりから、2005年より毎夏推奨されているクールビズの開始が1カ月前倒しとなった2011年。環境省が中心となり、関連団体や百貨店、専門店、関連団体などの協力のもと、さまざまなイベントが開催され、メディアを賑わせている。
 なかでも、昨年まではNGだったポロシャツやアロハシャツをオフィスでも着用可としている他、TPOに配慮すれば、Tシャツやジーパン、サンダルなども着用してもいいという大胆な「スーパークールビズ・スタイル」が環境省から提案されたが、実際はどうなのだろうか。
 ということで、丸の内と渋谷の2つの街で「クールビズファッション定点観測」調査を行った。
 実査日時は、連休明けの7月19日(火)の朝7時〜9時に丸の内、22日(金)の7時〜9時に渋谷。それぞれ最初の約30分観察と撮影を行った後、注目すべきアイテムを選定し、丸の内では7時半〜8時、渋谷では8時〜8時半の30分間それぞれのアイテムの着用率を測定した。
 観察地点は、丸の内がJPタワーや丸の内ビルディング側の歩道から三菱ビルヂングや丸の内二丁目ビルディング側に渡ってくる男性すべてを対象(n=555人)。渋谷は、宮益坂下交差点から明治通りを原宿方面に向かう人と宮益坂上方面に向かう男性すべて(n=717人)とした。結果は下記の通りとなった(グラフ)
 まず注目したいのは、渋谷で91.3%、丸の内でも79.8%と、「上着なし」のスタイルが一般化していたことだろう。
 しかし、メディアやショップが推奨していたポロシャツは丸の内では7.2%、渋谷で2.6%と少なく、代わりに定番スタイルとなっていたのは、丸の内では半袖シャツにスーツの組下のようなスラックスのコーディネート(約34.1%)。気温の影響もあるが、渋谷では半袖よりも長袖シャツ&スラックスが多い結果となった(約30.1%)。
 シャツのデザインは白のボタンダウンが圧倒的に多く、全体的に「きちんと感」のあるクールビズスタイルが主流。アロハシャツやかりゆしウェアを着用する人はいなかった。
 ボタンの色やボタンホールだけが黒や紺だったり、襟の部分が開いたワイドスプレッドなど、ネクタイがなくてもちょっとしたデザインがアクセントになるようなシャツは、丸の内ではしばしば見られたが、渋谷では案外少なく、それよりも台襟が高めの白いボタンダウンシャツ(中にはボタンが2つのドゥレボットーニも)のシンプルながらも存在感のあるシャツスタイルの人が目立った。
 また、チノパンツは丸の内で数名見かけた程度。全員が40代以上だった。グレーやコットンのカジュアルなパンツもほとんど見かけなかった。
 一方、クールビズファッションが推奨されるなか、スーツを着用していた人は丸の内で約19.3%と案外多く、渋谷では3.8%と少なかったものの、ジャケット+スラックスのスタイル(約4.9%)を加えると8.7%とポロシャツよりも多い結果となった。
 調査時間中は各地点2、3名と少なかったが、今夏は麻のジャケットやシャツなどの天然素材でクールビズに対応しようというおしゃれ上級者も少なくない。
 地点別の特徴としては、もともとカジュアルな出勤着が認められている業種や企業が多い渋谷に勤務するビジネスマンは、あえて上着を脱いだだけのスーツファッションを好み、もともとスーツファッションが主流の丸の内においては、逆にカジュアルダウンすることがクールビズファッションとしてのポイントとなっているようだ。
 雑誌「月刊総務」(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)が4月28日〜5月10日まで企業・自治体の総務部門に在籍する個人を対象に実施したインターネット調査「クールビズ時の服装・身だしなみアンケート」によると、「クールビズを導入している」企業や団体は約67.1%で、「一部導入している」の13.2%を加えると、約80.3%が導入していると回答(有効回答者数76件中)。
 「ノーネクタイ・上着着用なし」が約83.6%と圧倒的に多く、次いで「ノーネクタイのみ・上着着用有り」が約4.9%、「ネクタイ着用・上着なし」が約1.6%、「規定なし・軽装可」が約8.2%となっていた。
 しかし、「服装に関して、規定等を明記していない企業」が約68.4%と多く、クールビズを採用する企業や団体は増えているものの、服装や身だしなみに関しての規定が整備されていないことが明らかに。そういう曖昧さも、クールビズファッションを保守的な方向へと導いているともいえそうだ。
 「“仕事着(=ワークウエア)”というある種のコスプレ感が、半袖シャツにノータイ+スーツの組下風のスラックスという服装に繋がっているのでは」と言うのは、紳士靴の専門誌「LAST(ラスト)」の編集長菅原幸裕さん。
 「近年、“仕事をしている人”というアイデンティティを表したい、または自分でも確認したい、という気持ちが高まっています。クールビズの導入で、スーツが緩やかに否定されているなか、ぎりぎりの選択がこのスタイルだったのでしょう」と分析する。
 今回の街頭調査の結果からは、業種や職種によって異なるものの、今夏のクールビズファッションは、スーツの上着を脱いだだけの、まるで“ランチタイム”のような、カジュアルになり過ぎないスタイルが主流であることが確認された。
 休日の装いがすっかりカジュアルになった今、「仕事着」を着用する行為は、日常生活から仕事へのスイッチ的な役割を担っているのだろう。そう考えると逆に、「仕事着」にはある程度の“コスプレ感”が内包している必要性があるのかもしれない。
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●写真キャプション
1〜7:渋谷
8〜14:丸の内


若い世代に多かった白いボタンダウンシャツと細身の紺のスラックス+黒い革靴の組み合わせ。よく見ると折柄で細いストライプが施されておりキリッとした印象。


ライトグレーのスラックスは麻混紡の素材のよう。茶色いベルトと革靴、ベージュのトートバッグで爽やかな印象。


台襟が高めの白い襟元がネクタイの代わりの夏のスーツスタイル。バッグのレザーストラップと革靴の茶色がカジュアルな印象。


ラペルの細いネイビーのスーツと黒の革靴+バッグは白シャツで都会的な印象。


麻のスーツに薄いピンクのシャツ+レザーのトートバッグというおしゃれ上級者は渋谷の遅い時間になり増えていった。


クールビズといわれる前からIT系企業に勤めるビジネスマンの間ではポロシャツ+コットパンツは夏の定番通勤スタイルとなっていた。


前号でも取り上げた「自転車通勤族」のなかにもサッカー地のジャケット+ショートパンツでカジュアルミックスに着こなす人を発見。


丸の内に多かった半袖の白シャツ+スラックスのスタイル。黒いボタンがネクタイ代わり。


若い世代に長袖シャツが目立った印象。黒いボタンと黒いベルト、革靴でカジュアルになり過ぎない印象。

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以前はもっと多かった印象のセレクトショップ系のスーツファッション。茄子紺のスーツにワイドスプレッドで襟だけ白いクリケットシャツでかなり目立った。

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丸の内に多かったピンストライプの紺のスーツと白いシャツ+黒い革靴+バッグは「デキる」ビジネスマンファッションの典型コーディネートの印象。

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ほんの数名しか見られなかったネクタイを結んだスタイル。上下で色や柄が異なるネクタイでカジュアルな印象。

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ボタンダウンになったポロシャツとスラックスの組み合わせはクールビズ以降登場したカジュアルになり過ぎないミックスなスタイル。

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クールビズとは関係ないが、この日たった1人だけ見かけた「育メン」の出勤スタイル。どんなに服にこだわっているよりもかっこいい印象を受けた。


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