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追い込まれてする減損と余裕の減損


 みずほフィナンシャルグループが2019年3月期に6800億円の減損損失を行うと発表しました。

 期末に近づくと、「減損損失」の記事が目に付くようになります。

 減損損失は、否定的ニュアンスで報道される場合が多いように見受けられますが、肯定的ニュアンスで報じられる場合もあります。

 同じ減損でも、どうして評価が違うのでしょうか。

 そこで減損の二つの側面を検証してみましょう。

 減損会計とは、企業が収益向上のために資金を投下した資産の収益性が低下して、投資金額の回収が見込めなくなった場合、当該資産の帳簿価額を切り下げ、費用として計上する会計処理です。

 ここから、減損会計には二つの側面があることが分かります。

 一つは損益計算書に減損損失を費用として計上することであり、もう一つは貸借対照表の資産価格を切り下げることです。

 減損会計は過去の負の遺産の解消であることは間違いありませんが、そのどちらを重視するかで、会社に対する見方は変わります。

 損益計算書の減損損失は当然、当期純利益の悪化を招き、損失金額が大きくなれば純損失になり、自己資本を侵食し、さらに巨額になれば債務超過の懸念も生じます。

 したがって、損益計算書の費用処理は当然、マイナスイメージを醸成します。

 一方、貸借対照表の資産価格の切り下げに焦点を当てれば、将来収益に対するプラスイメージを生みます。

 というのは、建物、機械等の有形固定資産の切り下げは将来の減価償却費の減少となりますし、定期償却を行っているのれんであれば、のれん償却費の減少を招くからです(日本の会計基準ではのれんは定期償却を行いますが、米国会計基準あるいはIFRS(国際会計基準)では定期償却を行いません)。

 つまり、貸借対照表の資産価格の切り下げは将来利益の増加要因として働きます。

 否定的なニュアンスの場合は損益計算書の費用処理が、肯定的なニュアンスの場合は貸借対照表の資産価格の切り下げがクローズアップされているというわけです。

 その受け取り方の違いは、減損を実施する会社の体力差から生じます。

 肯定的ニュアンス会社の場合はある事業で減損損失が出ても、他の好調な事業の利益でカバーして、黒字を維持でき、自己資本のマイナスを生じさせないのに対し、否定的なニュアンスの場合の会社は、減損処理により、自己資本を使い果たし、限界まで追い込まれてしまいます。

 キャッシュアウトを伴わない、見積もりと判断に依存する減損のような会計処理には、実施時期と実施金額にある程度の幅が存在することは否めません。

 それを決めるのは経営者です(会計監査人はその合理性を検証します)。

 追い込まれてする減損処理はさらに会社を弱らせるのに対し、余裕のあるうちの減損処理は将来の展望を開くものと理解されます。

 否定的ニュアンスで報じられる会社の場合でも、財務体力に余裕のあるもっと早期に減損を行う機会はあったかと思います。

 しかし、経営陣が経営悪化の表面化を恐れズルズルと引き延ばすと、追い込まれて減損をせざるをえなくなります。

 資産の費用処理は、許容される範囲で、できるだけ早く余裕のあるうちにしておいたほうが経営に与える打撃は少なくてすみます。

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