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オレンジの灯り

元旦。渡しそびれたグリーティングカードとお守りが、机の上にあった。24日の終業式の日に、深月みつき先輩に渡すつもりだった。先輩のクラスまでは行ったけど、楽しそうに男の先輩と話してたのを見て、そのまま自分のクラスに引き返してしまった。

「あけおめ。プレゼント渡しに行けば?バレー部、明日から部活だってよ。」
同じクラスの村田からのライン。
「明日、塾の帰りに体育館のぞいてみる。」

次の日の午後。塾に自転車で出かけた。僕はまだ1年生だけど受験のために英会話スクールに通っている。裏通りを抜けて、塾がある大通りに入ると、深月先輩が自転車をひいて歩いていた。隣には、この前先輩とクラスでしゃべっていた男がいた。その人は、引馬先輩と言うらしく、ボート部で全国大会に出場。頭も良く、河合塾の全統模試の成績優秀者リストの常連らしい。しかも、どイケメン。僕が敵うはずがない。見たくない光景だった。

" I've just seen something that I don't want to see. "
僕の深月先輩に対する気持ちを、誰かに聞いて欲しくて、誰かに慰めてもらいたくて、塾講師のジェフに拙い英語で話してしまった。すると、ジェフは言った。
「ユウ、先輩に君の気持ちを伝えるべきだよ。」

ジェフの言葉に背中を押されて、高校へ向かった。だんだん暗くなってきていた。サッカー部は片付けを始めていた。自転車を止めて体育館の方へ歩いていくと、ボート部の人たちが、ちょうど佐鳴湖から帰ってきたところだった。

「ねえ、君、深月みつきに用事?深月は、素直な子が好きだと思うよ。」
引馬先輩の澄んだ声にイラついた。なんだよ。余裕かよ。引き止められて話し込んでいたら、部活を終えた深月先輩が出てきた。
「ユウ、どったの?」
「あー。ちょっと話したいことあって。」
「了解!じゃあ、一緒に帰ろ。チャリ通だよね。」
深月先輩は、同中出身。帰る方向が一緒だ。

「待った?」
「いえ。・・・あの、深月さん、これ。」
カードとお守りを差し出した。すっかり暗くなっていたけど、駐輪場には電灯がついていた。

「ごめん。本当は終業式の時渡すつもりだったから。クリスマスっぽいカードになってる。」
「365日、受け付けてるよ。でも、今日のこれは特別嬉しいよ。」
「え?・・・深月さん、もしかして、ボクが好き?」
嬉しくなって思わず口走ってしまった。恥ずかしい。

「今日、私の誕生日だからね。あと、ユウの、ふわふわ天然パーマは好き。かわいい。あと丸メガネも。」

夜道を深月先輩と一緒に帰った。僕はおしゃべりができなかった。自転車のヘッドライトのオレンジの灯りが、走りに合わせてユラユラと揺れていた。僕と深月先輩が行く先を遠くまで照らしていた。(1,180字)

***

他のクリエイターさんの作品を読んで、「うわぁ。素敵な小説を私も書きたい。」と思い、書いてみました。いつも、ありがとうございます😊。

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