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本物は消し忘れのタバコをそっと消す

昨日,「長期育成指針作成の裏話と感謝」という形で記録を残した.

ただ,2年間の長期育成指針の作成のすべてに携わって,さらに僕を支え続けた方の名前を書かなかった.それは,その方の哲学があるかもしれないと思ったから.でも,やっぱり書く.

本物は人知れず「何もない」を生み出している

火事の中,取り残された子どもを助けた人.
蓋があいていたマンホールに落ちた人を救出した人.
線路に飛び込んだ人を救出した人.
彼らは「ヒーローだ!」と称賛される.
危機が起こってしまった(クライシス|事後)時に活躍した人はスポットライトを浴びてヒーローになる.では,事前にその危険(リスク)を察知し防いだ人はどうだろうか.「何も起こっていない」ので誰も気付かない.スポットライトを浴びることもなく,ヒーローになることもない.「何もない」状況だ.事前に防いでいれば,火事の中に飛び込ませるようなこともさせずに済んだし,線路に飛び込ませることもなかった.
将来を予測して,起こりうるリスクをできる限り0(ゼロ)に近づけて,問題は未然に防いだ方が望ましい.
で,本物はそれを当たり前のように実行する.スポットライトを浴びることはないと知っているし,ヒーローになろうとも思っていない.自分が多くの問題を未然に防いでいるのに評価されようともしない.そもそもそんなことを意識すらしていない.黙って「何もない」を生み出している.
昔,科学研究部(柔道ナショナルチームを支援するチーム)の役割は,問題が起こってから対応するのではなく,起こりうる問題を事前に対策しておくことだと強く感じることがあった.ちょうどそんな時に,以下の記事をみて「やっぱりそうだよな」と後押しされたことを思い出す.

一部抜粋すると

「起こったこと」に対応するだけでは、同じ種類のリスクは減らせても、次に起こる別の事故や事件を防ぐことはできない。しかも、事前対策がうまくいって「起こらなかったこと」は誰にも気づかれないのである。すなわち、蓋が空いていたマンホールに落ちた人を救った人はヒーローになれるが、人が落ちる前にそっと蓋を閉めた人はその行為を気づかれさえしないのである。社会としては誰かが落ちる前に蓋をする方が望ましいのに。この非対称性が世の中の対応を「起こったこと」に偏らせているのである。

岸本 充生,東京大学政策ビジョン研究センタ-

それで,タイトルにも書いたが,「本物は消し忘れのタバコをそっと消す」ができるのが,山梨学院大学の小山先生だ(山梨大学名誉教授).もしかしたら,消し忘れのタバコが原因で火事になっていたかもしれないというリスクを察知して,さらっと何もなかったかのようにそっと消す.マンホールの蓋があいていたら,何もなかったかのように蓋を閉める.これをやり続けた人だと思う.僕の見える範囲でも,膨大な仕事をしているのに,いつも冷静に苦労をみせずに成し遂げる.長期育成指針の作成は大きな負担だったはずで(責任も大きい),人知れず膨大な作業をやり続けられていた.一緒に仕事をしていても,事前に起こりうる問題を潰しながら進められたのは大きかった.

偽物の僕は精進するのみ(笑)

最後にいっておくが,僕は未熟なのでこれができない.みんながこれに(将来に起こりうる問題に)気付いていないことが危機的状況だと思い,少し燃やしてから火を消す.怒ったふりや「はい,タバコの火を消しますよ」と説明しながら(野暮ったくなるけどと言いながら)実行する.
子曰く「悟りをひらいた人は誰からも気付かれない」というがそういうことなんだと思う.むず(笑)



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