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『リッチランド』いかに原爆の歴史を共に乗り越えるか

キノコ雲が町のマークとなっている核開発のためにつくられた町であるアメリカの「リッチランド」。その歴史や住民の声を通して、原爆の歴史を、いかに乗り越えるかについて考えるドキュメンタリー映画。核問題解決のためには「被爆の実相」を知ることが何より大事だが、核を開発した町、長崎原爆を製造した町のさまざまな世代の住民の考えを知ることも学びになる。同時に、マンハッタン計画により土地を奪われた先住民、原爆製造により被曝した人、土地、魚。その人々の子どもたち。人工的な町のため、ほぼ白人しかいないという事実から人種問題も暗に示す。

個人的に印象に残った点は3つ。

まず被曝した住民があまり被害を訴えなかった理由が、戦後長期間に渡って経済的な豊かさを享受できたということ。アメリカは長らく世界一位の経済大国を維持し続けていることが、自国が抱える多くの社会問題を覆い隠しているのではないかと想像する。逆に今後、経済の停滞により、内部に抱える矛盾が一気に噴出する可能性がある。

もう一つが、絶対悪を必要悪と矮小化して捉えてしまうマインド。奴隷制、人種差別、原爆などを必要悪と捉えている。それらを家の「水漏れ」に例える。水漏れするからと言って、家全体を取り壊す人がいないように、国全体として過ちを認め、方針転換することはないと捉える。銃や麻薬の問題一つとっても解決が難しい理由がわかる。人種のサラダボウルであるアメリカは、建国時からすでに多くの矛盾を抱えている国。独立宣言を読んでも、「People=白人」であることがわかる。この問題を、イギリス系アメリカ人の監督が映像を通して何度も指摘するところが素晴らしい。

最後に。希望はリッチランドに住む多種多様なルーツを持つ高校生。昨今は、気候危機をはじめとする未来につながる環境問題や人権、貧困問題への懸念からジェネレーションレフトと呼ばれ、非常に柔軟な考えを持っている。戦争や核を必要悪とせず、絶対悪と捉え、キノコ雲のマーク変更の議論から対話と共感の輪を世界中に共に広げていきたい。

今年広島でリッチランドの存在を知ったが、江東区から柏のキネマ旬報シアターまでわざわざ観に来て良かったと思える作品。監督はどのくらいカメラを回したのだろうか。視聴者にゆだねる答えのない問題を扱うドキュメンタリーは、より多くの客観的証拠の積み重ねによる提示が重要なので、上映時間が長くなりがち。それを海外ドキュメンタリーの王道である90分にしっかりまとめている。時間以外に内容も、商用的にある程度成功させるためか、偏りのない内容なので日本人やアメリカ人だけでなく、多くの人に観て考えてほしい。『オッペンハイマー』より『リッチランド』を。