相貌が見当たりません
・ある日仕事中の雑談で同僚にこんな話をした
保育園に通っている時、時折早番で仕事を終えた父が迎えに来てくれることがあった。その日は午後4時を過ぎたくらいのお迎えで、先生が私を呼んで父が迎えに来てくれたことを知らせる。
室内にある広場の入り口に見たことがない人がいて私の名前を呼んでいた。
「知らない人だ」と思った。確かに声は聞き覚えがあるけれど、顔が全然父じゃない。私の父だと名乗る知らない人を先生は私の父だと思い込んでいる・・・・・・!ニセモノだ!
不安に思っていると私の父(だと名乗る人物)は先生と会話を始めた。「あ、○○ちゃんのお父さん髪の毛切られたんですね」「さっき床屋に行ってきました」何回もお迎えで私の父を見ているはずなのに、先生はいつこの人が私の父ではないと気づくのだろう。
その後、私は父の声によく似た知らない人と車に乗って家路に着いた。車内でずっと「この人誰なんだろう」「私の父とか言ってるけど本当なんだろうなァ?」と思いながら疑いの眼差しを運転席に向ける。隣に座っている間「誘拐だったらどうしよう」とずっとヒヤヒヤしていた。
ほどなくして家に着く。間違いなく私の暮らしている家だ。玄関を開けて知らない人がいきなり入ってきたら驚くだろうなと思っていたら誰も反応しない。ごく当たり前に知らない人を受け入れている。「おかえり」とか言っているじゃないか。あれ、という事はこの人は本当に私の父だったのか・・・・・・!
・そんな思い出話の後、「子供の頃って親が髪を切ってきたりメイクを変えたりすると誰だか分かんなくなるのあるあるだよね」と「子供あるある」を同僚に言うと帰ってきた答えは「いや、普通そんなことない」だった。無いんだ!そんなこと無いんだ!私は衝撃を受けた。
・人の顔を覚えるのが苦手だ。名前は覚えることが出来ても顔と名前が一致しない。今勤めている職場も咄嗟に顔と名前が一致する人が片手で足りるくらいしかいない。だから職場に行くと廊下ですれ違うたび挨拶を交わしつつ心の中で「あれ誰?」となっている人や「こんな顔の人職場にいた?」となっている場合が多い。
・長年お世話になっている病院の先生の顔や看護師さん、受付のスタッフさんの顔すら覚えていない。毎度「こんな顔だったけなあ」と新鮮に感じている。行きつけの調剤薬局の職員さんも然りだ。
・学生時代も顔と名前がはっきり一致するクラスメイトの方が少なかった。だから先生に「この用紙○○さんに渡しておいて」などと名指しでお願いされるようなとき、その○○さんが誰だかわからなくて非常に混乱した。
・芸能人の顔も良く分からない。名前は聞いたことがあっても点と線で名前と顔を結びつけることが出来ない。登場人物が増えるほど混乱する。アニメなら髪の毛の色が派手なので分かりやすくてまだ覚えられると思う。何かしらのインパクトがないと、記憶に残らないらしい。
・「人の顔を覚えるのが苦手」というと帰ってくる答えは大抵「人に興味が無いんでしょ」とか「努力不足」だ。これって、人の顔をなかなか覚えられない人がよく言われる言葉のなかに確実に入るだろう。
・私以外にも人の顔を覚えるのが苦手な人はいると思うが、そうじゃないんだよな、そういう事じゃないんだよな。なあ、そうだろ?中には本当に人に興味が無くて覚えるつもりもない人だっているとは思うが、本当にガチで覚えられない。興味の有無とか努力のあるなしとは全く関係ない。
・私の場合脳の欠陥上の問題で覚えられないのだ。私は軽度の相貌失認の気がある。いや、親の顔すら覚えてないのが果たして軽度なのかはさておいて、この症状は脳の欠損によるものだ。特にこの症状は発達障害を持っている人に多いと聞いてなるほどと思った。発達障害も脳機能障害のひとつだからだ。そんな脳のバグを抱えながら毎日暮らしている。
・ちなみに私は精神科で数回に渡る複数のテストの組み合わせの結果、医者も太鼓判を押すADHDと診断された。お墨付きである。もしかしたら人の顔を覚えるのが苦手な人はひょっとしたら私のように脳機能の問題が関係しているかもしれない。
・人の名前に限らず、何かを覚えることが苦手で苦難を強いられている人は一度発達障害の検査が可能な精神科を探して受診してみるといい。自分の特性を知れば少し楽になれる道を模索できる手助けにもなる。初診までのハードルはちょっとばかり高いかもしれないけど、おすすめです。