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【書評】江戸の組織人 現代企業も官僚機構も、すべて徳川幕府から始まった!

江戸幕府の組織は官僚組織であり、それぞれの役職に任じられる譜代大名、旗本、御家人には、家禄や家格などによって複雑な昇進コースが存在した。
例えば老中だと三万石以上の大名が任じられたが、いきなり老中になれるわけではなく、いくつかの役職を経験することによって昇進するのが幕府組織の特徴であった。

一方で、数年で入れ替わる(キャリア官僚の)奉行よりも現場一筋の勘定吟味役や与力・同心の意見を尊重しなければ職務がスムーズに流れていかない組織でもあり、こうした組織運営上の特質にも、現代の官僚機構にも通じる部分があった。

本書では、幕府の昇進のあり方とそれぞれの役職の特徴、家格によって規定された昇進コースと家格や慣行によって造られた壁の存在を、事例を通して明らかにしている。


本書の編著者

山本博文著「江戸の組織人 現代企業も官僚機構も、すべて徳川幕府から始まった!」朝日新聞出版刊、2022年4月13日発行

本書の著者の山本博文氏は、1957年、岡山県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学院修士課程修了後、東京大学史料編纂所へ入所。東京大学大学院情報学環教授、東京大学史料編纂所教授を歴任した。2020年逝去。

本書の章構成

本書の章構成は以下のとおり。

第1章 武士という名の組織人
家筋の違いは身分の違い/番における勤務の苦労/布衣役になるために/諸大夫役栄転のためには/人材登用の道が開かれていた御徒

第2章 大江戸治安機関の組織人
町奉行所の組織/町奉行の地位の重さと多忙な業務/町奉行所見学と「七不思議」/町奉行と与力・同心/町奉行所与力の給料と役得/町奉行所の慣行と利権/目明しの弊害/辻番は武家屋敷の警備施設/町奉行所の裁判/安政大地震と町奉行所/鼠小僧治郎吉の逮捕/小伝馬町牢屋式の制度/火付盗賊改/長谷川平蔵が創設した人足寄場

第3章 財政・出先機関の組織人
勘定所の流弊/評定所は幕府の最高裁判所/栄達する者が輩出した評定所留役/遠国奉行の序列と仕事

第4章 江戸城内の組織人
老中の経費/陰の老中、奥右筆組頭/小姓の仕事と昇進/将軍の側に仕える役職/旗本のエリート、目付の職掌/将軍の目や耳になった御庭番/御庭番の日常業務/坊主衆の城内での役割/御用頼表坊主の横暴/江戸城台所の悪弊/出向した大奥女中の気位の高さ/大奥に勤める男子役人/大奥で事件が起こった時の処理

第5章 処遇と処世の組織論
将軍家と天皇家との縁組/出向した旗本の待遇/甲府勤番は不良旗本の溜り場/役職につかない幕臣の上納金/勤向格別な者への手当金/組織を守るための手段/組織改革と慣行/内部告発の是非/いじめがもたらした重大事件

第6章 組織人としての田沼意次―出世と組織の関係を考える

講演録 江戸に学ぶ日本のかたち
江戸幕府旗本の出世のあり方/江戸幕府におけるキャリアとノンキャリア・川路聖謨の心構え/武士道と切腹/誰かが責任を取るということ/日本人の名誉心

本書のポイント

江戸時代の武士身分の中の身分階層は複雑だったそうだが、大まかには上士、平士、下士の三つの身分に分かれたそうで、幕府の組織も藩の組織も、三つの身分を基本にして官僚組織を作り上げていた。
この身分階層を幕府の組織に当てはめると「譜代大名と三千石以上の旗本が上士、三千石未満の旗本が平士、御家人が下士に相当する」そうだ。
本書は、「こうした身分序列があったことを前提に、幕府の組織を中心として江戸時代の組織のあり方と組織に生きる武士たちの実像」が記されている。

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