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デジタルサービスの恩恵を見える化 野村総合研究所が新しい経済指標

野村総合研究所(NRI)が2日、デジタルサービスの恩恵がつかめる新しい経済指標と、それをもとにした地方創生の取り組みを発表しました。国内総生産(GDP)や賃金統計といった従来の指標だけでは捉えにくかったデジタルサービスが生み出す消費者メリットを加味した経済分析ができます。NRIの此本臣吾会長兼社長がデジタルサービスの恩恵をデータで新指標を提示し、経済効果を最大限に高めるための提言も説明しました。キーワードは「公共サービスのデジタル化」です。

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■経済指標と生活実感にギャップ

ここ数年、実質GDP成長率や所定内賃金水準といった日本の経済指標が低迷しています。一方で生活者の実感は意外に悪くありません。NRIの「生活者1万人アンケート調査」(1997~2018年)によると、自分の生活レベルを「上/中の上」「中の中」と答えた人の割合は15年に比べ18年のほうが増えています。

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このギャップはどこから生じるのでしょうか。
デジタル化で生活が便利になったためです。ネット通販に代表される電子商取引やグーグル、LINEといった無料サービスの普及がデジタル化の恩恵です。これがデジタルで消費者が受けるメリット=「消費者余剰」という考え方です。「消費者余剰」とは消費者が最大払ってもいいと考える価格と実際の取引価格の差分ともいえます。

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■消費者余剰は161兆円

NRIはデジタルサービス(有料・無料問わず)から生まれる日本の消費者余剰の合計を年間161兆円(2016年)と試算しました。この金額は2016年の日本の実質GDP(520兆円)の約30%に相当し、消費者余剰が経済活動として無視できない規模といいます。
試算では主要SNS(LINE・Facebook・Twitter・Instagram)からは日本で年間20兆円の消費者余剰が生まれています。この消費者余剰をとらえデジタル時代の経済活動をより反映する指標を作成しました。
此本会長兼社長は「1人あたりのGDPが2万ドルを超えると、それ以降はGDPだけを追い続けても生活満足度は上がりにくくなる。国民の生活満足度を向上させるには、デジタルによる生活者の豊かさの向上を目指す必要があると考えた」と作成理由を説明します。

■デジタル時代経済指標「GDP+i」と「DCI」

デジタル時代の経済指標のひとつが「GDP+i」。デジタルが生み出す消費者余剰は実際の金額としては現れません。「虚数=i」のような概念上の存在です。NRIはこの虚数iとGDPを足し合わせた数値「GDP+i」をデジタル時代の新経済指標として提案しています。
もう一つが社会のデジタル化の進展度合いを示す「DCI」。参考にしたのはEU加盟国の経済・社会のデジタル化の進展度合いを示す指標「DESI」(デジタル経済社会指標)です。

EUのDESIの構成要素
・コネクティビティ(ブロードバンド普及率)
・人的資本(インターネット利用スキル、ICT専門家の数)
・ネット利用(個人のデジタルサービス利用度)
・デジタル技術の総合活用(デジタル技術のビジネス利用)
・デジタル公共サービス(電子政府、電子医療サービス)

「DCI」は日本版のDESIです。デジタル化の進展度合いを示す数値を組み合わせています。市民がデジタルを活用して生活満足度を高め得る潜在能力を表しています。生活満足度との相関順にウェイトをつけ、最大値を100として指数化しました。

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参考にしたEU諸国と比べても日本のネット利用は見劣りしません。「最も違いがあるのがデジタル公共サービス」(NRI)です。
この日の記者会見ではデジタル公共サービスが普及しているデンマークやエストニアが例に上がりました。特に運転免許や健康保険、交通定期といった様々なサービスが電子化されており、生活満足度が高くなっているといいます。

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行政サービスのデジタル化によるわかりやすい例の説明がありました。エストニアのタリン市は人口44万人で公務員が1420人。一方、日本の某県庁所在地は人口55万人で公務員が3270人です。住民表や補助金申請など市民が行政とやりとりする際の手続きがオンラインで済むため、行政スタッフを減らすことができています。

此本会長兼社長は「日本はマイナンバーを中心としたデジタル・ガバメントの構築を急ぐべき」と結論づけました。NRIはこれらの指標をもとに、企業向けコンサルティング事業や政府、自治体への提言事業を展開していくそうです。


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