行政書士が「作れない」書類

別の記事で、行政書士の独占業務として「官公署に提出する書類の作成代理」が存在することを述べました。
ですが官公署に提出する書類であったとしても、行政書士が「作ってはいけない」ものがあるため、注意が必要です。

私の今までの記事が、遺言をメインとしているため、遺言の場合を事例として説明します。

まず一般的、抽象的な話から進めていきます。

独占業務については、行政書士法第1条の2 第1項に記載されています。
ですがこの条文には、第2項が存在しています。

第1条の2
第1項(省略)
第2項
行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。

行政書士法 第1章 総則

この第2項だけでは、具体例なことは全く分からないと思われます。
実際この条文は、他の法律と組み合わせることによってはじめて、理解ができる条文となります。

遺言の話に戻ります。
遺言では、どの財産を誰に与える、といったような記載がされることが多いと思われます。
そして、財産には現金、預金などのほかに、土地や建物などの「不動産」も含まれます。

ここで、この条文が問題となります。
土地や建物は、法務局「登記」という手続きを行うことにより、所有者が誰であるのかを公的に表示することになります。
そのために提出する「登記申請書」を作成することは、司法書士の独占業務なのです。

司法書士法の、第3条を見ることでそのことが分かります。

第3条
第1項
司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一 登記又は供託に関する手続きについて代理すること。
二 法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録(カッコ内省略)を作成すること。ただし、同号に掲げる事務を除く。
(ただし以下は、カッコ内の表記に関することなので無視してください)
(三以下省略)

司法書士法 第1章 総則

この条文から、法務局に提出する書類を作成することは、司法書士の独占業務であることが判明します。

これによって、行政書士法第1条の2の、第2項の意味が分かってきます。
本来第1項により、官公署に提出する書類を作成するのは行政書士の独占業務です。

ですが、司法書士法第3条によって「法務局に提出する書類を作成すること」は、司法書士の独占業務とされています。

結果として、第2項にある「その業務を行うことが他の法律において制限されているもの」に該当するため、法務局に提出する書類=登記申請書を作成することは、行政書士には「できない」ということになります。

ちなみに、司法書士はあくまでも「他人の依頼を受けて、業とする」ことが独占業務です。
そのため登記手続きを行う上で、必ずしも司法書士を利用する必要はなく、「自分(遺言などで、土地建物を受け取ることになった者)で作成し、自分で法務局に提出する」ことは可能なのです。
このことは、行政書士のほとんどの業務にも当てはまることです。

とはいえ、専門知識を要する複雑な書類であり、個人が作成するのは非常に難しいと思われます。
また提出、及びもし中身に不備があった場合の補正などを行うためには、基本的にその省庁に出向く必要があり、特に仕事をしている人にとっては非常に負担が大きいと思われます。

だからこそ、それを「代行する」資格者として、行政書士、司法書士という「法律の専門家」が存在する。
その意識をもって、これからも仕事を行い、文書を書いていきます。



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