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神戸へ弾丸旅行 〜シャチと安彦良和に出会う〜

兵庫県立美術館で9月1日まで開催されている『描く人、安彦良和』展を観に弾丸で神戸まで行ってきました。

その前日は、リニューアルした『神戸須磨シーワールド』へ。ステラとラン(シャチ)のパフォーマンスを全5公演コンプリートし、『鴨川シーワールド』の元飼育係で海洋ジャーナリスト、斎野 重夫さんが監修した「ORCA LABO」という映像ブースを堪能してきました。

ここがマジで最高で。知床半島、羅臼で見られる野生シャチを、高精度な水中カメラやドローンなどを駆使して追った15分くらいのドキュメンタリーなのですが、結局10回くらい見てしまいました。あの、「幻の白シャチ」も登場するので必見。映像作品として、DVDで売りに出して欲しいくらい。

シャチの魅力についてはおいおい書いていくとして、本題は『描く人、安彦良和』です。

僕は人並みに美術館へ行く方だと思っているのですが、せいぜい展覧会は1時間ちょい、長くても1時間半くらい見れば満足なタイプです。なので今回の『描く人、安彦良和』も1時間も見れば気が済むだろうと思って予定を組んでいたのですが、気づけば2時間半もの間、食い入るように見入ってしまって予定が大幅にずれ込んでしまうほどでした。

安彦良和といえば、やはり『機動戦士ガンダム』のキャラデザインを担当したアニメーターとしての仕事を真っ先に思い浮かべる人が多いと思います。僕も御多分に洩れず、安彦先生の存在を知ったのはガンダムから。アムロ、セイラさん、フラウ・ボウ、ララアにシャア……魅力的なキャラクターを生み出すその画力に心底惚れ込み、劇場版『機動戦士ガンダム』は、テレビシリーズの映像に新たに安彦先生が追加した映像「のみ」を目当てに何度も劇場に足を運びました。


劇場版三部作は、『哀・戦士編』『めぐりあい宇宙編』と進むごとに安彦先生の追加映像が増えて言ったので、嬉しくて仕方なかった。「いつか、先生が全編監修した『機動戦士ガンダム』が見たい!」というのが当時の見果てぬ夢だったのですが、それが『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』という形で数十年後に叶うことになるとは、その頃の誰に予測できたことでしょう。

思えば安彦先生の作画は、たとえば『さらば宇宙戦艦ヤマト〜愛の戦士たち〜』のあの有名なラストシーンだとか、『勇者ライディーン』『無敵超人ザンボット3』などで見ていたんですよね。その時は全く意識してはいなかったけど、思えばどれも印象に残っている作品です。

ガンダムでその存在を知ってからは『機動戦士Ζガンダム』『クラッシャージョウ』『巨人ゴーグ』なども好んで見ていました。が、何より衝撃だったのは、『月刊アニメージュ』で連載が始まった漫画『アリオン』。ギリシャ神話をモチーフにしつつ、そこに描かれているアポロンやゼウス、ポセイドン、ハデス、アテネといった神々たちを、人間臭いキャラクターとして描き、リアルかつファンタジックな物語へとアップデートさせていて。

その内容の面白さ、キャラクター一人一人の魅力に心底惚れ込み、『アニメージュ』を買うのが毎月の楽しみとなったのでした。ただ、休載が続いたりして完結するまで何年も経ってしまい、待ち続けるのには相当体力が入りました。でも、おかげでギリシャ〜ローマ神話に俄然興味を抱いた僕は、『イーリアス』や『オデュッセイア』など神話の関連本なども読み漁るように。

続いて安彦先生の存在が、僕の前にバーンと立ちはだかったのは、『ナムジ』『神武』という漫画によってです。日本神話をモチーフに、『アリオン』と同様、スサノオやスセリ、大国主命、天照大神など日本の神々をモチーフとした人間ドラマが最高に熱く、単行本を穴が空くほど読みまくっていました。そこから『虹色のトロツキー』『クルドの星』『イエス』『ジャンヌ』など、日本史・世界史の重要人物・重要事件を用いた安彦先生による「歴史ファンタジー」の虜になってしまったのでした。

とはいえ、僕の知識などオタクたちの足元にも及びません。兵庫県立美術館へオープンと同時に到着すると、そこには百戦錬磨の強者たちが長蛇の列を作っていました。そんなコアなファンの尻を追いかけるように、展示会会場をくまなくまわる私。もう圧倒的な画力と、水彩画の美しさ、鉛筆で描いたラフなデッサン、そして漫画作品の原画などがところ狭しと展示された空間に、思わず鼻血が吹き出るかと思った。

たとえば『機動戦士ガンダム』で、自らの運命に翻弄され泣き崩れるセイラ・マスことアルテイシア・ソム・ダイクンの鉛筆画。もしくはララアとシャアが、戦闘準備に湧き立つ軍人たちを横目に熱いキスをするラフ画。もう、どれもが今にも動き出しそうなくらい生き生きと描かれていてドキドキしました。いい香り、いい手触り、いい音、いい味に触れると脳からドーパミンが吹き出すように、いい絵を見ると、眼球や脳が喜んでいるのがはっきりとわかります

とりわけ、ポスターや雑誌付録のために描かれた水彩原画の繊細な美しさに惚れ惚れ。水彩画って最高ですね。

実はこの展覧会へ足を運ぶのに先立ち、『安彦良和 マイ・バック・ページズ』というインタビュー形式の自伝を読んだのですが、そこには漫画家を志すも挫折しアニメーターの道へ進む先生、『ガンダム』で一世を風靡したのちに激変するアニメーション業界の荒波について行くことができず、半ば隠居するような形で漫画家へ転身する先生、そこで活路を見出し独自の表現スタイルを獲得していく先生の軌跡が、自身の言葉で述べられており、非常に感銘を受けたのでした。

前述したように、のちに『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の一部アニメ化の要望に応えて再びアニメ業界へ返り咲く安彦先生。長いブランクをものともしない、最高のクオリティを誇る作品がたくさん飾られていました。

展覧会の最後には、安彦先生がこれまで描いてこられた歴代のキャラクターたちが、ガウンを纏い合唱する作品が飾られていました。キャラクターたちへの愛のある眼差しがなければ決して描けない、見れば見るたび新たな発見があって飽きさせない工夫が随所に散りばめられたその絵を、涙なしでどうして見ることができましょう。

なお、この『描く人、安彦良和』展は、続いて島根で展示される模様。興味のある方は是非とも覗いてみてください。

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