
心霊スポット
心霊スポットに行ったことが何度かある。
中学生の頃、地元で有名な廃墟に友人数人と行ったのがおそらく最初だ。
誰かが管理していた土地だったらごめんなさい。
そこはもとは普通の一軒家で、ボロボロでありながらも両隣には普通に家があり、そこには居住者も居た。
そんな生活感のある空間に一軒だけ、空気も様相も全く違う土地が挟まっていて、その違和感が思春期真っ只中だった当時の私達の心を捉えて離さなかった。
友人に声をかけられ何度もその家の前まで行っては「こえ~」などと言っていつもみんなで帰る。
人に話せば拍子抜けするようなチャレンジを毎度も繰り返すが、友人たちが中に入っていっても私自身はなかなか入ることができなかった。
というのも私が恐れていたのは幽霊ではなく、人間だったからだ。
両隣には普通に家がある。そして普通に不法侵入。
幽霊など怖くないと強がりな中坊が肩をぶん回し己の強さを主張しようと住居侵入に勤しむ中、私の心を支配していたのはそんな虚勢ではなく、罪人になることへの恐怖だった。
しかし一度だけ、中にはいったことがあった。
中学生が外に出られるタイムリミットの一時間ほど前。雪の降る直前の季節の頃で既に日は完全に落ちていて、反比例するかのように私達のテンションは爆上がっていた。
何故か心になんのつっかえも用意していなかったその日の私は今までの恐怖など何もなかったかのように、「好奇心」を丸呑みした化け物のようにすんなりと土地に足を踏み入れた。
中には元々なんのために使われていたのかわからない大小さまざまな木が横たわっていて、色々なところへの道を阻んでいた。
ゴミが散在していており、いたるところに落書きがされている様子からは、自分たちのような罪人が何人もこの地に足を踏み入れていることを実感させた。
下手すれば戻ることができないのではないかと言うほど劣化した階段に恐る恐る体重を加え、なんとか上まで行くと、おそらく子供部屋と思われる部屋の壁に、子供が書いた絵が貼ってあった。
私は一瞬恐怖で顔が青ざめかけたが、ふとその部屋全体に目を移すと広がっていたその雑然とした風景に自分の汚部屋を重ね、
「今、人の部屋に入っている」
ということに初めて実感を持った。そしてその瞬間から私は
「でなきゃ」と唐突に強く感じた。
その数日後から私は人にとある話をするようになった。
部屋の窓から髪の長い女がこちらを見ている、という様子の話だ。
なにか物語があるわけではなく、ただそのビジョンが頭から離れないという話。
夢で見たのか、現実で見たのかはわからない。
しかしいまだから言えるが、アレはおそらく、一度想像してしまったから頭から離れなくなっただけだったと思う。
しかしなんとなく怖くて、今でもあのビジョンは鮮明に思い浮かべることができる。
次に私が心霊スポットを訪れたのはそれから約7年後。
車の免許を取得した大学生というのは心霊スポットに行きたがるものだというのは恐らく広辞苑に書いてあるが、例に漏れず私も友人たちと心霊スポットへ訪れたことが何度かあった。
地元で有名な坂道やトンネルなど、今度は犯罪に当たらないようなところを車で通り過ぎる程度のもの。
元々村だった、みたいなところへも行ってみたが、大抵は森の中なので、虫がウザい、程度の感想しかなく、怖い体験も何も無いのが常であって、この頃の経験は私にとって幽霊への恐怖を捨て去るのに十分すぎる程だった。
そう、何も起こらないのだ。
いくら丑の刻を狙って行ってもその場でなにか起こることはないし、後日も何も起こらない。
人魂に追いかけられたりエンジンがかからなくなったり、追いかけてくる何者かがミラーに写ったり、手形が車中についているなんてこともない。
ただ後日、夢でひどい怖い目にあったりはする。
これだけなにもないという経験をしていながらも、私は想像力が豊かなので怪談を読めば震え上がるし、その幻影が夢に後を引いたりもする。
経験していないなりにも怖いと思えるのは、ほとんど自分のために、亡くなっても安らげる場所があると信じているのが大きな原因だろう。
それと同時に、それを信じる代償としてしかたなく幽霊を信じてやっている状態。まあいない証明はできていないし、みたいな。
だから、怖い経験をしないと思うことと、幽霊を信じないことはイコールではない。
ただ、何でもかんでも安易に超自然現象と結びつけるのはきらいなので、現実を見れている、と思う。
しかしまあさすがに、心霊スポットに行った夜中に電話が鳴って、翌日に首を痛めたときには、焦ったが。
寝違えたんだろうと言うことも、呪いということもできますよね。
ちなみに電話は呪いではなく、兄でした。