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もやし値上がり 『物価の優等生』の苦悩
世の中の様々な値段がどうやって決まっているのかを解き明かす「値段の方程式」。今日のテーマは「もやし値上がり 「物価の優等生」の苦悩」。
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値段の方程式
BSテレ東の朝の情報番組「日経モーニングプラスFT」(月曜〜金曜の午前7時5分から)内の特集「値段の方程式」のコーナーで取り上げたテーマに加筆しました。
古くから『薬草』として栽培
もやしといえばシャキシャキの食感でおいしいし、手ごろな価格で買えるので重宝する野菜ですよね。意外と歴史もかなり古いんです。平安時代の書物「「本草和名」(ホンソウワミョウ)に「毛也之」(モヤシ)として紹介されています。その後、江戸時代ぐらいまでは薬用として育てられていました。薬用となるほど、様々な栄養が含まれています。高血圧の予防やむくみの解消に役立つカリウムや疲労回復やスタミナ増強に効果的なアスパラギン酸、ビタミンCなどが含まれていますそのもやしの値段が上がってきました。総務省の小売物価統計によりますと去年夏ぐらいまでは1キロ=170円前後だったものが去年の秋ごろから値上がりし始めました。今年10月時点では182円になっています。店頭で売られているもやしの多くは200グラムですので1袋あたりに換算すると約36円、2円の値上がりになっています。
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『原料』と『燃料』 2つの値上がり
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安定していた価格が上がっている理由は2つあります。『原料』と『燃料』の値上がりです。
もやしの原料となるのは小豆の仲間の緑豆や大豆、ブラックマッペです。国内で8割以上流通しているのが緑豆もやしです。
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緑豆のほとんどを中国から輸入しています。その中国で緑豆の生産が減少しているんです。天候不順や人件費の高騰などもありますが、農家がより高い収入が見込めるトウモロコシなどほかの作物に転作しているんです。その結果、中国産の緑豆は10年前に比べて2倍以上に値上がりしてます。緑豆は日本ではほとんど生産されていません。生産は乾燥している地域が適していて、湿度の高い日本ではカビが繁殖しやすいため、なかなか安定して作ることができないのです。
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もう1つの『燃料』。私たちの家計も直撃している電気代やガス代、ガソリン価格など様々なところに影響が出ていますね。
実はもやし生産にも大きな打撃を与えています。1年中安定して供給されるもやしはきっちりと温度や湿度が管理された施設内で生産されています。茨城県小美玉市にある旭物産のもやし工場で話を聞いてきました。
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光熱費上昇でコスト高に
こちらの工場では毎日約40トン=20万パックのもやしを出荷しています。生育にはきちんとした温度管理が必要で室温は25度から28度、水温は20度に保たれています。温める燃料として重油を使っており、価格は1年前と比べると4割上昇しています。コストダウンのため、育成に必要な水やりの回数を減らしています。以前ですと、1日に6回水をかけていたんですけれども、5回に減らしました。水やりの回数を減らしたことで重油の使用量を2割削減。そのほかにも太陽光発電を増やすなど、コストを抑える努力をしています。それでも光熱費は1年前に比べて月額で400万円増えています。小売店も身を削って売っていると林さんは話します。「スーパーの中でお客さんが買っていく商品の中でもやしが一番多いんですね。安くすることがその小売店の商品が安いというイメージ作りにも役立つということで、利益を考えずに安くしている、そういう小売店も多いと聞きます」(林正二社長)
消費者は安い商品ほど細かな値上げには敏感ですから、スーパーなどの小売業者が値上げに踏み切りにくいといのは取材していて納得できました。もやしは安定した需要がベースにあります。さらに他の野菜価格が上がったときは代替品としての需要が増え、さらにもやしの売れ行きが良くなるという性質があります。ところが、今年の冬は葉物野菜を中心に野菜相場が低く安定しており、もやしの需要増が期待できません。一方で冬場は暖房が欠かせないため、生産者は頭を痛めています。
ここできょうの方程式です。
もやし値上がり=原料高騰+光熱費高騰(ースーパー負担)
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もやしの値上がりは中国で原料となる豆の生産減少による価格高騰に電気やガスなどの光熱費の上昇が加わった。一方で、目玉商品として安い価格を維持したいスーパーの自己負担があるのでちょっとだけ上がっているということでした。
生産者・小売業者とも我慢の限界
はっきり言うと生産者も小売業者も我慢は限界を超えています。もやし生産者数の推移を見てもらうとわかる通り、減少の一途です。1995年に550軒あった生産者は、今では約100件になってしまいました。大規模化や自動化といったコストカットを続け、何とか経営していますが、ほとんど採算割れの状態だそうです。取材した林さんは生産者協会の理事長も務めています。「いま全国で100軒ほどの生産者がいる。このままの価格では生産者が半減してしまう」と危機感を募らせています。11月には新聞に値上げへの理解を求める全面広告を打つなど、私たち消費者にも理解を深めてほしいと切望しています。