遺留分制度の今昔
遺贈及び生前贈与によって、一定範囲の相続人(配偶者、子、直系尊属)が、法律で定められた額よりも、得られる相続財産が少なかった場合に主張できるのが「遺留分」という制度です。
この遺留分なのですが、平成30年に大きく性質が変化しており、もしかしたら今までの考え方のままの人がいるのではないかと思い、記事にすることにしました。
改正前の遺留分は、遺留分を侵害する遺贈、贈与に対し「減殺請求」というものが行われていました。
これにより、遺贈などの効果を失効させるという法律構成がとられており、特に不動産などの場合はその所有権の一部を「取り戻す」という形がとられてました。
その結果、不動産では「遺留分減殺」を原因として、所有権の一部移転の登記などがなされていたという経緯があります。
しかし、これによってさらに状況が悪化することが、しばしば見受けられました。
改正前の制度では、減殺請求権を行使した者と、遺贈などを受けたもので「共有」という関係になってしまいます。
当時の民法の規定では、軽微な変更を加える場合であっても共有者全員の同意が必要とされており、また共有物を使用している者がいるときに、他の共有者がその物を使用することが不可能であるなど、たとえ減殺請求権を行使して所有権の一部を回復したとしても、実際にそれに基づいて権利を行使することが困難という部分がありました。
(共有に関する規定は、令和3年に大きく変更されていますが、今回の記事では省略いたします)
そのため、遺留分減殺請求権を行使することで、かえって紛争を生じさせるような状態となり、法律関係も複雑化するため、非常に使い勝手の悪い制度であったのです。
そこで、平成30年改正が行われました。
これにより、遺留分を侵害する遺贈・贈与に対しては、遺留分侵害額請求権という「金銭債権」が発生するという規定に変わりました。
条文は、第1046条第1項となります。
第1046条
第1項 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
(第2項 省略)
これにより、土地や建物を遺贈・贈与された場合であったとしても、遺留分を侵害された相続人は、その土地建物の所有者に対し、民法第1042条によって定められた侵害額に相当する「金銭の支払い」だけが、請求できることとなりました。
そのため、土地建物の「所有権」を取り戻すという形ではなくなっております。
結果として、遺贈・贈与の効果が強まっているという側面があります。
たとえ遺留分を侵害するものであったとしても、相続人はあくまでも金銭による解決のみ行うことになるため、遺言を残したものの意思(その物を、遺言で指定した者の所有とする)がより反映されやすくなっていると考えます。
ちなみに、遺留分侵害額請求権の行使に関しては、必ずしも裁判上の請求によらなくてもよい(改正前の最高裁判例昭和41年7月14日)とされています。
もっとも、たいていの場合は裁判で争われることになると思われます。
また、侵害額の金銭をすぐに準備できない受遺者、受贈者のために、民法第1047条第5項は受遺者、受贈者の請求により裁判所は「相当の期限」を許容することができるとしています。
したがって、たとえ請求が認められたとしても、即金銭の支払いを受けられるとは限らないため、注意が必要です。
遺留分の制度は、平成30年改正により大きく変化しました。
この記事が、知識をアップデートする助けになれば、幸いです。