桃李の話
桃李 もの言わずとも 下自から 蹊を成す
意味は、桃や李(すもも)は、美しい花を咲かせ、美味しい実を結ぶので、何も言わなくても人が集まって、その樹木の下には、そこに到るための小道(蹊)が、自然にできる。
徳のある立派な人物のもとには、黙っていても、自然と大勢の人が慕い寄るもの、というたとえ。
これは、司馬遷『史記』「李将軍列伝」に出てくる諺。司馬遷が、中国前漢時代の李将軍(李広)を讃えて、引用した言葉だ。
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今週、仕事で制作した動画の配信がスタートした。動画PR担当の私は、その動画をたくさんの人に見てもらうため、プレスリリースや社内通知の作成に追われている。
プレスリリースの書き方に厳しい社内規定がある中で、「刺さる」公式文書を書くのは、挑戦であり、腕の見せどころである。ただ、社内の決裁がなかなか通らず、他の業務と締切が重なり、心を乱して、思い出したことがある。
桃李
ああ。桃李になりたい。
こ世界的な巨匠が作った、とか、敏腕プロデューサーが手がけたとか、「桃李」な動画なら、プレスリリースなんて作らなくても、黙っていても、バズるに。
ああ。私も、J.Y. Parkのような「桃李な」プロデューサーなら、自ずと、再生回数が「億」を超えるのに。
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こんなことを考えている時点で、全然ダメだ。
司馬遷にソッポ向かれそうだ。
我が社の動画は「桃李」じゃないし、プロデューサーである私は李将軍(李広)の足元にも及ばない。比較するのも、烏滸がましい。
そんなこと、わかっている。
だから、気を取り直して、「自分が楽しめる」社内通知を、「ニュースバリューを明確した」プレスリリースを、最終決裁を取るまで、さまざまな立場の人たちのご指導を賜りながら、できるだけ「速やかに」完成させる努力をする。
私の仕事の舞台裏でも、人徳が必要だ。
人の意見を素直に聞ける。
謙虚である。
変化を受け入れられる。
人徳が備わっていない私には、なかなか難しい仕事である。
ただ、この業務がスキだ。
動画配信が始まると、「この動画、誰かに届くだろうか?」と漠然と不安になる。その不安を解消すべく、自分の言葉で、動画をPRするためのプレスリリースを書く。そして、そのプレスリリースを公表するまでの過程に、複数の上司からの「GOサイン=決裁」をもらうため、それぞれの上司の考えを聞いて、また別の言葉を絞り出す。
自分が納得する公式文書を自分の言葉で創り出すのは、心地よい。最初にあった「不安」が、より自由な、より解放された気分へと変わっていく。
上司に恵まれたおかげかもしれない。アドバイス、指導は賜るが、理不尽なことを要求されることはない。
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徳が高い、とは、なんだろう。
徳が高い人、とは、誰だろう。
『東京リベンジャーズ』の東京卍會の弐番隊長・三ツ谷くん、かなぁ。
三ツ谷くんは、東卍に入ってるのに、気遣いもできるし、2人の妹の面倒も見るし、手芸部の部長だし。「ありがとう」の言葉も、ごく自然に出てくる。
マイキーとドラケンの喧嘩を止めたタケミチに、まだ東卍メンバーに入っていないタケミチに、三ツ谷くんは、お礼を言う。
ありがとな
お前が止めてくんなかったら
東卍ヤバかったかもな
『東京リベンジャーズ 3』第21話
カッコいい!
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「人徳」を求めるのは、私には、ハードルが高い。
ただ、自分には何があるのか、探してみることにしている。