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ゴールデンサークルで捉えるスクラムガイド:「理解が容易」で「習得が困難」なのはなぜか?

スクラムガイド2017(もう5年前!)には「スクラムの定義」という項目において「理解が容易」と「習得は困難」という説明書きがわりと目立つ形で記載されていました。これらの文章はスクラムガイド2020(もう2年前!)からはガイドのシンプル化に伴い削除されましたが、今でも当てはまる特徴だなと実感することがあります。チームでスクラムをはじめて「やってるんだけどうまくいっていない」という相談を受けることもかなり多いです。今回はまさしくその「理解が容易だが習得は困難」である理由が何かを少し考えてみてみたいと思います。

理解が容易な理由

スクラムのフレームワーク自体がシンプルで定義が明確です。また、その定義が書いてあるスクラムガイドが非常にコンパクトであることもスクラムを理解しやすい理由です。ページ数も日本語版で18ページ、英語版で14ページと本を1冊読むのと比べればかなりライトですよね。

スクラムを構成する要素もそこまで多くはありません。理論の3本柱、5つの価値基準、3つのロール、5つのイベント、3つのアーティファクト。こう羅列すると多く感じてきてしまいましたが(笑)、スクラムは1枚絵でもよく表現されるように構成自体もシンプルです。

スクラムガイドが存在し、その内容がシンプルであることからスクラムを始めやすく感じる方も多いでしょう。それが結果的にスクラムの採用率を上げ、ネットや書籍にもノウハウが溜まり、またスクラムの理解を進めているのかもしれません。

習得が困難な理由

スクラムはそのシンプルさからプロセスやロールにばかり目が行きがちです。それが行き過ぎると、スクラムの各ロールを割り当てられたメンバーがいて、スクラムのプロセスを守ってさえいれば必ずうまくいくということを期待してしまうことがあります。

あるいは、そのプロセスやロールをスクラムガイドのルールを守っていないケースも意外と多く見てきました。これまでの働き方との兼ね合いで、スクラムのルールを自分たちのこれまでのルールに合わせてカスタマイズしたがために、うまくスクラムのメリットを享受できないパターンです。スクラムはこのことについて、序文の「スクラムガイドの目的」で触れています。

フレームワークの各要素には特定の目的があり、スクラムで実現される全体的な価値や結果に欠かせないものとなっている。スクラムの核となるデザインやアイデアを変更したり、要素を省略したり、スクラムのルールに従わなかったりすると、問題が隠蔽され、スクラムの利点が制限される。場合によっては、スクラムが役に立たなくなることさえある。

スクラムガイド p.1(2020)

「問題が隠蔽」「利点が制限」「役に立たなくなる」など、かなり強い言葉で書かれています。このことは、目次を挟んですぐまた別の言葉で述べられています。

スクラムはシンプルである。まずはそのままの状態で試してほしい。そして、スクラムの哲学、理論、構造が、ゴールを達成し、価値を⽣み出すかどうかを判断してほしい。スクラムフレームワークは意図的に不完全なものであり、スクラムの理論を実現するために必要な部分のみが定義されている。

スクラムガイド p.4(2020)

まさしくこれらは「守破離」の考え方です。スクラムはスクラムガイドに定義してあることから外れた途端にスクラムではなくなります。この文はスクラムのカスタマイズを否定しているわけではありません。ただ、スクラムを知らずに初めからカスタマイズして、結果うまくいっていないことを「スクラム」がよくないという話にすり替えてしまうことを避けてほしいがゆえに書かれているのだと思います。

ゴールデンサークルで捉えるスクラムガイド

そういう意味でスクラムガイドで軽視されがちなのが、スクラムの理論の3本柱と5つの価値基準です。スクラムのプロセスやロールがやり方であるWhatであるのに対して、理論の透明性・検査・適応はどのように取り組むかのHow、それを通して価値基準である確約、集中、公開、尊敬、勇気はなぜスクラムをやるのかのWhyにあたると私は捉えています。これをゴールデンサークル的に説明してみましょう。

  1. Why: 私たちは価値を生み出すチームとして、確約、集中、公開、尊敬、勇気ある振る舞いのチームを理想像として目指し続けている。

  2. How: そのために、チームの中に透明性を保ち続け、あらゆる変化を検査し、できるだけ早く適応していく。

  3. What: それを実現するために、スクラムというフレームワークに則り、仕事を進める。

これが多くのチームでは以下のようになっていないでしょうか。

  1. What: スクラムというフレームワークに則り、仕事を進める。

  2. How: これにより、チームの中に透明性を保ち続け、あらゆる変化を検査し、できるだけ早く適応していけるはずだ。【以上、終了!】

  3. Why: (ない、あるいは、トップダウン)

スタートポイントとしてトップダウンでスクラムをやること自体は別に問題はありません。アジャイルへのシフトでは上の許可や理解があったほうがスムーズです。ただ、その開始した後に"Why"がない状態でスプリントを回し続けるスクラムチームは"What"の理解に留まり、最悪の場合プロセスをなぞるだけになってしまうでしょう。

これらの価値基準がスクラムチームや⼀緒に働く⼈たちによって具現化されるとき、経験主義のスクラムの三本柱「透明性」「検査」「適応」に息が吹き込まれ、信頼が構築される。

スクラムガイド p.6(2020)

スクラムガイドは「ガイド」として持つべき価値基準を親切にも定義してくれています。この価値基準こそが大切だと明確に記載されたのも、実はスクラムガイド2016年版からであり、それが2020年版にも残り続けているわけです。つまり、スクラムガイドが実践を通して洗練されていく中で外せない要素の1つなのです。スクラムガイドがページも少なくミニマルなのは、そこに書いてあることすべてが重要だからともいえます。

スクラムを実施している方や、スクラムマスターをアジャイルコーチングをしている方もぜひ、今回の記事をきっかけに「習得が困難」を乗り越えるために、スクラムを"Why"から始めてみませんか?

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Takahiro Ito
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