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小麦高騰、コメの逆襲はあるのか

ロシアによるウクライナ侵攻で、世界的に小麦価格が上昇しています。小麦が原料のパンや麺類などスーパーに並ぶ食品は値上げラッシュ、その影響は外食産業にも及んでいます。反対に値段が下がっているのが、日本人の主食であるコメ。消費量が年々減っていたコメの巻き返しはあるのでしょうか。

値段の方程式
BSテレ東の朝の情報番組「日経モーニングプラスFT」(月曜から金曜の午前7時5分から)内の特集「値段の方程式」のコーナーで取り上げたテーマに加筆しました。

スーパーの価格も下落

まず小麦とコメの価格を見ていきましょう。上のグラフは農林水産省が発表している価格を指数化したものです。小麦は主要生産国のアメリカやカナダで高温乾燥による不作になり、今年2月からのウクライナ危機によってさらに上昇しました。一方、コメは下落を続けています。
「日経POS情報」で見るスーパーの店頭価格も売れ筋の「あきたこまち(5キロ)」の平均価格(赤い線)は前年同月を下回っています。

値下がりの理由はコロナ禍による外食不振です。牛丼チェーンやファミレス、居酒屋のコメの消費量に顕著な影響が出ました。緊急事態宣言による営業時間短縮も終わり、牛丼チェーンは客足が戻りつつあります。ただ複数人で食事するのが多いファミレスや居酒屋は客足の戻りが鈍いようで、業務用を中心にしたコメ価格の下落につながっています。

企業、価格安定のコメに熱視線

小麦に比べて相対的に価格が安定しているコメに着目して、新たな需要も増えています。企業が多彩なコメ商品を売り出しています。

この表の右にある、タムジャイサムゴーは香港発祥の米から作った麺料理を提供するお店です。香港では年間3000万人以上が来店する人気店です。2018年に「丸亀製麺」などを運営するトリドールホールディングスが買収し、今年3月に日本に初進出しました。5月にできた渋谷区恵比寿にある3号店に行ってきました。この店の名物は米線(ミーシェン)と呼ばれる麺料理です。ミーシェンは米粉から作るのではなく、炊いたコメを発酵させて麺状にしたものです。食べてみるともちもちと歯ごたえがある麺です。
小麦の値上がりを理由にラーメンやうどん店で値上げが相次いでいます。タムジャイサムゴーの花畑啓之ゼネラルマネジャーは「ミーシェンでは値上げの動きはない」と話します。
トリドールHDは2024年3月期までにタムジャイサムゴーを25店舗展開する目標を掲げています。「世界的に競争力の高いブランドと考えていて、これからもどんどん世界に展開していく」(花畑さん)。

昔からある米粉のパン。小麦アレルギーをもつ子供がいる家庭では助かるという声を聞きます。この米粉も実は今、第2次米粉ブームの真っ只中です。米粉は2009年に製粉施設の建設を支援する法律が施行され、供給量が急増しました。これが第1次ブームです。その後、停滞期を挟んで2017年ごろから第2次ブームを迎えました。2021年度の需要は4万トンを超え、2022年度もさらに数千トンの増加が確実視されています。

日本産米の輸出、過去最高に

日本産のコメの輸出量も増えています。21年は前年比15%増の約2万3000トンと過去最高を更新しました。特に日本食ブームでアジアの食に根付き始めています。回転すし店や日本食店向けの業務用米の販売が増加しています。
輸出単価は年々下がっていますが、東南アジアで人気のアメリカ・カリフォルニア産と比べると2割前後高い。日本のコメが輸出市場で存在感を示すには価格が最大のハードルとなっています。
今後、コロナの感染者減少が続けば外食需要は上向いてくるでしょう。小麦はウクライナ危機で高値が続き、小麦代替品としてコメはさらに注目を集めそうです。これがコメ価格の下落の歯止めになるかもしれません。
きょうの値段の方程式です。

「コメ価格下げに歯止め=外食回復+ウクライナ危機で小麦高値」

日本人のコメ離れが言われて久しいです。1人当たり消費量はピーク時の昭和30年代の半分以下になっています。さらに人口減が消費減に拍車をかけています。2022年産の主食用米の需要の見込みは675万トン。初めて700万トンを割り込みます。コメの消費量が右肩下がりだったため、減反で生産量を絞りつつ高く売れるおいしい「ブランド米」の開発を産地が競ってきました。ただ、輸出市場に目を転じれば、ウクライナ危機が起こる前から世界的な食糧危機の懸念が指摘されています。同じ面積でも多く収穫でき、ほどほどの味で安いコメを大量に生産し輸出する。ブランド化のほかに、こうした「多売戦略」も選択肢の一つとして検討してもいいんじゃないでしょうか。




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