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スプリングトレーニング その2

今回は前回の記事で申し上げましたように、スプリングトレーニング中に試合以外で行う活動として最も重要となるミーティングについてお話しさせていただきます。

日程

〜午前10時 健康診断
午前10時〜午後12時 セキュリティや薬物・アルコール使用などに関するポリシーの説明など

<昼食>

午後1時 実験的なルールについて/保険などについて/健康管理について/移動について/組織のアップデートについて

ルールに関する主な議題

違反グローブ

Official Baseball Rulesの3.07(a)には、次のように記されています。

The pitcher’s glove may not, exclusive of piping, be white, gray, nor, in the judgment of an umpire, distracting in any manner.
No fielder, regardless of position, may use a fielding glove that falls within a PANTONE® color set lighter than the current 14-series.

Official Baseball RUles 3.07(a)

これをほぼそのまま翻訳してある公認野球規則で日本語にしてみると、

投手のグラブは、縁取りを除き白色、灰色以外のものでなければならない。審判員の判断によるが、どんな方法であっても幻惑させるものであってはならない。
守備位置に関係なく、野手はPANTONEの色基準14番よりうすい色のグラブを使用することはできない。

公認野球規則 第3章7条a項

余談ですが、審判員として活動されている方ならご存知の方も多いと思われますが、『公認野球規則』は必ずしも「Official Baseball Rules」の“和訳版”というわけではありませんし、「Official Baseball Rules」が必ずしもアメリカ全土共通の規則書というわけでもありません。この件につきましてはまた別の記事で詳しく触れようと思います。

話を戻しまして、議題としてはこの“違反グローブ”の取り締まりを厳格にしていく、ということでした。近年、メーカーが灰色や白色のグローブを発売するようになりました。個人的にはそもそもルールで違反とされているグローブの色をなぜ販売するのか解せない部分はあるのですが、おそらく「売る側の自由」という自由主義に則って、そこまでは干渉しないのでしょう。ただ、それを試合で使うとなると話は別、ということで取り締まり厳格化という運びになったと思われます。

なお、これまで投手が白または灰色のグローブを使用するのはルール通り、取り締まりを行なっていました。というのも、アメリカのプロ野球は割と投手が身につけるものに厳しく、distracting(幻惑させる、気を散らすよう)なものに関してはこれまでにも取り締まってきました。基本的に投手がグローブ以外のブレスレットの類のものをつけていると外すように言います。

それに加え、今回厳しくなったのは野手のグローブです。野手に関しては特にどのような色をつけていても支障はないので、これまでは見逃すのが慣例だったのですが、今年から野手が白あるいは灰色のグローブをつけている場合も、取り替えるように命じることを徹底するようになります。
ルールブックにある「PANTONE」の14シリーズより薄い色も取り締まりの対象となりますが、グラウンド上にそのPANTONE14シリーズの色のサンプルを持ち込むわけではないので、実際のところ取り締まるのは白色か灰色になることでしょう。

これが青のPANTONEシリーズ14。参考までに。
ちなみに松坂大輔さんが引退試合で使用していたこちらのグラブ。
メジャーリーグ、マイナーリーグでは違反扱いとなります。

ステップボーク

これまでもメジャーリーグではボークの中でもいわゆる「ステップボーク」に関しては抗議できないようになっていましたが、このほどマイナーリーグでも同様の運用がなされるようになりました。

ステップボークの判定をした際は、ボークのコールの後に投手のフリーフットの太ももあたりを何度かタップしてそれがステップボークであることを視覚的に伝えるようになっています。それでもなおベンチを飛び出したり、自分のポジションを離れて抗議を行った際は警告が与られ、それでも続けた場合は退場となります。

新ルール

ピッチタイマー

ついに今年からメジャーリーグでも採用されることになったピッチタイマー。大まかなことは↑の記事を読んでいただければ理解できると思います。

メジャーリーグでは投球間が走者なしの場合は15秒、走者ありの場合は20秒ですが、マイナーリーグでは走者なしの場合は14秒(全レベル共通)、走者ありの場合はトリプルAが19秒、それ以下のレベルはすべて18秒となっています。投手はピッチタイマーが0になるまでに投球動作を開始しないとボールが宣告され、投手は残り8秒の段階で打席に入り、打つ準備ができた状態で投手に”alart”していなければなりません。読売新聞の記事では「投手との勝負に向き合」うというふうに訳してありますが、具体的に"alart"するというのは視線を投手に向けているという解釈で運用します。「打者は構えていないといけない」と解釈している記事も目にしましたが、それは間違い。別に打つ姿勢をとっている必要はありません。打席に両足があり、投手に視線が向いて打つ準備ができていれば、バットの位置などは特に問われません。

また、↑の記事で書かれてない重要なルールの一つに、打者は一打席に一度しかタイムを要求することができない、というのがあります。

近年、打者が自分のタイミングで打席に入りたいあまり、必要以上にタイムを要求する場面が増えていました。また、↓の動画のようにわざと打者が準備できてないすきに投球を開始する「クイックピッチ」を試みる投手も出てきました。

これは相撲の「はっけよいのこった」と同じで、お互いのタイミングがあって初めて機能するシステムだったため、お互いを出し抜こうとしたり、お互いが自分のタイミングを守ろうとしたりした結果、試合を遅延する原因の一つとなってしまったのです。その解決策として、打者には一打席につきタイムを要求する回数が1回と定められました。

さらにそのルールを“悪用”する投手も出てきました。打者がタイムを一打席に1回しか要求できないのをいいことに、投球の開始をわざと遅らせて打者の気を散らし、たった一回のタイムを使い切ったすぐ後に打者が打つ準備に入った瞬間、投球するというものです。

このような行為はすぐに取り締まりの対象となり、打者が投手に視線をむけて打つ準備をする前に、ワインドアップなら投球動作の開始、セットポジションならセットに入ると投手には警告が与られ、二度目以降は「ボール」が宣告されるというルールが新たに設定されました。

シフト制限

センターラインで区切って、内野手が両サイドに二人ずつ必ずいなければいけない、というルールです。内野手のポジション(ラインナップ上の守備位置)は毎イニング初めの一球目に固定され、選手交代がない限りはサイドを行き来することはできません(もちろん同じサイドにいればポジショニングの変更は可能)。また、内野手は投手が投球動作を開始したときには内野内に両足がある必要があり、かかとが少しでも外野の芝生にかかっていれば違反となります。違反となった場合、ボールカウントが1つ追加されます。例えば、投球がストライクだった場合はストライクを取り消してボールを追加。打者が打ってアウトになった場合はアウトを取り消してカウントにボールを追加して打ち直し。打者が塁に出たり、そもそもボールだった場合はそのまま継続します。打者が打った場合にタイムをかけるタイミングは、打撃妨害のときと同様にすべてのプレイが終わってからです。もし打者がアウトになったとしても、犠牲フライなどで得点が記録された場合は、攻撃側監督に選択権が与えられます。そのためにも一度すべてプレイを流してから処置をするのです。

ピッチコム

投手が帽子に装着するデバイス。キャッチャー側のデバイスでボタンを押すと音声が鳴る仕組み。
キャッチャー側のデバイス
右膝に装着し、ミットで隠しながらサインを伝達するのが一般的。
投手が装着することも可能。

試験運用されるルール

二塁ベースの位置

二塁ベースの位置は↑にあるようにベースの中心が、ファウルラインに対して直角に引いた一塁と三塁からにラインが交差する点にくる、というのは半ば豆知識的な野球のルールとして知られています。そのベースの位置を正方形の中に収めるというのが新たな試みとして考えられています。大きくなったベースに加え、ベース同士の直線距離を縮めることでより多くの盗塁機会を増やそうというのが狙いです。

今年からメジャーリーグでも使用開始された大きなベース。

滑り止め加工されたボール

新しいボールに指定された泥をつけることでボールのツヤを消し、さらに滑りにくくする、というのが慣例でした。しかしながら、この作業ではどうしてもボールの明るさ、滑りにくさに違いが出てしまいます。

ボールにつける公式の“泥”

また現在投手に対して行なっている手および“持ち物”チェックは投手が滑り止めとして松脂やさらに粘着性が強力な「スパイダータック」といったルール上で違反となっているものをつけていないかどうかを確認する作業なのですが、ボールがそもそも滑りにくくなければそんなことをする必要もなくなるのでは、という発想から、すでに滑り止め加工されたボールを使用するという動きが出ています。
ちなみにすでにほとんどの方がご存知と思いますが、日本で製造されているボールにはこのような加工がすでにされており、東京オリンピックの際にそのボールを使用したメジャーリーグ経験のある投手から高評価だったそうです。

ABS

Automated Ball/Strike System、いわゆる“ロボット審判”の正式名称です。
今年、トリプルAでは火、水、木曜日がフルABS(すべての投球判定をロボットが行う)で、金、土、日曜日がチャレンジシステムと呼ばれる、投手、捕手または打者が判定に異議があった場合にチャレンジできるというものです。
チャレンジができるのはこの3人のみで、もしベンチから何かサインを送ったり、すぐにチャレンジの意思を示さなかったりした場合はチャレンジできません。

 



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