見出し画像

機械工学への誘い ~1 機械工学って何?~

みなさん,「機械」というワードで何を思い浮かべますか?
最近は機械学習という言葉にもあるように,従来のメカメカしい(ちょうどヘッダー画像のような)だけでなくコンピュータ系のものでイメージが広がっていると感じていますが,では機械工学では何を学べるのか,というのは意外と知らない人も多いのではないでしょうか.機械工学の研究と教育に関わる末端として,機械工学とはどんな学問なのか,何を学べるのかを主に高校生や進学先を検討している大学1年生あたりをターゲットに紹介していこうかな,と思います.

はじめに,この記事を書こうと思ったきっかけ

なぜこんな布教活動まがいなことを始めようと思ったかというと,実は機械系の人気がなくなってきている,という風の噂を聞きつけたからです.私の母校の東北大学工学部では,機械系は結構人気の高い学科だったので,この噂を耳にした時はショックを受けました.私自身は,動きのあるもの(車とか飛行機とか,何か動くもの)を対象に工学を学びたいという意識で機械工学に入り込んだのですが,考えてみるとそれ以外の身近な機械って少ない(あるいは目に見えない)ということに比較的最近気づきました.それだと車か飛行機に興味のある人以外や,なんとなくものつくりに興味があるけどどの学科にしようか迷っている(車とか飛行機にそこまで魅力を感じない),みたいな人をとりぼしかねない!そこで,機械がどんなところに潜んでいるか,あるいは機械以外の身近な物理を理解するのにどれだけ役に立つかをつらつらと書いて,一人でも機械工学というものに興味を持ってもらえたら,と考えています.

機械工学ってぶっちゃけ何のための学問?

こういう問いを立てると,おそらく多くの人は,「いや機械を作るためでしょ」と思うかもしれませんが,個人的にはちょっと答えが違います.現時点での私の答えは「ものを壊さないようにするための学問」です.意外とネガティブな理由でがっかりするでしょうか.もちろん,機械工学を学んだ先にある研究はものを作るための活動であることに間違いはありません.ただ,学部で学ぶ機械工学,という話になると,おそらくこの答えなのかな,と個人的に感じています.
ものを作るって,はたから見ると大変な作業に見えて,やっている本人たちはすごく楽しかったりします.そして,何かを作る時に必要になる知識ってケースバイケースだし,そのための勉強は苦しくないと思うのです.問題は,ものを作ってうまくいかなかったり,うまく動いたと思ったらすぐ壊れたりすることです.こういう時は苦しい時間になりますし,一般にものづくりの大半はこの時間なんじゃないかな,と思います.機械工学は,よくあるトラブル例と回避策,確認しておいた方がいいこと,設計やトラブルシューティングの時に解析をしたいのならこういう理論があるよ,という指針を教えてくれます.
機械を作るのは人の妄想や夢,パッションなど感情的な側面で,それを理論的に支えてくれる・守ってくれるのが機械工学,という位置付けと今は考えています.

機械工学を構成する四大力学「四力」

さて,ここまで機械工学の話をしてきましたが,実は機械工学という一つの分野や講義があるわけではありません.対象とする分野は非常に広範囲で様々な学問を含みます.ここでは,機械工学を語る上で欠かせない,4つの代表的な学問分野を列挙したいと思います.

  1. 流体力学
    水や空気といった流れを理解するための学問.翼や配管の設計や,風や水流の中で作ったものが壊れないようにするための理論を教えてくれる.

  2. 熱力学
    熱と動力の変換を教えてくれる.車・飛行機のエンジンや,エアコンなどの動作に必須.

  3. 材料力学
    材料の変形を扱う学問.ものに重力がかかったり,何か物体を支えたりするときにどのくらい変形するか,壊れずに支えられるかを教えてくれる.

  4. 機械力学
    主に振動を扱う学問.どうなると振動が発生するかや,振動を抑える仕組みを教えてくれる.

順番は単に私が慣れ親しんだ順です.この四つはおそらくどの大学の機械系の学科でも必修の如く習うと思います.例として飛行機の設計でこの4つの学問がどのように貢献しているかを書いてみると,

  1. 流体力学 - 羽の周りの流れとそれによって生じる揚力の推定.燃費のいい胴体の形状など

  2. 熱力学 - ジェットエンジンの効率や燃費に関する設計.必要な燃料量の推定など.

  3. 材料力学 - 気圧の低い上空でも壊れない胴体,飛行機全体の重さを支え乱気流を受けても折れない翼の設計など.

  4. 機械力学 - 着陸時の衝撃を適度に和らげるバネの機構など

といった具合でしょうか.もちろんこれ以外にもたくさんあると思いますが.

機械工学の楽しいところは?

とにかくいろんな分野の理論を学べることかなと思います.結果として,社会における様々なものの仕組みを知ることができたり,機械と関係ない身の回りの不思議への解像度がものすごく上がったりします.例えば,

  • 扇風機の前でアイスがすぐに溶ける理由,扇風機や団扇が涼しく感じる理由,サウナのロウリュが熱く感じる理由は全て同じ

  • 小中高の理科の実験でよく出てくる沸騰石が普段の調理では使わなくていい理由

  • エスカレータで立ち止まって乗る場合と歩いて乗る場合でどのくらいエスカレータにかかる衝撃が変わるか

  • 電気で暖をとるときはどんな暖房器具を選んだらいいか

  • 換気する時に窓をどう開けたらいいか(一箇所だけ開けても意味ないよね,みたいなこととか)

あたりは機械工学を学ぶと結構具体的に答えがわかって楽しいです.

機械工学の重要性

前述の通り,ものを壊さないための学問であるがゆえに,ものが存在する以上なくなることはない学問分野だと思います.何かを作るメーカは必ずといっていいほど機械を使っているし,前述の通り身近な現象にも通じる学問なので,この辺りが機械系は就職に困らない,と言われる理由なんだと思います.

むすびと予告

というわけで,機械工学って楽しいしすごく重要だよ,という話を独断と偏見だけで書きました.世の現象のあれもこれも知りたい,という欲張りな人には特におすすめです.予定では,機械工学を構成する各分野の説明もちょっとずつしようと思っていますが,本業の忙しさで流れるかもしれません.あまり期待せず待っていてください.

いいなと思ったら応援しよう!