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ロゴスリーはバスケットに変革をもたらすのか?
今シーズン、NBAにおいてセンターサークル付近からシュートが放たれるシーンをよく見かけるようになった。フロントコートにボールを運び、ドリブルをひとつふたつ。ディフェンスの準備が整う前にシュート。ロゴ付近でスクリーンをセットし、ディフェンスが下がればシュート、タイトに守るディフェンスを剥がすことに成功した場合も3Pシュート。
人間離れしたかのようなシュートの連続に驚き感動すると同時に、単発で外から放たれるシュートの増加に通常のゲームも近年つまらなく感じるオールスターゲームのようになってしまうのではないか、少し不安に思う気持ちも芽生えた。そこで、このロゴスリーというものはそもそも効率が良いのか。今回は特に印象が強かったポートランド・ブレイザーズのデイミアン・リラード選手の成績で確認してみようと思う。
前シーズン(18-19シーズン)、スリーポイントラインより約2m後ろの30ft~シュートを打った本数はリラード選手は47本。出場試合数は80試合であったため1試合あたり0.58本。今シーズン(19-20シーズン)は58試合で111本試投だったので平均1.91本。
2試合で1本打つ程度であったシュートが1試合で2本打つシュートに変わっていた。
では、確率はどうなっているのか。
30〜34ft |42/102 (41.2%)
35〜39ft |6/9 (66.7%)
リーグの3P平均成功確率が35.7%、リーグTop 30(100本以上3Pを決めた選手)の3P平均成功確率41.07%と比較するとリラード選手の30ft~シュートは十分確率の良いシュートと言えるだろう。
また、リーグのエリア別期待値と比較してみても非常に効率が良いと言え、シュート本数が増加傾向にあるのも頷ける。(リーグデータは17-18シーズンのもの。最新のものを見つけられず…)
リラード選手の30ft〜シュート期待値:1.23、35ft〜シュート:2.00
エリア別の平均期待値(17-18シーズン)
リム周り2p×0.63=1.26
コーナー3Pが3p×0.39=1.18
それ以外の3Pが3p×0.35=1.05
ミドルレンジが2p×0.40=0.80
参考:https://www.wowow.co.jp/sports/nba/columns/cris_3.html
では、実際にこれだけの期待値を有するロゴスリーがあることによってどのようなバスケットが展開できるのだろうか。
確認できたプレーは以下の4つ。
1st オプション|Running Pull up
これは攻守の切り替えでディフェンスが準備できていない、油断している時。またクォーター終了間際の2for1を狙う場面で打たれていたショット。ノンプレッシャーのもと、自身のリズムでシュートを打つ場合がほとんどなので非常に確率が高い。
リラード選手:全体 23/51 (45.0%) 30ft〜9/19 (47.3%) 期待値:1.41
2nd オプション|ロゴピック→3P
Running Pull upが警戒されてタイトに守られている時、セットオフェンスを使わずオープンスリーを狙うことができる。
例えばこの4Q残り40秒3点ビハインド。スリーポイントで同点を狙いたい場面
タイトに守られているリラード選手に対してセンターサークルのロゴ上でスクリーンをセット。ディフェンスが継続して厳しくマークをしてくるので、きっちりブラッシングをしてマークを剥がす。
スリーポイントラインから約3m離れた位置でオープンになれたリラード選手。彼にとっては問題のない距離。スピードレイアップによるクイック2Pも警戒したいディフェンスは3Pライン上で構えるのが限界だった。シュートモーションに入ってから必死でシュートチェックに出るも、強心臓のリラード選手にクラッチショットを沈められる。
ディフェンスが厳しくなる試合終盤でもロゴスリーが打てることでセットオフェンスを使わず確率の高いオープンスリーを打つことができる。
リラード選手:ロゴピック→3P | 69/163 (42.3%) 期待値:1.27
そして、仮にもしロゴピックに対してアンダーで守ってくれば、
こちらもRunning Pull up 同様、自分のいつも通りのリズムでショットが打てる。
今までは3Pライン上でスクリーンをセット→ディフェンスの出方を確認→スリーorミドルジャンパーだったのが、ロゴピックの場合は1にスリー、2にスリーが可能となる。
リラード選手:ロゴピック(アンダー)→3P | 10/17 (58.8%) 期待値:1.76
さらに3rdオプションとして、通常のP&Rと同様にレイアップとダイブでリム周りのショットが可能となる。
3rd オプション|ロゴピック→レイアップ
まずエントリーとしてロゴ付近でスクリーンをセット。ディフェンスが3Pを打たせないようにファイトオーバーを試みる。
それに対してペイントエリアが空いていることを確認し、vsビッグマンとなったところですかさずスピードのミスマッチを活かして1対1。通常よりも高い位置なので、3Pライン上でドライブに備えるビッグマンとの距離が長くなり対峙する前に加速が可能となる。
加速をしてスピード値100になったハンドラー vs 待ち構えてスピード値0のビッグマン。
このシチュエーションを作ることができればハンドラーが有利になりやすく、抜き去りイージーレイアップにつなげやすい。さらに、リラード選手はリム周りのフィニッシュスキルも兼ね備えているので、後ろからのブロックやヘルプディフェンスがカバーに来てもきっちり沈めることができる。
次にディフェンスがドライブよりもスリーポイントを止めようとショウしてきた場合(リラード選手の映像を見つけられず、トレイ・ヤング選手のプレーで紹介)
通常のP&Rと同様に2対1が生じてゴール下に飛び込むプレイヤーとスリーポイントシューターでチャンスが生まれる。
だが、ここで通常と異なるのは高い位置でディフェンスがプレッシャーをかけることになるので、パスのあと僅かだがディフェンスローテーションに遅れが生じることだ。
今回は一瞬ディフェンスがシューターに寄ったのを見逃さずダイバーにナイスパス。ディフェンスの出方を見極めてパスを出し、2対1を制してイージーショットにつながった。
しかし、あと一歩のところでショウバックする選手にブロックされる可能性もあった。スクリーンのセット位置が一歩外側か一歩内側か。仕掛けのタイミングでは僅かな違いだが、最終的に得たい結果で見るとイージーショットとブロックショット、大きな違いになると言えるだろう。
4th オプション:キャッチ&シュート
3Pラインから2~3m離れた位置で準備することによってディフェンスのクローズアウト距離が長くなり、シュートチェックの影響を受けず余裕を持って打つことができる。
リラード選手:キャッチ&シュート(30ft〜) 7/18 (38.8%) 期待値:1.16
以上、ここまでのデータからリラード選手によるロゴスリーを起点としたプレー展開は効率が良く、ブレイザーズが採用することに納得ができた。
では、アトランタ・ホークスのトレイ・ヤング選手はどうだろう。リラード選手同様に3Pラインから遠く離れたシュートをよく打っているイメージがあったので検証してみた。
まず、打っている本数は前シーズン69本/81試合、今シーズン104本/60試合。1試合あたりの本数が0.85本→1.73本。
距離ごとの確率と期待値は以下の通り。
30〜34ft : 27/81 (33.3%) 0.99
35〜39ft: 10/23 (43.5%) 1.30
プレイごとの確率と期待値も以下の通り。
トレイ・ヤング選手
Running Pull up | 38/105(36.1%) 1.08
Running Pull up 30ft~ | 9/27(33.3%) 0.99
ロゴピック→3P | 44/135(32.6%) 0.97
ロゴピック(アンダー)→3P | 17/46(36.9%) 1.10
デイミアン・リラード選手
Running Pull up | 23/51(45%) 1.35
Running Pull up 30ft~ | 9/19(47.3%) 1.41
ロゴピック→3P | 69/163(42.3%) 1.27
ロゴピック(アンダー)→3P | 10/17(58.8%) 1.16
リーグの平均と比較しても同程度で特筆して優れているとは言えず、プレーを確認していてもリラード選手のような脅威は感じなかった。ディフェンス側の視点で言うと、この確率では基本的に打たせておいて要所の場面だけ警戒すれば良いと思えた。
しかし、ヤング選手の本当の強みはキャッチ&シュートであることが分かった。
30ft以上のシュートは 14/25(56%) 、30ft以下の3Pは29/60(48.3%)
トータルすると43/85で50.5% 5割を超えているのだ。
Pull upの成功率は平均程度でリラード選手のような脅威はないが、まだ2年目の選手。シュートの上手な選手なので、これからPull up の方も成長を遂げ確率を上げてくるだろうと予想、期待できる。
では最後にまとめとして、ロゴスリーを積極的に狙いこれを起点とするプレーはバスケットの主流として定着していくのか。ここまでは数字に表れる部分を検証してみたが、ここからは数字には現れない部分で自分が感じるデメリットを2つ。
1つ目はディフェンス側の視点でディフェンスが楽ということ。特にRunning Pull up、ロゴピックでアンダーを選択した場合、ディフェンス側からすると何の苦労もなくリバウンド争いをスタートできるのだ。悪い言い方をすればオフェンスがボールをフロントコートに運んできてドリブル1つ2つするだけで外からボールを放ってくれるので、シューターを追いかけ回す必要も、スクリーンでのコミュニケーションも身体のぶつけ合いも、1対1でエースを必死に守る必要も全くないのだ。
2つ目はオフェンス側の視点で、1回のオフェンスで1人しかボールを触らずほんの数秒でオフェンスが終わってしまうこと。せっかく必死でチーム全員でディフェンスを頑張って獲得したボールも該当選手以外はシュートどころかボールすら触ることなくオフェンスが終わり、またディフェンスとなる。あれ?この数分間ボールを触らずディフェンスしかしていないな?みたいに。
シュートが確率よく入っている時は相手に与えるショックも大きく、ホームであれば劣勢状態でも流れを変える一発逆転の飛び道具になりやすい。しかし、これが継続して入らないとなるとどうだろう。ディフェンスは体力消耗することなく楽に守れ、オフェンス側は積もり積もって少しずつチームに不穏な空気が漂ってくるのではないだろうか。若かりし頃のコービーがボールを持ちすぎてチームメイトに不満を持たれていたように。
今シーズンのリラード選手のように結果も残し、チームからすでに信頼を得ているチームリーダー・エースであれば、多少ダメな時、試合が続いても簡単にチームが崩壊することはないだろうが、コーチのチームをまとめる手腕やエースのリーダーシップ、サポートメンバー含めて全員の戦術遂行意識がいつも以上に試されるように思え、どのチームも安易に飛びつけるような戦術にはならないのではないかと考える。
よって、多くのチームではまだまだ現状2for1を狙うタイミングや稀に選手がゾーンに入ったと感じるタイミングで思い切って打たれる程度に限られるのではないだろうか。
しかし、歴史を振り返って見るとトップの選手に続くように周りのプレイヤーが成長を遂げ、下の世代からも上の世代に憧れ続々と実力を兼ね備えたプレイヤーが現れる。今シーズンのリラード選手のようにシュート距離関係なく結果をコンスタントに残せるプレイヤーがこれから登場するだろう。そして、実際に現れた日にはロゴスリーを起点とした戦術が流行る時代も訪れるかもしれない。
*この記事中のシュート距離に関してはNBA.com Statsで記録されているもの。
*プレイごとのシュート確率に関してはNBA.com Statsで全てのシュートを映像で確認、独自に分類、集計した数字になります。