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トレーラーの運転手という仕事

私の職歴の中の一つにトレーラー運転手という仕事がある。一般的に知られない社会の一つなので今回題材にしてみようと思う。
きっかけは家庭の事情ですぐにお金を稼がなければいけない状態になったので大型運転免許と牽引の免許を取り、経験が無ければ初心者が業界に入りにくいトレーラー運転手の中でも敷居が低い輸出入コンテナを配達する通称海コン運転手と言うものを一時期生業としてみた。
中でも東京港は特殊で、違法就労当たり前で人材不足でさらに敷居が低く『教習所と言われるブラック企業に入社してから経験を積み、少しでも待遇の良い会社に移動するのが当たり前』と言われていてこの仕事につく人は同じ業界で何社か渡る人が多い。私は2社で経験を積んだ後に先輩から誘われて最後の5年間を車両を自分で買って仕事を請け負う通称個人償却という働き方をした。


基本的な仕事内容は前日に翌日配達分の海上コンテナを港からシャーシに乗せてもらい、翌朝配達し終わってから空のコンテナを港に帰す事の繰り返し。主に地場で東京スタートの基本的に栃木埼玉神奈川、たまに長野や仙台、兵庫、和歌山もある。
多い日は近場を2.3往復すると言ったところである。

労働環境:


1日平均15時間労働はザラであった。最初の会社では36時間ぶっ続けで、間に仙台の配達に眠気で死にそうになって帰り道に頭にきて4時間寝たら会社の事務所からタコチャートの4時間を指差し『これどこで遊んでたの?』と言われて『労基飛び込みましょうか?』と言ったやりとりもあった。世間で言うトラック運転手の労働環境が垣間見れる仕事である。
しかし慣れてしまうもので何年もすると気にしなくなり、1100万円で買ったトラックが金利9%(レッドバロ○じゃあるまいし(笑))5年ローンで払い終えたところで売却し足を洗った。

給料について:


社員時代は手取り25から30万ほど。拘束時間考えると全く割に合わなかった。請負時代はばらつきが合って、閑散期で手取り20万ほどで忙しい時期で70万ほどだった。ぱっと見普通の人から見ると給料が良いと思われるかもしれないが、時給換算すると社員のひどい時で400円くらい。請負の場合は自営業になるので当たり前に年間売上1000万は余裕で超えるので毎年確定申告で消費税で60万ほど、所得税で35万ほどを毎年4月に払っていた。
請負時の明細的には月の収入の例えだと。


月売上130万とすると月の経費が
軽油代20万円
売上の手数料13%(ナンバー貸し代)17万円
積荷保険料5500円
任意保険3万円
トラックのローン25万円
シャーシレンタル5万円
車検積立4万円(大型トラックの車検は自賠責込50万円)
差引55万ちょっとにしかならない。
この他に定期的にオイル交換、故障したら修理代、タイヤ交換(タイヤ一本3万円以上)代金、高速料金、個人事業主なので前に言った消費税と所得税の他、都民税と年金、国保の支払いもある。


これを考えると実質手取り40万に行かないと思われる。
他の運転手は節税(?)の為なのか『消費税が払わなくて良くなる!』と共産党の民商に登録して消費税を払わなくていいシステムを使っていたりもした。これは謎システムであるが共産党が絡むせいか国税局は手を出せないようだ。しかしトラックを売るなどして廃業し民商を抜けた瞬間税務署が入って脱税扱いで徴収をうけるパターンは業界ではお約束となっているがそもそもあんまり考えたがらない人が加入するものなのでそう言った話は絶えない。
私は自営業の経理の経験があったのでなるべく節税したがそれでも上記のように税金は掛かってしまった。
きれいな言い方をすると職業選択の自由は人それぞれだしニーズもある。トレーラーが大好きという人もやればいい。ただ私は『自営業としてリスクを負う割には割に合わないし、これで人生を終わらすのもなぁ。』と思ってしまったのでトラックの支払いが終わる5年ジャストできっぱり辞めた。
ただ敷居は低く経験が積めるので、最終的に本当のトレーラーのプロを目指すのには入り口としては良いのかもしれない。

人間関係について:


いい人も多いけど悪い人はレベルが段違いで悪い。一般的な割とホワイトな会社を経験してきた人からすると異世界すぎて面食らうと思われる。人を殺してしまった人も居るしヤク〇もいる。ただ付き合いをしてみるとチンピラなんかと比べたらはるかにヤク〇の人の方が筋が通ってるし逆に業界の適当さから比べると一番常識を知っているように感じた。運送業なので働く会社自体も想像通りではあるのだが、輪をかけて船会社の対応がすごい。社会で研修するようなビジネスマナーなんてものは基本的にはない。それだけに人間観察としては面白い仕事であるがある程度営業などで駆け引きなどをしてきた人にとっては常にキャリア否定をされてるように感じるかもしれない。もちろんいい人もいるし、ただその付き合いをする線引きをきちんと決めないととても面倒なことになりやすい。

運転について:


難しいなどと言われるが慣れである。ぶつけるかどうかを心配してて、実際にやりたいけどぶつけないか心配だと言う人がいると思う。
その答えは『軽でもなんでも自家用車でぶつけない人はどんな大きい車に乗ってもぶつけない』。
慣れるまではトラクタヘッドの後輪がハンドルの角度という認識がつくまで時間がかかるがその感覚を掴んでしまえば基本的に問題がない。普段ぶつけたりまともな運転が乗用車でできない人以外はトレーラーの運転は誰にでもできるようになると思っている。ぶつける人は運転自体に適応能力がないから。事故を起こす人も一緒で見なければいけないところを見て運転してないから自家用車で事故を起こしやすい人は確実にトレーラーに乗っても同じ理由で事故を起こす。
私はこの業界に居た経験を、小さな社会のケースとして現在在籍している大学の卒論として書こうと思いデータを残していたが世に出しても何も変わらないだろうし誰も得をしないと思いとどまった。
ただそこまでの題材になり得ないだろうからnoteにでも書いてそう言ったフィールドもある事を知ってもらうだけで十分なのではないかと思いここに記した。
人それぞれの結果になり得るが、私はこの仕事が糖尿病になるきっかけにもなったし運転職以外の業界ではなんのキャリアにもならないことも知った。それでも楽しい先輩や取引先にも出会えたし全くの損ではない。今後自営業をやるための肥やしにはなっているとは思う。
ただこれは事故を起こしていないからこの結果で済んだ可能性もあるので一概には言えないが。


どんな雰囲気なのか気になる方は参考になってくれればという意味で動画を置いていく。
車内がモバイル環境になっているが、稀に私のように待機時間を使って大学の講義を受けたり株・FX・仮想通貨などをしている運転手もいる。人と直接接する時間がない仕事の特徴ではあるが、勤務時間15時間以上で運転席の外に出るのは30分ほどと客観的に見るとフォアグラの檻にも見えてしまうかも知れない。

もっと社会的に認知され、少しでもこの業界の労働環境が改善されることを望む。

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