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家で3匹のネコと3匹のハムスターを飼っていた。あまりに凶暴な猫たちなので、ネコ専用の部屋に3匹を住まわせていた。ハムスターは僕と妻と娘が3人で生活する部屋で暮らしていた。

ある月の明るい夜。満月だったかもしれない。

餌を与える為にネコ部屋に入ったら、違う部屋にいるはずのハムスター3匹がいた。理由は分からないが、ハムスターたちは部屋にあったハムスター用の飼育カゴから逃げ出していた。

これではネコの餌になってしまう。やばいな、と思った矢先、来客を知らせるチャイムが鳴った。

僕はハムスターたちを安全な場所に避難させるべきだったが、ネコがまだハムスターの存在に気づいていない様子だったので、先に来客の対応をしようと、玄関に向かった。

「はい」と玄関に出るなり、黒いジンベエのような着物を羽織った、いかにも極道のような姿の男が4人。そのうちの一人がいきなり僕の肩を押し、僕は玄関の壁に追い詰められた。

こんな暴力的な扱いを受ける身に覚えは全くない。

本当に全くないので、警察なんかに通報したらこの人たちはタイホされるだろう、と思った。しかし、4人の後ろに、10人くらい彼らと同じ格好をした輩達がいて、太鼓やラッパなんかを鳴らして、こちらを威嚇していた。

僕の家には3匹のネコと3匹のハムスターと妻と娘がいる。娘はまだ1歳にもなっていない。警察がタイホする前に、こんなにガラの悪い大勢の男たちに家の中に入られたら、妻や娘が何をされるか分からない。

僕がすべきことは、まず、この男たちに、いち早く家の敷地から出て行ってもらい、ハムスターたちをネコ部屋から救い出し、安全な場所に避難させ、平穏な日常を取り戻すことだ。

「なんですか?」と僕。

「あなたの家なんですけど、今、5,700万円の値がついてます。これを今すぐ売ってください。もし、嫌なら5,700万円以上の家を紹介してください。あなたには、その選択肢しかありません。」と僕の肩を押したハゲヅラの男が金額の書かれた広告のようなものを僕に見せながら言った。

「はい?家を売る気はありません」と僕。その広告には、僕の家の写真とその下に5,700万円と書かれてあったが、5,700万円の上に2重線が引かれ、5,000万円と値引きされた金額が書かれてあった。

まだ売ると決まっていない僕の家を広告に載せられて、しかも値引きまでされている。僕がこの家を売ったとしても、この男たちが仲介人ということで莫大な手数料を取ることは容易に想像できた。手数料を売値の半分以上取られて、僕の手元に入ってくるのはごくわずかなお金だろう。

それに家に値がついたとはいえ、簡単に買い手が現れる保証はない。最悪、僕たちは家を失い、お金も得ることが出来ない。どうやって生活をしていけばいいのだろうか。

「家は売りませんよ」と僕。

「なら、5,700万以上の物件を紹介しろって言ってんだろう!」とハゲヅラが怒鳴った。

「わかりました。とりあえず、一度お引き取りください。探してきます。」と僕。

「わかった。また来るからな!」とハゲヅラ。

男たちの理不尽な要求よりも、夜中に太鼓やラッパを鳴らし、大声で怒鳴りつけて、寝ている娘が起きてしまうことを考えると、無性に腹が立った。ふと、男たちの中に、自分の職場の後輩がいるのを発見した。

僕は、後輩のもとに行き「何やってんだ?どうにかしてくれよ」と言った。すると後輩が、ふくみ笑いをした後、ふざけた旋律でラッパを吹き鳴らした。周りの男たちは、それを見て笑った。

それを見て、僕は後輩の頭をつかみ力いっぱい押さえつけた。「なにやってんだ、そんなことして!娘が起きるだろうが」怒りに満ちた声で後輩にそう伝えた。力任せに後輩を突き飛ばし、男たちにジロジロ見られながら、僕は家の中に入った。

さあ、どうしたものか。まず、ハムスター達を避難させよう。

ネコ部屋に入ると、ハムスター達が猫に追い詰められていた。僕は猫たちを追い払いハムスター達を捕まえようとしたが、ハムスター達は僕の手の届かない衣装ケースの隙間に逃げこんでしまった。

この狭い隙間なら猫たちに襲われる心配はない。僕は衣装ケースの隙間の前に座り、ネコたちが入れないようにした。そして、この危機的状況にどう対応すべきか考えた。

とりあえず、いつもお世話になっているヒラオカ先輩に連絡をしてみようか、しかし、あんなやばい輩たちと関わることで迷惑をかけても申し訳ない。

他に、何か手立てはないか。警察に連絡してみようか。今から電話して、事情を話しておけば、今度やつらが来た時に、立ち会ってくれるかもしれない。

僕の背後ではハムスターがもぞもぞとしている。

その時、ケイタイを寝室に置き忘れているのを思い出した。ヒラオカ先輩に連絡するにしても、警察に相談するにして、それを取りに行かなければならない。

そのためには、この隙間の入り口から離れなければならない。

もし、僕が離れ、ハムスターたちが間違えて隙間から出て来てしまったら、ネコたちに襲われてしまう。どうしたものか。

僕は途方に暮れた。

色んな選択肢が頭をよぎっては消えて行く。消えて行くので、どんな選択肢だったのかは記憶に残らなかった。

それは堂々巡りだったのかもしれない。選択肢が同じ場所をグルグルと周っている。戻ってきても現状は何も変わっていない。

もしかしたら、同じ選択肢が何度も巡っているのかもしれなかった。

ネコたちが暴れている。

ハムスターたちは怯えている。

寝室では妻と娘が眠っている。

途方に暮れたまま、どれくらいの時間が流れたのだろうか。気がつくと朝になっていて、玄関に友人のキド君がいた。

そして、あの輩達もいて、キド君は必死に、そして、強気で何かを訴えていた。

僕は立ち上がり、キド君の横に立った。

輩達はひるんでいた。キド君は法的なことを話しているようだった。そして、キド君は「自分たちには君たちを成敗するための準備がある」ということを言っていた。

僕とキド君との思い出は、公園でバーベキューをした時、酔っぱらって、吐いたり失禁したりしたキド君を介抱したことだとか、

キャンプ場に遊びに行った時、みんなで川に飛び込もうと提案し、みんな一緒に川に向かって走り始め、キド君以外は川の寸前でストップして、キド君だけが川に飛び込み、川に流されていくキド君をみんなで笑ったりだとか、

キド君の情けなさが際立ったものしかない。

しかし、そんなキド君が、コワモテの輩達を相手に、僕を、そして、妻と娘を救おうとしてくれている。

やがて輩達は「覚えておけよ」と言わんばかりの表情で帰って行った。

キド君すげえ。キド君は去っていく輩達を睨みつけるように見ていた。

「キド君、すげえやん。マジでありがとう」

情けない男であるキド君がどんな表情で振り向き、僕を見るのか。キド君が僕の方に顔を向けようとした時、目が覚めた。長くて不思議な夢だった。

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