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【車中泊旅2024夏7/2~】8/3 Day33:表銀座縦走四日目 西岳から東鎌尾根経由で槍ヶ岳~槍ヶ岳山荘テント泊

北アルプス表銀座縦走四日目。今回のルートの中で私自身が一番難易度が高いと思っている東鎌尾根を歩く日でした。梯子、鎖、両脇が落ち込んだ細い通路など話に聞いていた通りの難しい場所がいくつかありました。しかし、それらは想定の範囲内。辛かったのは体力面でした。ここ数日の疲労も重なる中、灼熱の中の登山でやや熱中症気味となり、最後は4歩歩いては休むという苦行感の漂う場面もありました。何とか槍ヶ岳山荘までたどり着いた時は本当にホッとしました。今、思い返しても我ながらよく歩いたと自分を褒めてあげたい。そんな一日でした。


〇西岳から水俣乗越

ヒュッテ西岳のテント場にいた人たちの朝は早く、暗いうちからテントを畳んで出ていく人も多くいました。なぜなら、彼らの最終目的地は槍ヶ岳ではなく、槍ヶ岳に登って更に別の場所に行く予定の人が多かったからです。本当に強者だらけのヒュッテ西岳でした。

私たちは夜明けの午前4時50分くらいに起床。それから準備を整えて朝6時に西岳を出発しました。テント場メンバーとしては最後の一組です。

お隣のお仲間の出発は早かった
狂おしいばかりの紅のモルゲンロート、本日も健在
槍を見ながらテントシートが乾くのを待つ。贅沢だなぁ。

西岳を出てから東鎌尾根が始まる取付きまでは下り坂だろうと思ってはいました。しかし、こんなに下るとは!しかも途中には梯子もあって、既に東鎌尾根の練習をしているような感じでした。

昨日、ヒュッテ西岳でお話させてもらった登山の上級者さんは、中房温泉から西岳までと西岳以降は世界が違うとおっしゃってました。「西岳から先はアルペンの道という感じになりますよ」と。言われた時はよくわかっていませんでしたが、歩いてみてわかりました。何というか普通の道がない。岩がゴロゴロしていたり、岩を頻繁に乗り越えたり、両脇が崖になった細い尾根を下ったりするようになるんです。面白いといえば面白い。そういう道になりました。

自然の懐に頂かれるとはこういう事なのか。
高度感のある絶景ポイント、怖いしかし素晴らしい景色

こうして下る事1時間、「水俣乗越」と書かれた指標に到着しました。

〇水俣乗越から東鎌尾根開始

「水俣乗越」の指標を通り過ぎたら、今度は急登が始まります。自分と槍ヶ岳の間には乗り越えるべき山が見えているので、その山に向かって登る、登る、登る。で、見えていた山の頂に立つと、自分と槍ヶ岳の間には次の山が見えてくるという具合でした。次の山に向かって下っては登り、下っては登りしていきます。山を乗り越える度に、眼前の槍ヶ岳が大きくなってくるのは目に見える成果として、本当に嬉しく励みになりました。また、水俣乗越から1時間後には、左手に遠く下の川まで見通せるダイナミックな景色になってきました。

4つの梯子を連続で下る場所
上高地へ流れる梓川まで一望できる

こうして山を越えること4回?5回? しまいには両手両足で四つん這いになって登るような岩も出てきました。昨年歩いた涸沢カールから穂高岳山荘へのザイテングラートを思い出させるような道になってきました。尾根の道も両脇がざーーーっと下まで切り込んできて、下を覗き込むとすーっとお尻のあたりが寒くなるような場所も出てきました。

とにかく目の前の山を登る
到着すると次の山が見えてくる。この連続。

歩き始めて3時間でヒュッテ大槍に到着。ヒュッテ大槍と槍ヶ岳山荘の位置関係がわかっていなかったので、もうすぐ槍ヶ岳山荘に到着するのかなぁ?なんて気軽に考えていました。

〇最後の登りがきつかった

ヒュッテ大槍を超えると、いよいよ乗り越える山もなくなり槍ヶ岳山荘が頭上に見えてきます。おお、あれか。あそこまで歩けばいいのか。と頭ではわかるのですが、歩いても歩いても距離が縮まる感じがしないのでした。

ヒュッテ大槍も段々と眼下に小さくなってきました。


さすがに最後の方は四つん這いでよじ登る感じではなく、ガレ場の坂道を登る道になったのですが、最後の30分くらいは4歩歩いては立ち止まり、8歩歩いては立ち止まりというくらいのペースになってきました。

立っている場所からまっすぐ上に登る道、長い鎖場でした。

しかし、終わらない旅はない。亀の歩みながらもようやく最後の階段を登り切ってようやく槍ヶ岳山荘に到着したのでした。

〇槍ヶ岳山荘で手続きしてテント設営

槍ヶ岳山荘のテント場は早い者勝ち。午前中に到着すればテント場は確保できるだろうと、昨日の会話で情報を得てはいましたが今日は土曜日ですし心配でしたので、真っ先にテント受付を行いました。

槍ヶ岳山荘、さすがに人気の山小屋でグッズ販売が煌(きら)びやかです。

槍ヶ岳山荘のテント場は絶壁の斜面に段々畑のように作られています。受付では必要な広さを告げ(我々は2mx2m、実際は2mx3mと言えばよかった)、係の人が選んでくれた区画の番号札を渡されます。

とりあえず受付して料金を払って番号木札を受け取り場所確保ができたのでホッとしました。

山荘を出てテント場へは道を登ってから下る道。荷物を担いでテント場に場所確認に行ったのですが、このまま戻るのも面倒なのでテントを立ててしまう事にしました。数メートル離れた場所には、昨日ヒュッテ西岳のテント場でお隣だった男性二人連れがいました。「おおーい!やっと着きましたよー!」と声をかけると「無事に到着してよかったですねー!」。昨日知り合ったばかりですが、あちらの男性の一人も我々も初めての槍ヶ岳とあって、辛い経験を共有した同胞としての仲間意識が高まった感じがしました。こういうのがあるから、山っていいですねぇ。

〇ライスが槍ヶ岳なビーフカレー

さ、テントも張ったことですし、お楽しみのランチを食べましょう。食堂の開店は11時。現在時刻は10分前だというのに食堂の8割は席が埋まり、中にはもう食べ始めている人もいる大盛況ぶりでした。

槍ヶ岳山荘はメジャー中のメジャーという風格の山荘。売店にはロゴの入ったTシャツ多数、ポーチ、手拭いなどがきらびやかに並んで、それらを買い求める人でごった返しています。食堂のメニューも豊富で、スタッフご自慢の手作りケーキなんていうのも数種類メニューに書かれていました。誰もがにこやかに笑、大きな声でしゃべり、盛り上がっています。

昨日の隠れ家的なヒュッテ西岳から来た我々の目には、ま、まぶしい!という光景でした。

周囲の人が食べているカレーライスを見ると、ご飯が槍ヶ岳の形に盛られている!こんなカレーライスは渋谷のムルギーでしか見たことがない。という事で記念にカレーライスを食べる事にしました。

大盛りメニューはありませんでしたが、通常のカレーライスのご飯の量が既に大盛りレベルでした。朝から4時間、過激な運動をしてきた体にぶちこむカレーライスの美味しい事。最高のご馳走でした。

〇槍ヶ岳登山は明日に回してバータイム

今までの3日間は、山小屋に到着してテントを立ててランチを食べたら、その山の頂に登るのが常でした。しかし今日は本当に疲れてしまって、登る気力がわきませんでした。しかも正午を控えた槍ヶ岳には太陽の光が当たってきて、見るからに暑そう。

やめよう、槍ヶ岳に登るのは明日にしよう。

そうと決めたら、もう飲んじゃう。槍ヶ岳山荘には槍ヶ岳を見ながら飲食できる素敵な外のテーブルがあります。真っ青な空に絶好調に突き出す槍ヶ岳を肴に昼から飲むアルコールは最高でした。まだ登ってないけど。

槍ヶ岳山荘には外で槍を見ながら酒を飲むのに最適なかカウンター席があるのです。

さて今日の最初のおしゃべりのお相手は福井県からの美人姉妹と知り合いの男性の三人組。姉妹は今日は大天井ヒュッテから歩いて水俣乗越で男性と待ち合わせて槍ヶ岳山荘まで来て、既に槍ヶ岳に登ってきたんだそうです。お嬢様な感じのお二人なのに、やっている事がタフでビックリしました。聞けばコロナ前は海外旅行好きでよく出かけていたのですが、コロナのせいで行けなくなって登山にシフトしたとの事。タフなのは海外旅行で培われたのかもしれませんね。

ヨーロッパのワイナリー巡りの話、ワインの話などで大いに盛り上がりました。

次にお隣に来たのは一人で登山している会社員の男性。この男性とその次に知り合った男女は新穂高温泉駅から9時間かけて来て、既に槍ヶ岳に登ったそうです。

カウンター席から見下ろすとヒュッテ大槍も見えます。

こうして3組の方とおしゃべりしましたが、全員9時間くらい歩いてここに来て槍ヶ岳まで登っていました。私は自分を褒めたたえたいくらいに頑張ってここにたどり着いて、えらい事を成し遂げた気分でいました。しかし、そんな気持ちはほんの数時間で吹き飛ばされたのでした。こんなに普通っぽい人々が軽々と登山を成し遂げている。もしかして日本人という人種は、恐ろしく身体能力が高いんじゃないかと思いました。

〇初めてのグロッケン現象

そうこうするうちに、次のお楽しみの夕方がやってきました。午後からは下からの霧や上空にも少し雲が発生してきていて、今日は面白い夕焼けが見られそうだという予感。

案の定、西の空には真っ赤に落ち込む夕日に彩られた美しい雲を見る事ができました。

更に、更に。

「あ、グロッケン現象だ!」という青年がいました。親切な青年は「ここです、ここ。今、ここに立って!」とポイントを教えてくれました。西に背を向けて夕日を浴びるように立つと、遠くの山にかかった霧の中に自分の影が映り、その周りに丸い虹が見えるんです。これがグロッケン現象かぁ。初めて体験しました。

背後からの太陽光で雲に自分の姿が影となって映り、虹が影を取り囲むグロッケン現象

登山して、美味しいカレー食べて、いっぱいしゃべって、最後にグロッケン現象見て。いい一日でした。

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