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実は知らない?!ストライクゾーンの実態

ストライクゾーンといえば、『公認野球規則』によって定められた↓の画像のものを示すと思っている方がほとんどだと思います。

引用元: User Mori Chan on Flickr (Original version) User Num(Crop and Remix) - Originally posted to Flickr as "_MG_6169"

先に申し上げておきますと、これは”机上”のストライクゾーンで、現場で実際に使われているストライクゾーンとは異なります

「いやいやいや、そんなはずないでしょ」
「え、どういうこと?」

そういった声が聞こえてきそうですので、この記事ではそんなみなさんの頭の上に浮かんだ「?」を解消すべく、ストライクゾーンの”実態”を解明してまいります。


ストライクゾーンの歴史

ストライクゾーンの定義

冒頭でご紹介した画像にみられる、一般に知られる”五角柱”の「ストライクゾーン」の根拠は、ルールブックにおいて以下のように定義されていることにあります。

 打者の肩の上部とユニフォームのズボンの上部との中間点に引いた水平のラインを上限とし、ひざ頭の下部のラインを下限とする本塁上の空間をいう。
 このストライクゾーンは打者が投球を打つための姿勢で決定されるべきである。

『公認野球規則』74 STRIKE ZONE「ストライクゾーン」

ストライクゾーンの歴史と変遷

今ご紹介したのは、"今現在"におけるストライクゾーンの定義です。というのも、ストライクゾーンは時代とともに変化してきました。

野球というスポーツが生まれた当時、「ストライク」という概念は存在しませんでした。打者が自分の打ちたい投球にだけスイングを試み、3回空振り、かつ捕手がその第三スイング目の投球を捕らえればアウトになる、というルールでした。根拠は”最初の野球規則”として知られる、1845年に作られた『ニッカー・ボッカー・ベース・ボール・クラブ・ルール』の第11条にあります。

投球を3回空振りして最後の投球が捕えられたらアウトとなる。捕えられなければフェアとみなされ、打者は走らなければならない。

ニッカー・ボッカー・ベース・ボール・クラブ・ルール』第11条 訳: 野球体育博物館

見逃しても「三”振”」、英語でも「”strike(=打つ)” out」)」と未だに呼ぶのは、元々三振がバットを振る行為なしには成り立たなかったことに端を発すると考えられます。ちなみに当時の原典には「strike-out」ではなく、「hand-out」と記されています。

余談になりますが、後段の「捕えられなければフェアとみなされ、打者は走らなければならない」は”振り逃げ”の直接的なルーツになります。なお、英語では"dropped third strike(捕球されなかった第三ストライク)"と呼ぶので、現在ではバットを振らなくても「”振り”逃げ」が成立しますが、このルールができた当初の「振り逃げ」という表現は適切だったことがわかります。

話が少し脱線しましたが、この三振のルールだと、打者のさじ加減次第では永遠に試合が進まないことも理論上は可能となります。無意味に試合を遅延することはなくても、例えば雨が降っている場合や日没が関わってくる際にリードしているチームがこのルールを悪用し、試合を故意に遅延させて勝とうとするシチュエーションは十分に起こりえます。

これを受け、全米野球選手協会(National Association of Base Ball Players)は1858年に採用した規則、『RULES AND REGULATIONS OF THE GAME OF BASE BALL』の中でこのような行為を取り締まるため、試合を遅延させる目的で打者が”好球”をあえて打とうとしていないと審判員が判断すれば警告が発せられ、それでもなお同様の行為を打者が続ける場合、スイングしなくても審判員がストライクと判定する、としました。

"Should a striker stand at the bat without striking at good balls repeatedly pitched to him, for the purpose of delaying the game or of giving advantage to a player, the umpire, after warning him, shall call one strike, and if he persists in such action, two and three strikes. When three strikes are called, he shall be subject to the same rules as if he had struck at three balls."

拙訳:
打者が意図的に試合を遅らせたり、他の選手に有利な状況を作ったりするために、何度も投じられる好球を見送る場合、審判員は警告を発した後、ストライクと宣告する。もし打者がそのような行為を続けた場合、第二ストライク、第三ストライクを宣告する。第三ストライクが宣告された場合、打者が3球振って空振りした場合と同じ扱いとする。

『RULES AND REGULATIONS OF THE GAME OF BASE BALL』(1858) Section 37

”好球”とは「good ball」の翻訳で、「いい投球」と訳していただいても構いませんが、あえて「いい”ボール”」としなかったのは、ストライク・ボールの区別と混同しないためです。ただし原文では「ball」となっており、これはこの1858年当時はまだストライク・ボールという意味合いでの「ボール」という概念が存在していなかったため。現在はこの区別をはっきりさせるため、投球はルールブックにおいて「pitch」や「pitched ball」と表現するようになっています。

それから5年後の1863年に、今度は守備側が同様の目的で投手があえて打者が打てる"fair balls"を投げないときに投手を罰するルールが作られました。ここで初めてストライク・ボールにおける「ボール」という概念が登場します。それと同時に現在でいう「四球(フォアボール」のルールも誕生しました。当時はボールが3つで打者には一塁が与えられていたので、当時の言葉を使えば「base on balls」となります。ちなみにこの用語は今でもルールブックに残っていますが、口語的には「ball four(四球、4つのボール)」もしくは「walk(アウトにされるおそれなく与えられた一塁に”歩いて”進むことから)」と表現されることがほとんどです。

"Should the pitcher repeatedly fail to deliver to the striker fair balls, for the apparent purpose of delaying the game, or for any other cause, the umpire, after warning him, shall call one ball, and if the pitcher persists in such action, two and three balls; when three balls shall have been called, the striker shall be entitled to the first base; and should any base be occupied at that time, each player occupying them shall be entitled to one base without being put out."

拙訳:
もし投手が、試合を遅らせる目的、またはその他の理由で、繰り返し打者に妥当な投球を投じられなかった場合、審判員は警告を発し、ボールを宣告する。もし投手がそのような行為を続けた場合、第二ボール、第三ボールを宣告する。ボール3球が宣告されたら、打者は一塁への進塁権を得る。その時点で塁上に走者がいる場合は、各走者はアウトになるおそれなく1個の塁を進塁する権利を得る。

『RULES AND REGULATIONS OF THE GAME OF BASE BALL』(1863) Section 6

ただここで、もうお気づきの方もおられると思いますが、”好球”や”妥当な投球(fair balls)”とは非常に曖昧な表現であり、ともすると球審が打者に対し「ストライク」と判定するのも、投手に対して「ボール」と判定するのも、その基準が曖昧なものであった、ということになります。

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