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【書評】勘定奉行の江戸時代

勘定奉行と勘定所は、お金の計算も重要な職務だったが、財政、農政、交通。司法など、江戸幕府の重要な政治機能の多くを担っていた。
さらに、寺社奉行・町奉行とともに三奉行の一員として重要な政治案件の意思決定にも深く関わった重要なポジションだった。

そのような重要なポジションであるにも関わらず、勘定所の内部昇進で奉行にまでのぼりつめた、いわゆるノンキャリアの「叩き上げ」組が10パーセントも存在した。

本書では、勘定奉行と勘定所の歴史を通して、江戸幕府を中心とした政治や経済の歴史の大きな流れ、および江戸幕府の役人組織の特色などを紐解いている。

本書の著者

藤田覚著「勘定奉行の江戸時代」筑摩書房刊
2018年2月10日発行

本書の著者の藤田覚氏は1946年、長野県に生まれる。1974年、東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。東京大学名誉教授。

本書の章構成

本書の章構成は以下の通り。

第一章 勘定奉行は幕府の最重要役人

第二章 御家人でも勘定奉行になれる――競争的な昇進制度
1 大名・幕臣の序列
2 勘定所の内部昇進の実態

第三章 財政危機の始まり――貨幣改鋳をめぐる荻原重秀と新井白石の確執
1 幕府財政の悪化
2 荻原重秀と元禄の貨幣鋳造

第四章 行財政改革の取組み――享保期勘定所機構の充実と年貢増徴
1 財政危機と勘定所機構改革
2 年貢増徴と神尾春央
3 米価低落と米将軍の戦い

第五章 新たな経済財政策の模索――田沼時代の御益追求と山師
1 財政支出の削減――出る金は一銭でも減らす
2 新たな財源探し――入る金は一銭でも多く
3 困難を極める米価安と金融不安
4 御用金政策
5 田沼時代の三人の勘定奉行

第六章 深まる財政危機――文政・天保期の際限なき貨幣改鋳
1 幕府財政政策の転換
2 文政貨幣改鋳――品位を落とした貨幣
3 天保の貨幣改鋳と幕府財政――再現なき貨幣改鋳
4 文政~天保期の勘定奉行・勘定所

第七章 財政破綻――開港・外圧・内戦
1 開港と貨幣問題
2 幕末政治・軍事闘争とその財源
3 幕府役人間の対立激化と勘定所の限界

本書のポイント

勘定奉行と勘定所職制は、17世紀の半ば過ぎに確立されたとされる。
18世紀初めの享保の改革においては大規模な機構・組織改革が行われ、職員も大幅に増加させて拡充し、幕府領支配の強化と組織的な財政運営の実現をめざした。

勘定奉行の主要な職務は、幕府の財政運営と幕府領の支配行政(年貢徴収と裁判)で、4名の勘定奉行は勝手方(財政)2名、公事方(裁判)2名に分かれて勘定所職員らを指揮して財政、農政、交通、司法など広範囲に渡る職務の遂行にあたった。

元禄期が貨幣改鋳の利益に頼った時代、享保期が新田開拓と定免法や有毛検見法などの年貢徴収法の採用などによる年貢増徴の時代であったのに対し、田沼時代の勘定奉行は「さまざまな商品生産や流通に広く課税し、金融からも利益を引き出す、さらには蝦夷地開発とロシア貿易、印旛沼開発などの大規模開発、全国御用金令による幕府の政策銀行ともいうべき貸金会所など、大胆な政策による財政運営を試みた」奉行が活躍した時代だった。

寛政の改革期とそれ以降は緊縮による財政運営が続けられたが、それが行き詰ると貨幣改鋳による巨額な益金で財政を運営することが繰り返され、「結局は貨幣改鋳政策が幕府解体まで続けれられることになった」。

本書では、元禄期の荻原重秀、享保期の神尾春央、田沼時代の三勘定奉行、小野一吉、石谷清昌、松本秀持、文化期の服部貞勝、古川氏清、文化・天保期の遠山景晋、幕末期の川路聖謨など江戸の各期の代表的な勘定奉行の活躍なども紹介されている。

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