【書評】地図で読みとく江戸・東京の「地形と経済」のしくみ
「現代の東京の骨格は江戸時代につくられた。
主な道路網や、政府機関、金融・商業といった機能が集積した地域などが、もともとの地形を活かす形で整備された。」
江戸・東京は、家康による江戸の大改造、明暦大火や関東大震災に伴う復興などで、ハード面だけではなくソフト面も含んだスクラップ・アンド・ビルドを繰り返しながら、空間的規模と質的機能を進化させてきた都市だ。
本書では、「地形」と「経済」を視座の中心に据えながら、江戸・東京の発展の歩みを語っている。
本書の著者
鈴木浩三著「地図で読みとく江戸・東京の「地形と経済」のしくみ」
日本実業出版社刊、2019年3月20日発行
著書の鈴木浩三氏は、1960年東京都出身で、中央大学法学部卒業後、筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業科学専攻修了。博士(経営学)。経済史家。
本書の章構成
本書の章構成は以下のとおり。
第1章 家康が入ってくるまでの江戸
1 「江戸」の地理的ポテンシャル
2 江戸前島は鎌倉の「円覚寺」所有に!
3 円覚寺のつながりで伊勢湾と結びついた江戸
4 「ないものはない」ほど栄えていた道灌時代の江戸
第2章 最初のインフラ整備と江戸前島の役割
1 地形を活かして最小コストで本拠地づくり
2 手間をかけずに整備した小名木川と新川
3 江戸前島はどのように円覚寺から徳川の手に移ったのか
4 初期は徳川氏による直営の城郭工事
5 少しづつ整っていく江戸の町並とインフラ
6 江戸の防衛を狙って増上寺を建立
7 北関東に備えた天封と伝通院
第3章 家康の江戸経営のしくみ
1 町方支配の仕組み 町奉行のシステム
2 町の運営は町年寄・名主・家主の階層で
3 町人とは「地主」のこと
4 メインストリートを整備して日本の中心の町へと変貌
5 江戸四宿の役割とその実態
6 江戸の行政区の範囲はどこまでか
7 家康による通貨統合 金・銀・銭の「三貨制」
8 経済を支配した金座と銀座
第4章 天下人の江戸づくり 天下普請の時代
1 「天下普請」が江戸の経済を一気に活性化させた!
2 江戸前島から始まった江戸の町づくり
3 内濠・外濠を水路に 「水運」を優勢した町づくり
4 仕事が増えて専門業者が集まった
5 普請のためにつくられた新しい港湾施設
第5章 連続する天下普請で、ますます強くなるおカネの力
1 貨幣経済の浸透と内陸を伝う「奥川廻し」の完成
2 第3次天下普請で江戸と江戸城の防御力を高めた
3 第4次・第5次の天下普請はさらに大規模に
4 江戸屋敷の普請にみる金銀銭相場の変動
5 膨大な消費を生み出した参勤交代
第6章 拡大していくヒト・モノ・カネの流れ
1 需要が増えてい「労働市場」が成立した
2 「三都」と「長崎」が日本の経済を支えていた
3 江戸と上方、全国をつないだ「廻船組織」
4 上下水道は廻船への給水も目的だった
第7章 日本橋を中心に発展していく江戸
1 明暦大火で完成した大江戸の骨格
2 市場メカニズムを使った幕府の物価対策
3 明暦大火後の江戸のビジネス街「日本橋」
4 江戸と大坂の経済を回していた「両替」
5 日本橋は「下りもの」の供給基地
6 江戸舟入堀は埋められて職人の町に
7 隅田川の東に拡大していく江戸市街
第8章 江戸時代のお金と経済のしくみ
1 どのように米本位から貨幣経済へと変わっていったのか
2 貨幣経済に巻き込まれた幕臣の給与体系
3 どうして「札差」が力を持つようになったのか
4 業界団体を使って経済政策を浸透させた
5 爛熟期の江戸 問屋・株仲間がキーとなった経済政策
本書のポイント
徳川政権は、江戸に入府すると原地形に手を加え、江戸の地理的範囲を広げる大改造を始めた。
「中世以来の水運のハブ機能を備えた江戸を再編・改造して、インプットとアウトプットの機能を高めたことが、約260年間にわたって徳川氏が政権を維持できた理由の1つである。」と著者は語る。
江戸時代の早い段階で資本主義的な世の中が到来しており、「貨幣経済の急速な発達、金・銀・銭の変動相場で利益を上げる両替、金融市場や労働市場、米の先物取引などが定着」し、人々が使いこなす社会が訪れていた。
徳川幕府は、町人の自治的組織を使った都市行政、列島規模の流通システム、問屋や株仲間を駆使した経済対策を実施し、市場メカニズムを前提とする経済政策を展開していったことを本書では紹介している。