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援助する側・される側にとっての見え方の違いから学ぶ 〜吉田みつ子『看護倫理』

以前facebook で紹介していたこちらの本の改訂版が出た!(写真右が旧版、左が新版)
せっかくなので、以前のレビューを貼り付けたうえで、改訂版での変更点を紹介する。
まずは以前書いたものから。


この本すごいな。

吉田みつ子『看護倫理 見ているものが違うから起こること』医学書院、2013年

高尚な雰囲気のある表紙とはうってかわって、中は漫画が登場する。
しかもそれが単なる添え物ではなく、全体の構成自体がよくできている。

看護師と患者の間でのちょっとした出来事(たいてい、看護師のほうは悪気はないが、患者のほうにとってはモヤモヤしたり腹が立ったりする場面)を漫画で提示し、
患者と看護師に、何が起きたの?」で読者に問いを投げかけ、
看護師のストーリー」(漫画)&「看護師の世界を考える」(文章)では看護師側の文脈と背景を掘り下げ、
さらに同じように「患者のストーリー」(漫画)&「患者の世界を考える」(文章)で患者側も掘り下げ、
そのうえで、「何が問題? 論点を整理する」で論点整理する。
ものによっては「家族のストーリー」なども入る。
これが16場面。
いやあ、よくできてますわ。

しかも、本書のすごいなと思うのは、これを単に「対応の仕方のノウハウ」みたいな傘のもとでまとめるのではなく、「倫理」を軸としてまとめていること。
看護師にとっての善さ、患者や家族にとっての善さ。時にそれが食い違うなかで、どうやって善さを、倫理的な看護を追求していくか。

倫理原則に照らし合わせ、行為の是非を解釈、判断するだけでは、看護実践の倫理を考えることはできません。なぜなら看護師たちは、すでにそれはわかっているのですから。 

 ※「すでにそれはわかっている」に傍点 p.9

そして本書は、「臨床的な感覚」を大事にしながら、それを働かせながらこの問題を追究していこうとする。
2022年時点で第8刷とのことなので、定評のある本なのかな。

これの学校教育版(教師・子ども・保護者)ができたら面白いなあ。
まあ、赤木和重さんの『「気になる子」と言わない保育』とか、ある意味では私の『小学校の模擬授業とリフレクションで学ぶ 授業づくりの考え方』も、立場の違いによる見え方のギャップをもとに探索していこうとする点で、重なる部分があるわけだけれど。
似たコンセプトをもつ取り組みが異分野で起きているのが面白い。


以上が、2013年刊行の初版のほうの紹介。
今回、これの第2版が出た(写真左、小さいほう)。初版から11年を経て。

吉田みつ子『看護倫理 見ているものが違うから起こること 第2版』医学書院、2024年

何が変わったか。

まず、サイズが小さくなった(最初、そのことに気づかずに、「初版どこにやったのかなー」と探し回るハメに…。サイズで本棚を探すので)。デザインもより今風のスタイリッシュなものになった。

次に、16の事例のうち2つが入れ替わり(Advance Care Planningと身体拘束をテーマにするものが入った)、順番も、カテゴリーごとにまとめられる形で並べ替えられた。コラムに関しても、「ロボットやAIに看護実践はできるか?」といった現代的課題を扱うものが追加された。

それから、漫画部分が更新された!
同じ事例のものも描き直されている。大筋やテイストは変えないまま。
これは一つには、B5からA5への判型の変化に対応するためだろう。小さくても見やすく、エッセンスが浮かび上がるものになっている。
いやあ、よくこれ描き直したなあ。描いているのは、漫画家の横谷順子氏だ。

こうした変化はあるものの、根本的なところではそれほど変わっていない。
こう評してよいのかは分からないが、本書、初版のときからとても良い本だったものの、初版のときには、看護学校や看護学部、研修などで使うテキストという趣だったのが、今回の改訂によって、書店で手にして買いやすい本になった気がする。もちろん、テキストとしてもより洗練されたと思うが。

同時にすごいなと思ったのは、いろいろ手が掛かっている&この物価高のご時世なのに、100円しか本体価格がアップしていないこと。最近は、増刷のタイミングで大幅値上げになる本もあるようなので…。

そんなこんなで、買うなら今がチャンスです。
看護の領域じゃなくても(私自身、看護は素人だし)、対人援助職の方全般にとって有意義な本だと思います。

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