ひきこもりおじいさん#52 葉書
「その大澤さんと『会って貰いたい人』は、このあとどう繋がるんですか?」
隆史が信之介の話が一段落した所で、先を急かすように聞いた。スーパーあずさは単調なリズムを繰り返しながら、真っ白なキャンパスに水彩絵の具で色を塗ったような淡い薄暗さ漂わせている奥深い山間や田園地帯の中を脇目もふらずに進んでいる。車内には間もなく甲府に到着する旨を告げるアナウンスの無機質な声が静かに流れた。
「まぁ、そんなに急かさないでよ。大事なのはここからなんだからさ 」
そう言って信之介は急ぐ隆史を笑顔で諭し、一呼吸おくようにゆっくりとお茶を飲む。それから思い出したような動作で、ジャケットの内ポケットから葉書を一枚取り出して隆史に見せた。
「これは?」
「さっき言った、俺が赤坂で書いた葉書」
「へぇ・・・え?でも、なんで松田さんがこの葉書を?」
「ああ、それは二週間ぐらい前にさ、大澤さんと新宿で飲んだのよ。で、その時に大澤さんから葉書を見せて貰ったんだけど、つい飲み過ぎちゃってね。酔っ払って返し忘れちゃったんだ」
信之介にはまったく悪びれた様子もない。
「大丈夫なんですか?そんな軽い感じで」
「大丈夫、大丈夫。お互い酔ってたし、ちょくちょくあるから、そんなことは」
「いや、そうかもしれないですけど・・・」
隆史の脳裏に二人の酔っぱらいの姿が浮かんだ。
「読んでみる?これ」
「え?いいんですか?」
「もちろん」
そらから隆史は恭しい手つきで葉書を手に取った。
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