自転車でめぐる、真冬の直島。
夕刻、宇野港を出発した大きなフェリーはものの数十分で直島へ到着した。
街灯が少ない道を足早に坂の上のお宿へと向かう。
海の姿は見えないのに、波の寄せる音だけが聞こえて不思議な気持ちになる。
夜ご飯は、楽しみにしていたおいとまさんで。
レトロな店内、慣れないカウンター席にワクワクドキドキしながら腰掛ける。私以外にもひとり旅らしき女性客がいてすこしほっとする。
ひとり旅の醍醐味は、お店の人とのお喋り、そして美味しいものを自分ひとりでじっくり噛み締めていただくことだと思う。
お酒はあまり強くないけれど、今日だけは、と一杯だけ地元産の桃のサワーを頼んだ。
ふわふわといい気分で、どれもこれも美味しい創作料理に舌鼓を打っていたら、20時すぎに終わってしまう終バスを逃してタクシーでお宿まで帰ったのも、これもまた良い思い出。
翌朝、日の出前に目を覚ました。
絶対に直島では窓の外に瀬戸内海が広がるお宿に泊まりたい、その思いで選んだマイロッジ直島さん。
ベッドに寝転がりながら、窓の外がだんだんと明るくなっているのを眺める。
まだ夜が明けきらないうちにベランダに出ると、淡い色の朝焼けと、静かな瀬戸内海を何隻もの船が通り過ぎていくのが見えた。
朝ごはんは、一階のレストランで。朝のひかりがあたたかくて眩しい。
あのベランダで一日の始まりから終わりまで全部を見ていたかったな、そんな名残惜しい思いを抱えながらもお宿をチェックアウトして、港へと向かう。
直島の海は緑と青が入り混じった色をして、冬でも綺麗に透き通っていた。
この日は自転車を借り、一日かけて島を散策することにした。
思いっきり自転車を漕ぎ出すと、冷たい風が頬を撫でてなんとも言えず心地よい。
坂道も多い直島を、電動自転車でぐんぐん進む。
地中美術館の建築美に圧倒されたり、絶品の島カレーをいただいたり、小高い場所へ登って瀬戸内海を見渡したり。
気がつけば、あっという間に日が傾きかけていた。
観光地として有名な直島だけど、やっぱり冬はそれなりに閑散期らしい。人が少ないのをいいことに、お気に入りの歌を口ずさみながら坂を一直線に降りてゆく。
夕刻、港へ帰着。
高速船のチケットを買って、レモネードを飲みながら船を待つ。
港に差す茜色の夕陽は、今日一日の疲れもすべて吹き飛ぶほどに美しい。
乗り場を間違えて全力疾走しながらも、なんとか船に乗り込み、最後の目的地高松港へと向かう。
シートに沈み込んで夕日を眺めていると、旅の終わりが近づいているのをひしひしと感じる。寂しいような、でも少しだけ東京が恋しいような、不思議な気持ちになった。
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