![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/59587428/rectangle_large_type_2_779eb430bfb4788788f2f12bb40a6554.jpeg?width=1200)
2021年の夏。北部九州は、お盆に入る前から、ずっと雨が続いていた。大きな災害になった地域もあった。地方の役所で働く僕は、災害の対応や避難所の開設などで、家に帰れない日があった。
盆が開け、少し経って、ようやく晴れ間が出た。
久しぶりの休日。庭に目をやると草がめちゃくちゃ伸びている。春に植えたサツマイモが雑草に埋め尽くされていた。
草は夏に伸びる。
僕は小学4年生の頃からバスケットをしている。夏の暑い時期の練習の際には、指導者から「がんばれ!君たちは夏に伸びるんだ!」みたいなことをよく言われた。
人も夏に伸びるらしい。
幼稚園に通っている娘と息子は、7月の中旬から夏休みで、ずっと家にいる。妻がずっと面倒を見てくれているのであるが、子どもたちは、この夏、大いに成長しているような気がする。
というのは、娘は、日中、持て余した時間を活用して、ダンボールで家を作ったり、絵を描いたり、工作をしたり、ピアノを弾いたりしているそうだ。
僕が家に帰ると、作ったり描いたりした色々なものを見せてくれるし、ピアノを弾いてくれたりするのだが、作ったり描いたりした作品のクオリティの高さや、弾けるピアノの難しさに、いつも驚いてしまう。
そして、息子は、この夏、いくつかの字を書けるようになった。
自分の名前を至る所に書いている。白壁にクレヨンで自分の名前を書いた時は、流石に怒ったが、字だけじゃなく、言葉も色々と覚えてきていて、今日はお風呂に一緒に入っている時、僕の身体のホクロを指差して、
「おとう、このホクロ、生まれた時から、出てきてるん?」と聞かれた。「多分そうだよ」と答えたが、「ホクロ」を知っていることに驚いた。この夏、息子の語彙は確実に増えている。
やはり人は夏に伸びるのだ。
中学2年生の時の夏。3年生が引退して、新チームになった。僕はバスケ部のキャプテンをしていたが、部員が8人しかおらず、1年生の3人は、夏の苦しい練習が嫌で休みがちだったので、僕を含め5人の2年生だけが、夏の練習に参加していた。
やっていた練習メニューは、本当は10人くらいでやる練習メニューだった。つまり、それを5人でやることは、通常より2倍濃縮したメニューを練習しているのと同じだった。
例えば、フットワークの練習で、筋肉に負荷をかけるメニューをコート1往復する。すると、すぐに別の筋肉を鍛えるフットワークの1往復が待っていた。
休む暇が本当になかった。練習が終わると、筋肉痛で歩くだけで足に痛みが走った。
そんな夏の終りに練習試合があった。地域の数チームが集まって行う練習試合。
僕らは2年生の5人と、時々にしか練習に来ない1年生3人の合計8人で練習試合の会場に向かったのだが、10人以上の部員がいる他のチームより、僕らのチームが圧倒的に強かった。
すべての試合で圧倒的に勝って、その日の練習試合を終えた。
その時は何とも思わなかったが、僕らは夏の間に伸びたのだと思う。
人は夏に伸びるのだ。
なぜ、人は夏に伸びるのか。
おそらく、自然が夏に成長するからだろう。人も自然の一部なのだと、僕は理解している。それは、人智を超えた法則みたいなものなのかもしれない。