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「人は、人でしか癒されない」— ある教授の言葉

社会人になってから、ある大学の社会人コースの授業を受けた。その授業で出会ったある教授との出会いは、私にとって深い学びを与えてくれるものだった。

 ある日、その先生が語ってくれた言葉が今でも心に残っている。

 「人は、人でしか癒されない——。」

 その言葉は、先生が医学部の新入生に向けて行う最初の講義で、必ず伝えるものだという。

 「皆さんはこれから医師としての道を歩み始めます。薬を処方し、手術をし、最先端の医療技術を学ぶことでしょう。しかし、忘れないでください。医療とは、病を治すだけではないのです。」

 私は、その言葉に深く引き込まれた。

 「病院に来る患者さんは、ただ病気を治したいわけではありません。痛みを抱え、不安を抱え、誰かに寄り添ってほしいのです。どんなに優れた薬があっても、それだけでは“癒し”にはならないのです。」

 先生の言葉が、胸の奥に響いた。

 医療の世界では、「治す」ということにばかり意識が向けられがちだ。しかし、その先生は、その考えに一石を投じる。

 「私がかつて診たある患者さんの話をしましょう。その方は、末期がんを患い、もはや治療の手立てがない状態でした。ある日、病室を訪ねると、彼はこう言ったのです。『先生、私は治らなくてもいい。ただ、私の話を聞いてほしい。』」

 先生の目が少し潤んでいるように見えた。

 「私は、その日、医者として何もしていません。ただ彼の話に耳を傾けました。でも、それだけで彼は『ありがとう』と笑ったのです。」

 教室の中に、静かな感動が広がっていた。先生は続ける。

 「皆さんにお願いがあります。」

 「どうか、“一人の人”として患者さんと向き合ってください。医者である前に、人であってください。どんなに医学が進歩しても、人が人でしか癒せないという事実は変わりません。」

 その言葉が、私の心に深く刻み込まれた。

 医学とは、知識や技術の向上だけではなく、患者に寄り添うことができるかどうか。それが本当の「医療」なのだと。

 あの日、その先生が伝えてくれた言葉は、これからの人生でずっと私のそばにあり続けるだろう。

 人は、人でしか癒されない。


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