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【書評】江戸の給与明細

江戸時代に生きた人々の給与水準はどれくらいだったのだろうか?
江戸時代は貨幣経済が広まった時代であるが、金・銀・銭三貨の変動相場制の時代でもあり、武家、商人、庶民の給与水準が現代と比較することが難しい側面を持っている。
同じものでも時代によって価値は変動するから、金一両が現在の価値でいくらになるかを回答するのは難しい。

本書では、物価が安定していたとされている文化・文政年間(1804年~1830年)を基準に、金1両を120,000円として将軍家、武家、商人や庶民の収入や有名人の給与水準を大まかな目安として示している。
また、武家の財テクや商人や庶民のビジネスの代表例なども現代の価値に換算して言及している。

監修者と執筆者の紹介

安藤優一郎監修「江戸の給与明細」エムディエヌコーポレーション発行
2022年12月11日発行

本書は、1965年に千葉県生まれ、早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業、早稲田大学大学院文学研究科博士後期糧満期退学し、江戸をテーマとする執筆・講演活動を展開されている歴史家の安藤優一郎氏が監修。

執筆者の加唐亜紀氏は、1966年、東京都出身。編集プロダクションなどを経てフリーの編集者兼ライター。日本銃砲史学会会員。

本書の構成

本書が章構成は以下の通り。

第一章 江戸時代人のお金事情
<一>将軍家のお金事情 初代家康~三代家光
<二>将軍家のお金事情 四代家綱~五代綱吉
<三>将軍家のお金事情 六代家宣~八代吉宗
<四>将軍家のお金事情 九代家重~十二代家慶
<五>将軍家のお金事情 十三代家定~十五代慶喜
<六>御三卿のお金事情
<七>大名のお金事情
<八>陪臣(大名家臣)のお金事情
<九>公家のお金事情
<十>幕臣のお金事情
<十一>大奥のお金事情
<十二>商人のお金事情
<十三>庶民のお金事情
コラム 隠居料 隠居後の遊びが財政を悪化させる
第二章 有名人の給与明細
<一>長谷川平蔵の給与明細
<二>徳川光圀の給与明細
<三>大岡越前の給与明細
<四>宮本武蔵の給与明細
<五>大内内蔵助の給与明細
<六>市川團十郎の給与明細
<七>十返舎一九の給与明細
<八>曲亭馬琴の給与明細
<九>中村主水の給与明細
<十>銭形平次の給与明細
<十一>人斬り浅右衛門の給与明細
<十二>春日局の給与明細
<十三>赤ひげの給与明細
<十四>徳川慶喜の給与明細
<十五>座頭市の給与明細
<十六>与謝蕪村の給与明細
<十七>新選組の給与明細
コラム 化粧料 大名領を凌駕する結婚祝い
第三章 武家の財テク
<一>新田開発
<二>専売制度
<三>特産物
<四>藩札
<五>贋金づくり
<六>改鋳
<七>内職
<八>借金の踏み倒し
コラム 万石事件 大名になるために石高を虚偽報告
第四章 才能ある商人
<一>「越後屋」型破りな商い
<二>みかんで御大尽になった「紀伊國屋」
<三>江戸の「ゼネコン」川村瑞賢
<四>百億を没収された「淀屋」
<五>武人から商人になった「鴻池」
<六>巨万の富を使い果たした「奈良屋」
<七>武士より強くなった高利貸
<八>志士のパトロン「大浦慶」
コラム 幕府の埋蔵金 小栗上野介の行動が伝説を生む
第五章 庶民の商才
<一>現金収入が博徒を生んだ
<二>「ブランド野菜」でガッチリ
<三>奉公人出世すごろく
<四>俳諧師の旅事情
<五>仕事が山積する「大家」の一日
コラム 江戸の華 遊女が借金地獄から脱出する奥の手

本書のポイント

江戸時代は金は江戸を中心とする金遣い経済圏、銀は大坂を中心とする銀遣い経済圏で流通する貨幣だった。
そのため、江戸と大坂の商人は経済圏を跨る商取引に際しては、両替商を通じて金・銀・銭の三貨を交換して取引した訳だが、三貨の交換比率はそれぞれの経済圏の経済状況によって変動する変動相場制だった。

本書では、物価が安定していたとされている文化・文政年間(1804年~1830年)を基準として、金・銀・銭の換算を幕府の換算基準値を
金1両=銀60匁=銭4000文=米一石
とした上で、この当時はそば1杯が16文だったことから、
そば一杯=16文=現代のそば一杯が大体500円前後
として、現代の価値に換算して1文を30円、そこから金1両を12万円と定義して、現在の相当価格を算出している。


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