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「その間」という考え方

2011年ころから写真をやり始めたとき、自分がここまで写真にハマってしまうとはあまり考えていなくて、それというのも、中学生のときに修学旅行の写真を家に持ち帰ったら、母に「ほんとに写真下手だねえ」と言われたのを気にして、それ以後の人生でずっと写真から逃げてたからなんです。何気ない一言で人生ってずいぶん影響受けるんだなというのも思いますが、ある意味ではそうやって写真から遠ざけられていたからこそ、2011年頃のデジタル一眼レフブームが来たとき、その可能性に一瞬で魅せられたのかもしれないなあとは思います。こういうのって古い言い方でなんていうんでしたっけ、「人間万事塞翁が馬」でしたっけ。リズムが良いですよね。にんげん、ばんじ、さいおうが、うま、yo。

写真をやりながらだんだんとハマっていったんですが、その一方僕は文学研究者としての「本職」があったので、あくまでも趣味の範囲でやってたんですね。ところがやっていくうちにいろいろと評価していただけて、段々と金銭の発生するようなお仕事に結びつき、そうなると税金的なあれこれを考えてプロになっちゃうほうがいろいろと便利だなというわけで、パラレルジョブを開始したわけです。2017年の年始に税務署に開業届を出しました。プロとしてはだからまだせいぜい2年なんですよね。

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で、パラレルジョブを開始してみると、意外とこれが性にあっていたわけです。文学者でもあり写真家でもあるわけですが、それは同時に「文学者でもなく写真家でもない」という、「その間」を示唆する場所へと自分を導いてくれます。この「なんでもない立ち位置」というのが、思いの外、というよりも格別に僕の好みに合ったんですよね。

考えてみると、写真もまた「その間」ばっかり目指してきたような気がするんです。何か主たる流行のようなものとはちょっと違う感じ。なので最初は日本ではあまりまだ流行ってなかったHDRっぽい風景をやり始めました。で、日本でもそういうパキパキした写真が流行りはじめると、今度はコントラストで闇を落とすような写真に。最近はそのどれでもないような中途半端な写真を量産しているんですが、それはそれで良いなと思ってるんです。中途半端であるということは、何にでもなりうる「その間」を示唆する、僕の器用貧乏な性質にすごくマッチするわけです。

写真が僕の人生の中に入ることによって、僕は自分や自分のキャリア、あるいは考え方そのものを相対化するような手段を手に入れました。これは、カメラという媒体自体が本質的に抱えている機能のようにも思います。「カメラは介入しない」というふうにソンタグは言っていますが、まさにカメラは、その撮っている瞬間において、その現場から目を離してファインダーを覗いているという、「介入できない」性質を持っています。写真で眼の前の被写体は撮っているけど、そのシャッターを押す瞬間、我々はその光景を自分の目で見ていないわけです、原理的に。ファインダーなり、背面液晶なりを覗いている(いやもちろん、レリーズで撮ってて、ちゃんと前を見ているときだってあるんですが、原理的な話として)。カメラや写真は、本質的に、目の前の風景に対して極めて相対的な、不介入の位置にいます。そうやって現実世界を一旦かっこに入れる事ができる。それが多分、すごく気に入ったんですよね。

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徐々にこうした傾向のすべてが、僕の中で「その間」というテーマに行き着いていくわけです。何かと何かの間にこそ、いろんな未発見ものがあるんじゃないかと。もちろん、なーーーーーんにもないときもあるんです。探しにいったら、そこはすでに歩いた道だったというようなときも。いろんな失敗がありました。というより、成功の方が少ない。でも、見つけたときの喜びが大きいし、その発見は自分が語ることのできる「ある物語空間」として、写真なり文字なりで提示できる。そういうことが可能になる場所として、僕は多分2019年以後「その間」というテーマに基づいた「物語空間」を探して、いろいろやっていくんだろうなという気がしています。

「その間」というのは、すごく拡張性があるんですよね。例えば人間同士の間に入る事もできるし、メディア同士の間に入る事もできる。そうやって、何かと何かの間には、ある種の力学なり関係性なりが目に見えない網の目として張り巡らされている。それを可視化するということそのものが、また次の「その間」を示唆する導き手となっていくんです。

というわけで、2019年はもっともっといろんな脱線を繰り返していこうかなと。成果でないかもしれないけど、楽しいじゃないですか、多分。

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別所隆弘
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