牛肉異変、霜降り和牛が安い
世の中の様々な値段がどうやって決まっているのかを解き明かす「値段の方程式」。きょうのテーマは「霜降り和牛が安い」。明日は11月29日。「いい肉」の日ということで肉の話題。霜降り和牛の価格に異変が起きています。卸値が3年ぶりの安値をつけています。牛のエサ代や厩舎の光熱費は上昇しているのに、なぜ値下がりしているのでしょうか。
「和牛」と「国産牛」、何が違う?
皆さん、スーパーの食肉売り場でラベルに「和牛」と表示しているものと、「国産牛」と表示してあるのを見かけたことはありますか。まず、この違いを説明します。「和牛」とあるのは日本の在来種をもとに作られた食肉専用の牛を指します。在来種とは①黒毛和種、②赤毛和種、③日本短角種、④無角種の4種類。黒毛和種の牛肉を「黒毛和牛」と呼び、日本で流通している和牛のうちほとんどが黒毛和牛です。
和牛以外で日本で育ったものを「国産牛」と呼びます。乳牛であるホルスタインと和牛を掛け合わせたホルスタイン交雑種が代表格です。
さらに「格付け」があります。牛肉は「AからC」のアルファベットと、「1から5」の数字で表されます。食肉が多く取れる方がより高い順に等級を「AからC」、「霜降り(サシ)の細かさ」などの肉質が高い順に「5から1」で示します。最も上級とされるのが「A5」です。
そのA5ランクの卸値が下がっています。A5の卸値は10月時点で1キグラム2500円台。直近で高値をつけた2022年末に比べて1割安くなっています。実際、東京都内のスーパーでは「和牛」が100グラム1200~1400円。特売では1000円前後のものもあり、1年前に比べて1割安くなっています。
消費節約ムード強まる
物価高の勢いに賃金上昇が追いつかない状況が続き、消費節約の動きが強いのが値下がり理由です。
こちらをご覧ください。
長期的にみると給与の落ち込みと共に牛肉の消費が落ちる一方、豚肉と鶏肉の消費量は増えていることが分かります。
厚生労働省によると9月の実質賃金指数は2.4%低下と18カ月連続で前年割れです。物価高に賃金上昇が追いつかないため、節約をこころがける消費者が増えています。価格の高い牛肉を買うよりも価格が安い豚肉、鶏肉を買うようになっている面もあるということですね。テレビやネットでも「節約レシピ」が大流行ですが、肉を使ったメニューの主役は鶏肉や豚肉です。
牛、豚、鶏の価格を詳しくみます。
A5、A4等級の和牛と豚肉。鶏肉の卸売価格の推移です。やはり和牛は下がっていく傾向ですが、3年前に比べ豚肉は14%上がり、鶏もも肉は12%高となっています。
需要と供給のミスマッチも
消費者の節約志向のほか、値下がりの大きな要因とされるのが需要と供給のミスマッチです。牛の飼育技術や配合肥料の品質が向上して良質な和牛を生産しやすくなりました。畜産農家は高い値で取引ができるA5の生産に力を入れています。10年前にはA5の割合は10%に満たなかったのが、2022年は27.2%まで増えています。
一方で、消費者は高い肉の節約を強めています。さらに消費者の志向にも変化が。サシの多いA5、A4の肉よりも赤身肉を好む人が増えています。手ごろな値段で人気のステーキチェーンも目玉は赤身肉です。A5、A4の供給増に需要がついてこない状況です。
実際に売り場はどうなっているのか。スーパーで取材しました。
精肉売り場でお客が買うものを聞いてみると「普段は豚が多い」と話していました。「佐賀牛」のラベルにはA5やA4の表示はありません。格付けではなく、「佐賀牛」という産地を売る戦略でした。「3割引き」というシールを貼っているパックも目立ちます。今年は特に暑さが長引いたため、鍋物需要の立ち上がりが悪く、秋の牛肉商戦は出足が振るいませんでした。ようやく寒くなってきたので値引きで消費を喚起していく作戦のようです。
ここで、きょうの方程式です。
「高級和牛価格の下落=供給過剰+節約志向+気温の高さ」です。
国や畜産農家は海外に目を向け、輸出に力を入れています。2012年から順調に伸びているのです。2022年の牛肉の輸出額は前年より若干520億円になりました。政府は2025年までに年間1600億円を目標にしています。
今後も霜降り和牛の安値は続くのでしょうか。寒くなって需要は回復してきました。さらなる下落はなさそうですが、消費者のし好の変化による需給のミスマッチ解消には時間がかかりそうです。当面は安値圏となりそうです。おいしい和牛が手ごろな値段で食べられるのは消費者にとっては嬉しいことですが、畜産農家が採算難で生産を減らせばすぐに価格に跳ね返ってきます。手放しでは喜べないようです。