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国産ウイスキー バブル収束のワケ
世の中の様々な値段がどのように決まっているのかを解き明かす、値段の方程式。きょうのテーマは「国産ウイスキー バブル収束のワケ」です。そもそも国産ウイスキーにはどういった銘柄があるのでしょうか。代表的なのはサントリーの「山崎」「響」「白州」やニッカウイスキーの「竹鶴」「余市」があります。2大メーカー以外でも埼玉県秩父市に蒸留所のあるクラフトウイスキーの「イチローズモルト」などが有名ですね。
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2次流通の価格は2割下落
サントリー「山崎」「響」、ニッカ「竹鶴」「余市」など販売量より需要が圧倒的に多いウイスキーは店頭の抽選販売が一般的になっています。こうした商品がオークションやリサイクルショップといった2次流通市場でプレミアがついて取引されています。オークション情報サイトのオークファンがまとめた「山崎18年」の取引価格をみると2024年4月まで価格は上昇を続け13万6000円に達しました。5月から下落し始め、今年1月に9万8000円と2割下落しました。10万円を割り込みコロナ禍前の価格に近付いています。下落の理由はなんでしょうか。
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値段の方程式
BSテレ東の朝の情報番組「日経モーニングプラスFT」(月曜〜金曜の午前7時5分から)内の特集「値段の方程式」のコーナーで取り上げたテーマに加筆しました。
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これまでの値動きを追ってみます。2010年以降、サントリーのウイスキーが海外の品評会で表彰されるなど国内外からの評価が高まります。2014年にはNHKの連続テレビ小説「マッサン」が放送され、国内でブームが起こります。その後、コロナ禍で投資や投機もあり、さらに相場が暴騰していった。中国からの人気も強く、直接買い付けに来て爆買いしていく人が多かった。2022年には「山崎55年」に海外オークションで8100万円超の値がつきました。
中国の景気低迷が影落とす
高騰していた価格がなぜ急落したのか。ウイスキーの買取・販売店で取材してきました。訪れたのは酒の買取・販売を手掛ける「キングラムリカー」神田店。大阪に本社があるリユース業を中心に様々なサービスを展開するベストバイの店舗です。このお店では500種類以上のウイスキーを取り扱っています。サントリー「山崎12年」は昨年の4月までは1本3万円を超えて販売されていました。今では2万5000円ほどになっています。
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キングラムリカー事業責任者の木村翔太さんは「15~20%上がっていた分がそのまま下がった印象がある」といいます。買い物に来ていたお客さんも「昨年の値上がる前の値段に近い。買える値段になってきた」と嬉しそうです。相場下落の背景にあるのが中国の景気低迷。の影響が大きいそうです。木村さんは「中国の景気低迷があり、中国人が大量に買っていた分が買わなくなった」と指摘します。
売り手の利幅は少なくなる
一方、高騰前の価格に戻りつつあることで、売る人にとっては利益が少なくなっています。取材時も「山崎18年」を売りに来た人がいました。買取価格は9万円ほどで、「前に売ろうとしたときより気持ち下がっている」と話していました。財務省の貿易統計を見ると2022年の中国への輸出金額は全体の3分の1を占めていましたが、24年は半分以下になっています。国産ウイスキーの相場を作っていたのは中国だったため、輸出減によって一気に市場が冷え込んだ格好です。
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最近、日本のウイスキーは韓国でブームになっています。ドラマに登場した日本のウイスキーを日本まで買いに来る人も多くなっています。ただ、中国の減少分を完全に補いきれてはいません。
バブルのような状態になっていたので、日本人でも買えば半年後、1年後には利益が出せるというような雰囲気がありました。ウイスキーは保存がしやすく扱いが簡単なため投機目的で購入する人も多かったようです。現在は2次流通価格が落ち着いてきたのに伴い、投機目的の購入も減っているようです。
ここで、きょうの方程式です。
国産高級ウイスキーの流通価格下落=中国の景気低迷+投機目的の購入減
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2次流通価格の動きとは関係なく、国産ウイスキーへの世界的な評価は高まる一方です。新規の蒸留所も年あたり30件近く参入してきています。1883年創業の焼酎メーカーの小正醸造が焼酎造りで培ってきた技術を生かし、鹿児島に小正嘉之助蒸溜所を設立。食品商社が北海道に蒸留所を立てるなど異業種からの参入も増えています。
(村野孝直)