君の目に映る世界 【ショートショート】
祖父の遺品を整理していたら、小さなカメラが棚の奥に一台入っていた。
小さいのにずっしりと重く、それでいて手に馴染むカメラだった。
母にカメラがあった事を伝えると
「そのカメラで、おじいちゃん色々撮っていたわ、懐かしいなぁ」とカメラを愛おしそうに手に取り、アルバムを何冊か見せてくれた。
旅行の写真、おばあちゃんの写真、色々な風景、町並み。
おじいちゃんが撮った世界がそこにあった。
「そのカメラ、志穂が使いたいなら使いなさい」と母が言ってくれた。
私は早速カメラを使う気になったのだが、構造がよくわからず、フイルムの入れ方もわからなかった。
同じクラスの高野君がカメラ好きというのは以前から知っていたので、普段話したことの無い高野君に思い切って声をかけてみた。
高野君は、クラスではおとなしめの普通の男子高校生で、全く私の好みのタイプでは無いのだが、私が声をかけたら嬉しそうに「今度、そのカメラ見せてよ」と言ってくれたので、土曜に公園で会う事にした。
「わぁ、懐かしいカメラだね」
カメラを見せると高野君は嬉しそうな顔をした。
「懐かしいって、君も私と同じ歳じゃない」と私が言うと高野君は笑いながら「50年ぐらい前のカメラだよ」と色々教えてくれた。
カメラのメンテナンスをしたいと高野君が言うので、そのままカメラを預けた。
後日きれいになったカメラを高野君は私に持ってきてくれ、使い方を説明しフイルムを入れてくれた。
それから、私はカメラを持って街を散歩した。
咲いていた花、置いてある自転車、青い空、昼寝をしていた猫。
フイルムカメラなので、スマホみたいにすぐ写真が見られないし、撮れる枚数も決まっているので、もどかしくも面白く思った。
撮り終えたフイルムを写真屋さんで現像してもらい、写真を見た時はドキドキした。
少しボケているのも何枚かあったが、私の撮った世界がその中にたくさんあった。
それを高野君に見せたら「渡辺さんはセンスあるね」と言ってくれたので「また撮ったら見てくれる?」と思わず言ってしまった。
高野君は嬉しそうに「うん」と言った。
「あと…高野君の撮った写真も見てみたいんだけど」
と私が言うと、高野君は「ぜひ!」と笑顔になった。
全然好みじゃないのに、そんな笑顔で笑わないでよ。私はそう思ったが、高野君の笑顔が目に焼き付いて、いつか高野君を撮りたいと思った。
いや、好みじゃないんだけど。
そう思っていたら顔が赤くなってしまい、友人の真衣に怪しまれた。
写真を撮るという事は、その人の目に映った物が見られるという事だ。
さて、高野君には世界がどう見えているんだろう。それを早く知りたくなった。