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マイムマイム
この作品は、いくつかある『Q市への旅』(2022年)未収録作品のうちのひとつです(筆者)。
二年四組の教室の窓からグラウンドを見下ろすと、体育の授業の真っ最中である。
一年生のどこかのクラスが、円陣をつくり、フォークダンスの練習をしているのだ。
自習をさぼっていた生徒が、窓際からそれを見降ろし、
「マイムマイムだ」
「おれたちも去年やったな」
たしかに、マイムマイムなのだ。
みんなで手をつなぎ、輪をつくって……
歌をうたいながら、くるくる回りながら踊るのである。
「どれどれ」
何人も、窓際に寄っていった。
「おお、やってらやってら」
「ご苦労なこったぜ!」
教室に先生がいないと、このていたらくである。
「ハハハ!」
笑い声がした。
見ると、音楽部の男子生徒が、マイムマイムの曲に合わせ、指揮棒をふるう真似をしているのだ。
「おれはベートーベンだ!」
などとふざけている。
俊郎は、すっかり勉強どころではなくなってしまった。
「マイムマイムマイムマイム」
グラウンドの生徒たちはわめいた。
「マイム、ベッサッソン!」
「ベッサッソンだってよ」
生徒たちはゲラゲラ笑った。
「もっとやれ!」
だれかが、指揮棒の生徒にけしかけた。
「もっと早く!」
すると、指揮棒の生徒は、倍の速さで、チャッチャカチャッチャカ手を動かした。リズムもなにも、あったものではない。
「もっと早く!」
「オッケー!」
指揮棒の生徒は、メチャクチャに手を動かした。まるで壊れたロボットのようだ。
「あ、見ろ!」
だれかが、グラウンドの円陣を指さした。
円陣は、相変わらず、輪踊りをしている。
だが……
これも、メチャクチャな速さなのだ。
まるでドラム式洗濯機のような速さなのである。
「もっとやったらどうなる?」
「いっちょやってみよう!」
調子に乗って、指揮棒の生徒は、ばたばたと手を振り回した。
すると、円陣の輪踊りは、まるで台風の目のように、高速回転しはじめた。
まるで、テープの早送りのように……
人間ではありえない速度で回転しているのだ。
「きゃあ!」
「とめて!」
「やめて!」
輪の中から、悲鳴が聞こえた。
生徒たちが叫んでいるのだ。
「早くとめろ!」
俊郎は、大声で叫ぶんだ。
「とめるんだ!」
指揮棒の生徒は、あわてて右手をグラウンドへかざし、それから握りこぶしをつくった。音をカットする動きである。
すると……
マイムマイムの輪踊りは、ぱたりとやんだ。
目を回した生徒たちが、ばたばたとその場に倒れこんだ。
これは……
これは、どういうわけだ?
どうして遊びの指揮が、マイムマイムの輪踊りに影響したのだ?
わからない。
わからないが……
あれほど賑やかだった二年四組の生徒たちは、すっかり押し黙ってしまったのであった。